アマゾンの倉庫内。書籍や雑誌部門。
Jacques Langevin/Sygma/Sygma via Getty Images
アマゾンは迅速な出荷と手ごろな価格でオンライン小売りの世界に革命を起こした。しかし、企業行動と温室効果ガスの排出について、世間の批判を浴びてもいる。
アマゾンの良いところ、悪いところを整理してみた。
アマゾンは事業運営に必要なエネルギーの多くをグリーン電力などでまかなっている
アマゾンの前最高経営責任者(CEO)、ジェフ・ベゾス。
Paul Morigi/Getty Images
2020年、企業として世界で最も多くの再生可能エネルギーを購入。年間エネルギー消費量の65%を再生可能エネルギーで手当てした。
アマゾンは2040年までに二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロにする計画
Bing Guan/Reuters
前最高経営責任者(CEO)のジェフ・ベゾスは、パリ協定の目標年より10年前倒しの2040年までに実質ゼロを目指す「気候変動対策に関する誓約(クライメット・プレッジ)」の共同発起人。今日(2021年8月11日)までに114社が署名。アマゾンも目標達成のための計画を策定済み。
アマゾンはパンデミックのさなか、従業員に高額の賞与や手当を支給
アマゾンの倉庫従業員。
Amazon
コロナ対応の一環として、賞与および危険手当として総額25億ドル(約2750億円)超を支給。
アマゾンは従業員のための新型コロナワクチン接種会場を設置
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米ミズーリ州、カンザス州、ネバダ州の各拠点では、最前線で働く従業員向けに独自のワクチン接種会場を設置。また、全拠点の従業員にワクチン接種を促すインセンティブとして最大80ドル(約8800円)を支給。
アマゾンは倉庫作業員などを対象にキャリアトレーニングを実施
ロボットを駆使するアマゾンの倉庫内。
Isobel Asher Hamilton/Insider
2020年、倉庫・運送・オフィス業務など下級職の従業員向けキャリアトレーニングに5年間で最大7億ドル(約770億円)を拠出することを約束。
アマゾンは、黒人起業家や黒人経営の企業をサポート
Courtesy of WDB Marketing
アマゾンは「ブラック・ビジネス・アクセラレーター」を設立。黒人起業家がアマゾンのプラットフォーム上でビジネスを成長させるためのサポートに1億5000万ドル(約165億円)を拠出すると約束。
なお、同アクセラレーターはアマゾンの従業員、ティファニー・ジョンソン、リチャード・ルイス、ジェレミー・エルドマンの3人を中心に設立された。
アマゾンは退役軍人雇用の自主目標をクリア
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アマゾンは4万人以上の退役軍人を雇用し、2021年までに2万5000人としていた目標を大幅に上回った。新たに2024年までに10万人の退役軍人およびその配偶者を雇用する計画を発表。
アマゾンの最低賃金は高い
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全従業員の最低賃金は時給15ドル(約1700円)。連邦最低賃金(7.25ドル)の倍以上。
アマゾンは家族休暇制度が充実
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全額支給の育児休暇が20週間、養子縁組時にも6週間の有給休暇オプションが用意されている。
アマゾンは消費者から高い評価を得ている
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調査会社モーニングコンサルトが調査・集計したランキング「最も愛されるブランド」(2020年版)では、アマゾンが4位、アマゾンプライムが7位。
ニュースサイトのアクシオス(Axios)と世論調査会社ハリス・ポール(Harris Poll)による大手企業の評判ランキング(2021年版)では、アマゾンは10位。7つの指標に従った採点で「優秀」との評価を受けている。
アマゾンは医療保障制度が充実
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すべてのフルタイムおよびパートタイムの従業員に対して、入社日以降、包括的かつトランスインクルーシブな医療保障制度が提供される。
アマゾンはマーケットプレイスでスモールビジネスの成長を支援
