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水素技術「総合的競争力ランキング」トップ10にトヨタほか日本4社。専門家は「特許数への慢心」に警鐘

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2020年12月に発売された、水素を燃料とするトヨタの新型燃料電池車「MIRAI(ミライ)」。2014年に初代が発表され、現在販売中のモデルは2代目。

REUTERS/Tim Kelly

2050年までに2.5兆ドル(約275兆円)の巨大市場に成長すると言われる、次世代エネルギーの有望株「水素」。

水からとり出せるクリーンな燃料として長年期待されながら、これまでなかなか普及に至らなかったが、気候変動対策をめぐる世界の急激な変化を背景に、国境を超えた開発競争がにわかに活発化している。

さて、この競争の主導権を握るのはどこなのか。まずは、下の【図表1】を見てほしい。

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【図表1】 2010〜19年の国別トータルパテントアセット(=特許ポートフォリオとしての総合的な競争力を計る指標)上位10カ国。

出所:アスタミューゼ「水素産業分野で日本の技術力は世界イチ!研究投資の中心は水素製造と燃料電池」

知的財産データベースを運営するアスタミューゼが、2010〜19年の10年間に全世界で出願された水素をめぐる特許を分析し、各国の総合的な競争力をランキング化したものだ(分析手法の詳細はリンクを参照)。

世界トップは日本。気候変動対策では欧米の先進国を後追いする姿勢が目立つが、水素活用技術については、2位の中国にダブルスコアという圧倒的な競争力を持っていることがわかった。

ぶっちぎり首位の原動力になっているのは、電気自動車(EV)シフトのトレンドに乗り遅れていると最近批判を浴びがちな自動車メーカーだという。

今度は下の【図表2】を見てほしい。前出のランキングを、企業(=特許の出願人)別に見たものだ。

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【図表2】2010〜19年のトータルパテントアセット上位企業20社。日本企業が9社ランクイン。

出所:アスタミューゼ「水素産業分野で日本の技術力は世界イチ!研究投資の中心は水素製造と燃料電池」

水素の活用技術について世界一の総合的競争力を持つ企業はトヨタ自動車。

2021年5月に開催された「スーパー耐久シリーズ2021 富士24時間レース」で同社の豊田章男社長が自らハンドルを握ったのは、ガソリンの代わりに水素を燃焼して走る「水素エンジン車」だった。

トヨタの水素技術にかける意気込みは生半可なものではない。

続く2位は日産自動車、4位に本田技研工業、7位にパナソニックと、世界トップ10に4社がランクイン。11位以降にも、住友電気工業、京セラ、日本特殊陶業、日本ガイシ、東レなど、素材メーカーがずらりと顔を揃えた。

なお、上記のほかに「競合他社に対して大きな脅威となりうる突出した特許を示す」指標に基づいたランキングも発表され、そこでは上位20社中12社をアメリカの企業・研究機関が占めていることを付記しておきたい。

家電業界での「惨敗」をくり返さないために

世界に誇る日本の水素活用技術。そこに死角はないのだろうか。

警鐘を鳴らすのは、りそなアセットマネジメントのチーフ・ストラテジストの黒瀬浩一氏だ(以下コメントはすべて同氏)。

特許を持っていることと、(互いに補完し合う特許を持つパートナーと)製品を開発する力があること、さらに低コストで大量生産するグローバルなサプライチェーンを組めることは、まったく次元が違う話。混同して考えるのは非常に危険です」

実は、日本には特許数の多さに満足して状況を見誤った過去がある。2000年代の家電業界だ。

「当時の家電業界も株式市場も、いまでは想像できないほど楽観的で、日本が世界で一人勝ちすると思われていました。その根拠となっていたのが『世界一の特許数』であり、『日本の製造業の現場は強い』という漠然とした論調でした」

2001年に中国が世界貿易機関(WTO)に加盟し、日本でも2000年代前半にはグローバルなサプライチェーンを組める体制が整いつつあった。

「にもかかわらず、日本企業はチャンスを活かそうとせず、国内に引きこもった。ドメスティックなサプライチェーンへと逆行した。その代表例が、シャープの亀山工場です。

液晶テレビ『AQUOS(アクオス)』の生産拠点として稼働開始した当初は『世界のカメヤマ』『カメヤマ・モデル』などと称賛されましたが、海外の関係者たちは、賃金が中国の7〜8倍にもなる日本で大量生産なんてできるわけがないと見ていました。

そして、その見方は正しかった。シャープはその後経営危機に陥り、2016年には台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に買収されるという幕切れでした」

用心すべきは特許数への慢心だけではない。黒瀬氏は特許をめぐるリスクを示す例として、日本でも大ヒットした羽のない扇風機、ダイソン「エアマルチプライアー(Air Multiplier)」の発売に至るプロセスを引き合いに出す。

「羽根のない扇風機の基本特許を東芝が持っていたのは有名な話。ただし、東芝は素晴らしい特許を持ちながら、自社では製品化できなかった。ダイソンは東芝の特許が切れるのを待ち、満を持してエアマルチプライアーを市場投入し、大ヒットに至ったわけです。

電子ブックも同じ流れでした。世界で初めて電子ブックを生み出したのはソニー。けれども、ソニーはアナログ電話回線の時代にすべてを自社でやろうとした。最初からメディアなど関係する知見を持った他社や他業界と組んでいれば、まったく違う展開になったはずです」

有望な技術や特許がありながら、あえなく撤退した最大の要因は「エコシステム」の発想がなかったことだと、黒瀬氏は指摘する。

東芝もソニーも、製品開発や大量生産に向けて業界や国境を超えた協業体制、すなわちエコシステムを構築する発想がなかった。ひとことで言えば自前主義。それが最大の敗因です。

もし仮に、東芝が外部と組んで扇風機を製造しようとしたら何が起こったでしょうか。同社グループ内には扇風機を製造する部門があるので、とも食いが発生するのです。それを回避するには、事業ポートフォリオを組み替えるM&A(合併と買収)の発想と戦略が必要になります。

水素活用技術についても、特許を軸にすべてを自前でやろうとするようでは、同じ轍(てつ)を踏むことになると思います」

(取材・文:湯田陽子)

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