グーグルクラウド(Google Cloud)の最高経営責任者(CEO)、トーマス・クリアン。法人向けソフトウェア大手オラクル(Oracle)の出身。
Insider Intelligence
グーグルクラウド(Google Cloud)は2021年第2四半期(4〜6月)に過去最高の売上高を記録したばかりだが、複数のアナリストによれば、このあと想定されるいくつかの「悪夢のシナリオ」をたどった場合、アマゾンやマイクロソフトとのクラウドビジネス競争で後退するおそれもあるという。
ガートナー(Gartner)の調査によると、グーグルクラウドの市場シェアは6.1%。アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)の40.8%、マイクロソフト「アジュール(Azure)」の19.7%に比べると大きく見劣りするものの、大きな成長を遂げつつあることは確かだ。
グーグルクラウドの第2四半期の売上高は46億ドル(約5000億円)。前年同期比で54%増となり、アマゾンとマイクロソフトを加えたクラウドプラットフォーム「ビッグスリー」のなかで最大の成長率を記録した。
にもかかわらず、複数のアナリストが、同社の成長を妨げ、アマゾンやマイクロソフトに追いつく夢を悪夢に変えてしまうおそれのある「3つの難題」の存在を指摘する。
1. 独占禁止法との闘いに集中力をそがれるシナリオ
最も直接的な競合相手であるマイクロソフトは、反トラスト法(日本の独占禁止法に相当)による監視の目を(12年にわたる訴訟と和解を経て)脱しているが、グーグルはいまそれに直面している。
調査会社フューチュラム・リサーチ(Futurum Research)のダニエル・ニューマンはこう指摘する。
「(アマゾンとマイクロソフトという)最有力企業2社と同時に対峙しようというだけで、集中力は分散されてしまいます。その上で、規制当局とも闘わねばならないとなれば、それはグーグルクラウドにとってさすがに素晴らしいシナリオとは言えないでしょう」
モバイル・ワイヤレス分野専門の調査会社CCSインサイト(Insight)のニック・マクワイアもニューマンの指摘に同調する。
「規制当局による監視は、グーグルクラウドに対するよりネガティブなイメージを生み出し、それが顧客離れにつながるおそれがあります。
グーグルクラウドはそんな状況下でも市場の信頼を勝ちとるためにさまざまな取り組みを続けているのですが、同社と長期的なパートナーシップを構築するという視点で考えたときに、規制当局との摩擦があまりに大きく受け入れがたいという企業は出てくると思います」
2. 米国防総省との新たな契約に参加できないシナリオ
米国防総省は7月6日、100億ドル規模の大型クラウド事業「JEDI(Joint Enterprise Defense Infrastructure)」について、マイクロソフトとの契約を解除した。
マイクロソフトとアマゾンがファイナリストに選出され、マイクロソフトが勝利して一度は契約に至ったものの、選定プロセスにトランプ前大統領が影響力を行使した可能性などアマゾンが不服を申し立て。
米連邦請求裁判所は事業の一時差し止めを命令し、一方で国防総省がプロセスに問題はなかったとのレビュー結果を発表するなど、問題は長期化の様相を呈したが、最終的には国防総省が白紙に戻して仕切り直す方針を表明した。マイクロソフトとの契約解除はその区切りとなった。
同省は、複数のクラウドベンダーと契約(マルチベンダー方式)する「JWCC(Joint Warfighter Cloud Capability)」を後継事業として、2022年4月までの業者選定を目指している。
さて、グーグルクラウドは企業価値の不足を理由にJEDIの選定対象から漏れたとされるが、新たにマルチベンダー方式のJWCCに参画できれば、(国防総省にクラウドインフラを提供する企業として)信頼性を一気に高めることができる。
そのため、グーグルクラウドは今度こそ対象から除外される事態を避けたいと考えている模様だ。
「もし除外されれば、グーグルクラウドとここまで積み上げてきた実績に疑問符がつくことになります」(ニューマン)
3.最大の悪夢はいつまでたっても利益が出ないシナリオ
グーグルクラウドにとって最悪のシナリオと言うべきは、巨大な競合相手にいつまでたっても追いつけない展開だ。
米金融グループ、シノバス・ファイナンシャル(Synovus Financial)のダン・モーガンは「市場の主要なプレーヤーに決してなれない、並み居る低価格クラウドプロバイダーの1社で終わる可能性もある」と指摘する。
グーグルクラウドはアマゾンやマイクロソフトに追いつくため、インドに新リージョンを開設するなど、人材確保とデータセンター新設に巨額の投資を行ってきた。
ブルームバーグ記事(7月26日付)によれば、2019年に就任したトーマス・クリアン最高経営責任者(CEO)のもと、グーグルクラウドは従業員を2万5000人から3万7000人へと大幅増員している。
しかし、そうした取り組みに見合ったリターンが得られるかどうかは不確定だ。
同社は冒頭で述べたように四半期の売上高で過去最高を叩き出し、赤字幅も減らしたものの、まだ利益は出せていない。
米証券大手エドワード・ジョーンズのデイブ・ヘーガーはこう見る。
「グーグルがクラウド事業にこれからも継続的かつ大規模な投資を行い、それでも利益が出てこない、あるいは投資に対して十分なリターンが得られない、そんな展開こそが悪夢シナリオと言えるでしょう」
グーグルに取材を求めたが、コメントを控えるとの回答だった。
[原文:Experts say these are the 3 nightmare scenarios for Google Cloud]
(翻訳・編集:川村力)