出典:日産サステナビリティセミナーよりキャプチャ
日産自動車は7月30日、同社のESG(「環境」「社会」「ガバナンス」)に関する取り組みや考え方を取りまとめた「サステナビリティレポート2021」を公開した。
日産がサステナビリティレポートを公開したのは今年で18年目。2021年版では全273ページをさいている。
世界的に脱炭素社会への取り組みが注目されるなかで、欧州委員会は7月、EU域内の新車供給を電気自動車(EV)のみに限定する野心的な案を打ち出した。これが、いわゆる「2035年ハイブリッド車販売禁止」方針として報道され、今後どんな形で立法化されうるのか注目が集まっている。
欧州の「2035年HV販売禁止」案が実現しても日産「十分に達成可能」
日産は、6月から国内予約を開始した人気のクロスオーバータイプのEV「アリア」や、普及価格のEV「リーフ」といった電気自動車のほかに、e-POWERと呼ばれる、発電専用エンジンで作り出した電力で自動車を走らせるハイブリッド技術の一種も得意とし、複数の主力車種に採用している。
日産のe-POWER搭載車種。燃費性能を武器に、主力モデルでの採用を続けている。
撮影:伊藤有
2月には、e-POWER向けエンジンで、世界最高レベルの「熱効率50%」という、高効率化の目処がたったと発表したばかり。現代のエンジンの熱効率は30%台が一般的で、今後技術が進んでも40%台だろうと言われるなかでの発表で、話題を集めた。
一方、e-POWERはエンジンの動力で直接走るわけではないとはいえ、燃料を燃やすことは事実だ。日産の脱炭素への道を描く上で、欧州委員会の先鋭的「HV車販売禁止」の方針をどう見るのか。
報道陣のラウンドテーブルに参加した日産の専務でチーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSO)の田川丈二氏は、欧州委員会の方針に関するBusiness Insider Japanの質問に対し、
「EUのポリシーが出たときにも、一部の国からは、あるいは一部の会社からは、それは現実的な目標なのかと(の声が上がっている)。あるいは気候変動に対して2035年にガソリン車を禁止することだけが良い目標じゃないのでは、という議論があることは我々も承知しています」
とした上で、欧州委員会の理念の趣旨を考慮すると、e-POWERも(EUでは)ハイブリッドの1種と解釈され、欧州委員会が検討する禁止カテゴリーに含まれうる、との見解を示した。
出典:日産サステナビリティセミナーよりキャプチャ
一方、日産は7月1日に新ビジョン「EV36Zero」として、イギリスに10億ポンド(約1526億円)規模のEV生産ハブへの投資も発表している。
田川氏はEV36Zeroへの投資を背景として、
「欧州では非常に多くが電動車になるだろうと(見ている)。(仮に欧州委員会のポリシーが現実になったとしても)我々としては十分達成可能な目標」
と答え、将来的にEUがEVのみの市場になったとしても、日産の脱炭素の目標は達成できるとの見解を示した。
脱炭素に向けた規制案は各国でポリシーが異なるのが現状だ。
ハイブリッド車を容認する国では「(再生可能エネルギーを使って合成する)e-Fuelのようなカーボンニュートラル燃料を使えば、e-POWERも限りなくカーボンニュートラルに近づく」と、e-POWERも脱炭素・気候変動に貢献する技術だとする。
田川氏は一方で、自動車業界全体として目指すべきは、あくまで「気候変動にどう対応していくか」で、いつガソリン車を禁止にするか、という話ではない、とも強調。
「我々が取り組むべき目標は、何年何月にガソリン車を禁止するとか、何%をEVにするとか、それが課題ではない。(あくまで)気候変動にいかに対応するか、ということだ」とした上で、「2035年、40年、50年と、我々内部ではロードマップをもって、この地域ではこうした車を売れる可能性がある、あるいはこうした技術が必要なんじゃないか、と(議論している)。(今後も)各国のポリシーを注意深くみていきます」としめくくった。
(文・伊藤有)