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アマゾンの社内レポートによれば、マーケットプレイスには190万社以上の中小企業が出品し、販売総額の6割以上を占めている。
アマゾンは配送車の電動化に多額の投資を行っている
Amazon
電気自動車(EV)スタートアップのリビアン(Rivian)と提携し、アマゾン仕様のEVバンを生産。2022年までに1万台、2039年までに10万台の導入を目指している。
アマゾンはLGBTQの従業員にとって働きやすい職場として高い評価を得ている
Reuters
人権NGOヒューマン・ライツ・キャンペーン財団の「企業平等指数(CEI)2021」では、職場の平等性について満点(100%)の評価を受け続けている。
アマゾンスマイルは毎年数百万ドルを慈善団体に寄付している
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2013年にローンチした寄付プログラム「アマゾンスマイル(AmazonSmile)」では、マーケットプレイスでの購入額の0.5%を、登録されている100万以上の慈善団体から選んで寄付できる。
アマゾンは同プログラムを通じて、これまでに2億9300万ドル(約320億円)以上を世界各国の慈善団体に寄付したと発表している。
アマゾンは次世代のエンジニア育成に注力している
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「アマゾン・フューチャー・エンジニア(Amazon Future Engineer)」は、5000校、55万人以上のK-12(幼稚園から高校卒業までの13年間)の子どもたちに、STEM(科学・技術・工学・数学)教育とアウトリーチ(教育機関支援)プログラムを提供する取り組み。
プログラムの一環として、大学進学する100人の生徒に4年間、毎年1万ドル(約110万円)の奨学金を支給。併せてアマゾンでの有給インターンシップの機会を提供している。
ここからはアマゾンの悪いところ。倉庫作業員の厳しい労働環境がたびたび指摘される
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労働組合連合や労働者の擁護擁護グループから成る「ストラテジック・オーガナイジング・センター(Strategic Organizing Center)」が公表した分析レポートによると、アマゾンの倉庫作業員の負傷発生率は、他の倉庫業者に比べて80%近く高かった。
問題は倉庫内での長時間労働だけではない。Insiderが以前報じたように、アマゾンのドライバーは大きな割当量を時間内に配送し終えるため、トイレ時間を節約してペットボトルを使った排尿を強いられていた。そのくらい激務というわけだ。
先述の分析レポートについて、アマゾンの広報担当は次のような声明を出している。
「私たちは職場の健康と安全性を向上させる専門チームを6200人以上に増やし、新たな安全対策を導入するため、2020年に10億ドル(約1100億円)以上を投資しました。
具体的には、労働災害を減らすプログラム「ワーキングウェル(WorkingWell)」を全事業拠点に導入し、新型コロナ感染を防ぐ新たな技術と作業工程、個人用保護具(PPE)の配備、洗浄と消毒の徹底を進めました」
アマゾンが米アラバマ州での労働組合結成に向けた従業員投票で弄した「戦術」に批判が集まっている
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小売・卸売・百貨店労働組合(RWDSU)は2021年4月、米アラバマ州ベッセマーにある物流倉庫の従業員が、労働組合結成の是非をめぐる投票で圧倒的多数の反対票を投じたことを受け、全米労働関係委員会(NLRB)に異議を申し立てると発表した。
RWDSUは、アマゾンが従業員に対して不公正な威嚇(いかく)戦術を用い、投票に干渉したと主張している。
アマゾンの広報担当はInsiderの取材に対して次のように回答している。
「組合幹部や政策立案者、さらには一部のメディアまで加わって、幾重にもおよぶ(組合結成賛成)キャンペーンが行われましたが、結果として、当社の従業員は組合結成を断固拒否したのです。
NLRBには本件をめぐる事実関係をすでに提示しており、ヒアリングオフィサー(公聴会担当者)の決定を待っている段階です」
アマゾンは巨額の租税回避策で有名
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2019年2月、アマゾンが前年および前々年の連邦法人所得税を1ドルも支払っていないと米CNBCが報じ、大きな話題を呼んだ(炎上した)のを覚えているだろうか。
