人事管理クラウドソフトウェアのワークデイ(Workday)が大きな契約を喪失したことが明らかになった。
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事情に詳しい関係者によると、アマゾンはワークデイ(Workday)の人事管理クラウドソフトウェアを全社展開する計画を中止した。
両社は2017年に提携を発表しているが、それからおよそ3年たった昨年、蜜月関係は終わりを迎えた。
アマゾンとワークデイの提携……アマゾンは2017年、給与計算「ワークデイ・ペイロール(Workday Payroll)」などワークデイの主な人事管理ソフトウェアを購入することで合意し、全社展開を約束。また、ワークデイはその数カ月前、同社のアプリケーションをアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)でホストすることを発表していた。
Insiderの上記報道を受け、ワークデイの株価は7月27日に7%以上下落した。
全社展開計画が失敗に終わったのは、ワークデイの導入以前にアマゾンが使っていたオラクル(Oracle)の業務アプリケーション「ピープルソフト(PeopleSoft)」からのコストフルな移行作業が何年も続いたため、と関係者は語る。
急増するアマゾンの労働力に完全に対応できるようワークデイは計画を進めたが、ソフトウェアの背後にあるデータベースをスケールさせるのに苦戦した模様だ。
今回の破談は、アマゾンのように巨大で複雑な企業をクライアントとして、クラウドソフトウェアを全社導入することの難しさを示している。
アマゾンのHR(人材)チームに詳しい関係者によれば、同社はいまだにほとんどの部署でピープルソフトを使っていて、ワークデイの人材管理ソリューションを導入しているのはライブストリーミング子会社のツイッチ(Twitch)など一部にとどまるという。
ワークデイはInsiderの取材にメールで回答を寄せ、アマゾンとの契約が終了したことを認めつつ、アメリカの売上高上位500社(Fortune 500)の45%以上は従来通りワークデイのソリューションを使っていることを強調した。
「アマゾンとのパートナーシップは依然として強固であり、将来的には導入を再検討する可能性もあります」(ワークデイ)
アマゾンの担当者は、ワークデイとの具体的な契約には言及せず、(詳しい関係者の情報通り)社内の一部がワークデイのソリューションを使用していることのみ明らかにした。
「当社内のいくつかの重要なチームが、引き続きワークデイを使用しており、同社との強固なパートナーシップは引き続き維持されます」(アマゾン)
詳しい関係者の話によると、アマゾンの幹部クラスのエンジニアのなかには、ワークデイへの移行が技術的に困難であると当初から予見していた者も複数いるという。
ジェフ・ベゾス前最高経営責任者(CEO)と意思決定にかかわる経営幹部から成る「Sチーム」に対し、当時技術的観点から上奏された提言は、ワークデイへの移行には相当なコストがかかり、成功する可能性は低いという内容だった。
ところが、ベゾスとSチームはその警告を受け入れず、結果として移行作業に数年をかけて資金や労力をたれ流すこととなった。
当時、ワークデイへの移行は全社的な優先事項とされ、HRチームは移行の手法について詳細な計画を作成する必要に迫られた。そのため、HR担当のようなエンジニア以外のスタッフの労力まで無駄になってしまったと、詳しい関係者は語る。
なお、今回の案件でInsiderの取材に応じてくれた関係者たちからは、社内での検討内容について誰が口外したのか特定されないよう要請を受けている。
アマゾンは世界最大規模の企業のひとつであり、ワークデイにとって今回の契約終了は大きな損失となる。
Insiderの記事公開後、ワークデイは自社ブログを更新。アマゾンにおけるソフトウェア全社展開の中止は(Insiderの指摘とは異なり)システムのスケーラビリティの問題ではなく、カスタマイズの問題によるもので、『相互に納得の上で(全社展開の中止に)合意した』と説明している。
「世界で最もユニークでダイナミックな企業のひとつであるアマゾンがまさにその例であるように、当社が幅広い顧客基盤に対して提供しているソフトウェアやサービスとはまた異なる、ほかにない独特なニーズを有する顧客もときに存在するのです」
(翻訳・編集:川村力)