「サステナブル」の認知度が高いZ世代。その一方で「サステナブル疲れ」の声も……。
提供:牧島夢加
近年SDGsの提唱を筆頭に、サステナブル(持続可能な)という言葉を耳にする機会が多くなっています。もちろん若者の間でも珍しいワードではありません。
朝日新聞社の「SDGs認知度調査 第6回報告」によると20代が最もサステナブルに対する認知度が高いと示されています。
一方で、急速にブーム化したことへの「サステナブル疲れ」もZ世代の間では起こっています。商品・サービスのアイデア着想に活かせる若者研究を提供するプランニング組織「Zs」でのインタビューから分かる、Z世代が直面している「サステナブルの悩み」とはなんでしょうか?
就活にまで「サステナブル講座」
まず前提として、Z世代にとってすでにサステナブルとは、興味のある人だけが学べる「選択科目」ではなく、全員学ばざるを得ない「必修科目」として捉えられています。
具体的には、大学の英語の授業の課題にサステナブルが設定されていたり、サステナブルな活動を支援するインターンが経験できたりと、非常に身近なところに学ぶ機会が用意されています。
大学の授業でSDGsに関する課題が出る時もあるそうだ。
提供:牧島夢加
高校生の「Zs」メンバーからは、学校でSDGsをテーマにしたポスター展が開催されると聞いた。
提供:牧島夢加
さらに、Zsのインタビューに参加したZ世代の就活生メンバーの男性からは、企業の説明会にも「SDGsセミナー」が存在するケースがあると聞きました。彼自身、社会人としてSDGs資質を持っているかどうかがもはや問われているような気がするとも話していました。
インタビューを受けたZ世代の就活生に届いたSDGsセミナーの案内。
提供:牧島夢加
このように、Z世代はサステナブルに対してのインプット機会が上の世代に比べて格段に多い、と言えると思います。
学校でサステナブルについて学んできたというあるZ世代の女性は、世の中にサステナブルとうたわれる商品が増えてきていることに対して、こんな声を漏らしていました。
「サステナブルだとうたっているブランドも信用してはいけないと思う。『サステナブルとうたわれてるから買う』は、サステナブルな行動じゃないのでは」(20歳・女性)
必要最低限なものだけで生きることが一番のサステナブル行動だと考えている彼女は、サステナブル商品だからといって飛びつくことがないようにしているのです。
サステナブルマウンティングが友人同士に存在
サステナブル行動について懐疑的な意見を持つメンバーが、一歩引いた目で見てしまう理由はもう一つあります。
それはサステナブル行動を「キャラ作り」として利用する同世代が身近に出てきていることへの、ある種の嫌悪感です。購入したサステナブル商品をSNSで毎週投稿したり、ペットボトルを利用していると批判してくる子なども周りにいると言います。
Z世代の間では、こうした「サステナブルマウンティング」なる現象も現れているようです。
「インスタで、オーガニック商品を週1で紹介している投稿を見ていると、ちょっと引いてしまう。本当にその商品買いたくて買ってる?と思う」(20歳・女性)
一番手軽に入手しやすいサステナブル商品、ステンレスストローが同世代の間で「ブーム」として流行ったことでマウンティングを感じたZ世代もいました。
再利用可能でエコだとして「ブーム」となったステンレスストロー。
画像:Shutterstock
「サステナブル商品をいろんな企業が真似し始めると、お金儲けのためなのでは?と思ってしまう。ストローを使わなくても飲めるカップにするとか、何らかの行動だと信頼できる」(20歳・女性)
もちろん本気で取り組んでいる同世代の友人たちも彼らの周りには存在します。
しかしそういった友人は誰かに見てもらうことを求めてわざわざSNSに投稿などはせず、自分の中で完結している、と言います。
またこうした本気で取り組んでいる若者は、日本よりも海外のZ世代の方が多い印象だとも。インタビューに答えたZ世代の友人である、デンマークやオランダにいる現地の学生は実際に次のような行動を起こしていました。