アマゾンは2020年2月、およそ17億ドル(約1870億円)の連邦所得税を支払ったことを自社サイトで明らかにした。
アマゾンの広報担当はInsiderの取材にこう回答している。
「2020年、アマゾンは17億ドルの連邦所得税、約20億ドルのその他連邦税、さらに26億ドルの州・地方税も支払いました。また、180億ドルの売上税を(販売手数料経由で)徴収して納付し、州・地方の財源を充実させるのに貢献しています」
アマゾンの監視技術が批判を浴びている
Amazon
多くの消費者がアマゾンのスマートホーム技術の恩恵を受ける一方、プライバシー擁護団体からは、同社の労働者監視の実施手法や消費者データの取り扱いに憂慮すべき傾向があるとの指摘が出ている。
アメリカ自由人権協会(ACLU)は、アマゾンが監視技術を開発していると批判。直近では、スマートデバイス間のデータ共有ネットワーク構築に資する新たな通信技術「サイドウォーク(Sidewalk)」や、配送ドライバーの監視デバイス「ドライバーアイ(Driveri)」を槍玉に挙げている。
アマゾンの広報担当はこう説明する。
「お客さまのプライバシーとセキュリティの保護は、サイドウォーク設計の基礎中の基礎です。データを安全に保ち、お客さま自身がコントロール可能な状態を維持するために、プライバシーとセキュリティが何層にもわたって組み込まれています」
アマゾンはスモールビジネスを支援していると言いながら、実は毀損しているとの批判も
JENS-ULRICH KOCH/DDP via Getty Images
非営利調査機関「インスティテュート・フォー・ローカル・セルフリライアンス(Institute for Local Self-Reliance)」は、2021年6月に発表したレポートで、アマゾンがスモールビジネスの出品者に対し、同社の倉庫スペースを賃借することを奨励したり、他社のマーケットプレイスで割引販売していないかどうか監視したり、同社のさまざまな行動を疑問視している。
米下院司法委員会が2020年に公表した巨大IT企業の反競争的行動に関する報告書では、アマゾンが自社製品とサードパーティ製品を自らのマーケットプレイスで同列販売することは、「利益相反にあたる」と指摘している。
しかし、アマゾン側は利益相反を否定している。
「アマゾンは搾取にあたるような価格設定を行っていません。サードパーティの出品者は、2020年に少なくとも250億ドル(約2兆7500億円)の利益をあげたと推定しています」
アマゾンは「企業市民ベスト100社」に選ばれていない
AP Photo/Julio Cortez
米コーポレート・レスポンシビリティ誌は毎年「企業市民ベスト100社」リストを公表しているが、2021年版にアマゾンは選出されていない。
アマゾンはさまざまな形でサステナビリティの実現にコミットしているが、環境活動家はそうは見ていない
AP
国際環境保護団体グリーンピース(Greenpeace)が2020年に公表したレポートによれば、アマゾンは「気候変動対策に関する誓約(クライメット・プレッジ)」に署名した年に、その前年より多くの二酸化炭素を排出している。
グリーンピースはInsiderの取材に対し、こう指摘する。
「アマゾンの取り組みを信用に足るものと評価するには、CO2排出量データを公表する以上のはるかな透明性が必須です。
次の10年間でいかにして化石燃料からの脱却を進めるのか、あらゆる企業に具体的な計画が求められています。また、植林などで排出量を相殺するカーボンオフセットに満足せず、より根源的な脱炭素に優先的に取り組むコミットが必要です」
アマゾンの広報担当はInsiderの取材にこう答えている。
「私たちは時間をかけて、二酸化炭素排出量を削減するための取り組みを続けており、2020年には大きな進展がありました」
総合的に見て「良いところもあれば悪いところもある」
アマゾンのジェフ・ベゾス前CEO。後継者のアンディ・ジャシー政権ではどんな変化が訪れるか。
Jason Redmond/Reuters
企業の社会的責任に関する情報プラットフォーム「CSRHub」によると、アマゾンのCSR・環境・ソーシャルガバナンス相対評価は58%。
「許容範囲」(50~59%)内で、「良い」(60~79%)まであとわずかながら、「素晴らしい」(80~99%)にはほど遠い。
結局のところ、消費者はアマゾンで買い物することを良しとするかどうか、こうした情報を参考にしつつも、自身で選択していく必要がある。
[原文:16 reasons to feel good about buying from Amazon, and 7 reasons not to]
(翻訳・編集:川村力)