「(デンマークやオランダにいる友人たちは)モノを買うよりも、日常的にいろいろな方面で気をつけている。服は古着、アクセサリーはハンドメイド、エシカルな美容院にいって、ナプキンではなく月経カップ、みたいにストレスを感じない範囲で行動している」(20歳・女性)
こうした海外の情報もSNSで入ってくるからこそ、先ほどのステンレスストローのように「サステナブル」と大々的に喧伝されている商品には不快感を覚えてしまうのではないでしょうか。
サステナブル行動は「心の余裕」があるときに
Z世代にとってはクリーンアップ(清掃)も自然な活動だ。
提供: 大園鉄平(環境活動家)
そうは言っても、全てのサステナブル活動が若者に刺さらないわけではありません。
Z世代に話を聞くと「地球環境のためよりも、むしろ自分のため」にサステナブルに関する行動をしている人も多いようです。
「サステナブルな行動をすると、自分の心がキレイになっていく感覚がある。筋トレと同じで、お金と時間に余裕があるときにできるもの」(24歳・男性)
自分がいつもより少し高いお金を出してまでサステナブル商品を買える金銭的余裕、マイボトルを使い回すなどといった手間ひまのかかることを許せる時間的余裕があるときに心の余裕があると認識しています。
学校で学んでいるからこそ、企業がうたう表面的な「サステナブル」にも冷静なZ世代。
企業のサステナブル活動にも「余裕がありそうなブランドでないと信用できない」と話す人もいました。
「ハイブランドが動物の皮を守って作っていますと言われれば、それだけの値段がするから本当だと思うし、安い革製品ブランドがサステナブルですと言っても嘘でしょと思う」(24歳・男性)
大企業だからこそサステナブル活動に投資できる余裕さに安心感を感じるという意見を持つメンバーもいれば、D2Cブランドなど小さいブランドだからこそ一貫してサステナブルを語り続けられる余裕さに信頼をおけるという意見のメンバーもいました。
「大企業のサステナブル活動はマーケティング臭がする。イメージ改善の施策としてやっている気がする。できたときからサステナブルを哲学としてやっているD2Cブランドとかの方が本気度が感じられる」(20歳・女性)
しかし共通してチェックしているのは、継続性のある行動なのかどうかです。一時のマーケティング施策にしか見えない場合は、PR案件に敏感なZ世代にはネガティブに捉えられるようです。
Z世代には「後からサステナブル」が刺さる?
ブーム化する「サステナブル」商品に対し、Z世代からは軽い気持ちでは乗らないようにする姿勢が感じられます。彼ら・彼女たちにとって、サステナブルとは地球のためではなく、むしろ自分のためにやっている行動。
そうした観点から、筆者が提案したいのは「後からサステナブル」です。
結果的に購入した商品やサービス体験が、実はサステナブル活動に繋がっていたと二次的に分かる「後からサステナブル」に設計するのがポイントなのではないかと考えます。
例えば、若い女性に人気なアパレルブランドを取り扱う「USAGI ONLINE」でサステナブルTシャツを購入した学生は、サステナブルな商品だからではなく、自分好みのデザインだったという理由が一番でした。
他にも、本来廃棄されるはずだった古着のデニムを再利用した「アップサイクルデニム」を使用していることを、購入後に商品タグで後々知ったなどという話もありました。
対象者の購入商品。購入した際にアップサイクルデニムだったとタグで後から気づいたそう。
提供:牧島夢加
サステナブルに一歩引いた姿勢で構えているZ世代に受け入れられるためには、サステナブルを第一にうたうより、「楽しそう」「可愛い・かっこいい」「自分にとって嬉しい」といった感情をまずは持ってもらえるかどうかか。そうして手にとってもらった「後からサステナブル」が、カギとなってくるのではないでしょうか。
牧島夢加:SEEDATA Futurist(フューチャリスト)/ 若者攻略に特化したプランニング組織「Zs」代表。現役大学生らと共に、Z世代を中心とした若者の思考回路や消費行動を分析し、その知見をもとにクライアントの次世代攻略プロジェクトに活用。プライベート活動では、身の回りで本当に起きている若者のSNS行動や消費行動をテーマにしたブログ「ワカモノのトリセツ」を学生時代から運営。等身大で若者の価値観や行動を分析し執筆している。