バタフライ星雲NGC6302。中心にある恒星が最期を迎え、ガスを吐き出している「惑星状星雲」。
出典:NASA, ESA and J.Kastner (RIT)
夏の夜空を見上げると、デネブ、アルタイル、ベガに代表される「夏の大三角形」をはじめとした星々がキラキラと瞬いて見える。
星々が瞬いて見えるのは、地球の大気が“揺れて”天体観測を邪魔しているからだ。では、もし大気のない宇宙空間で天体を観測できたなら、よりはっきりと宇宙の姿を捉えられるのではないだろうか?
そんなアイデアから作られたのが、いわゆる「宇宙望遠鏡」。
2021年4月に稼働31周年を迎えたNASAの「ハッブル宇宙望遠鏡」は、その代表例だ(以下、ハッブル望遠鏡)。
ハッブル望遠鏡は、「ハッブル=ルメートルの法則」という宇宙の膨張と関係する法則を提唱したアメリカの天文学者エドウィン・ハッブルの功績からその名が付けられている。
これまでに150万回を超える観測を実施し、4万8000個もの天体を確認。
その観測データをもとに1万8000本もの論文が世に出された(数字は2021年4月時点のもの)。
2003年から行われた人が観測可能な宇宙の「果て」を撮影しようという「ハッブル・ウルトラ・ディープフィールド」の観測ミッションでは、134億光年遠くの銀河の観測に成功(人が観測可能な領域は138億後年まで)するなど、天文学史に残る貢献も多い。
ハッブル望遠鏡のおかげで、この30年間の天文学は大きく前進したわけだ。
しかし、さすがに30年の間に老朽化が進み、これまでに何度も機器のトラブルが起こっている。
2021年6月13日にはコンピューターに不具合が生じ、セーフモードに移行していた。現在はバックアップコンピューターへの切り替えが成功し、復旧している。
いくつものトラブルを乗り越え観測を続けるハッブル望遠鏡が捉えた、美しい宇宙の姿を見ていこう。
※ハッブル望遠鏡は、本来人の目には見えない紫外線や赤外線の光も観測している。ここで紹介する画像は、紫外線などの光にも擬似的に色をつけた擬似カラー画像だ。
宇宙には2兆個以上の「銀河」があると言われている。銀河とは自ら光り輝く数千億個の星々(恒星)の巨大な集合体だ。太陽系は「天の川銀河」の端にあり、天の川銀河には2000億個の恒星が存在している。
ACOS295銀河団
出典:ESA/Hubble&NASA, F.Pacaud, D.Coe
地球から1億2000万光年遠くの銀河。ハッブル望遠鏡では銀河の中の星までこんなにはっきりと見える。
NGC691銀河。1光年は光が1年かけて進む距離。約9兆4600億km。
出典:ESA/Hubble&NASA, A.Riessetal.; Acknowledgment: M.Zamani
銀河はその形によって、渦を巻いた「渦巻銀河」、渦がなく楕円形に見える「楕円銀河」などに分類される。
3億5000万光年遠くのペルセウス座銀河団の一部。左上が楕円銀河。右下が渦巻銀河。
出典:ESA/Hubble&NASA, W.Harris; Acknowledgment: L.Shatz
2つの銀河が衝突して、合体することもある。銀河が合体すると、それぞれの銀河でまとっていたガスが密集して、新たな星が生まれることも。約40億年後には、太陽系が存在する天の川銀河とアンドロメダ銀河が合体すると言われている。
2億7500万光年遠くのくじら座にある銀河。
出典:ESA/Hubble&NASA, R.Chandar
ガスやちりが集まって雲状に見える天体を「星雲」という。この星雲はガスが蝶の羽のように見える「バタフライ星雲」だ。星雲の名前はユニークなものが多い。ほかに、キャッツアイ星雲、ドーナツ星雲などもある。
バタフライ星雲NGC6302。中心にある恒星が最期を迎え、ガスを吐き出している「惑星状星雲」。
出典:NASA, ESA and J.Kastner (RIT)
星雲の中ではガスの密度が高い場所で恒星が生まれやすい。その後、恒星の周りにガスや塵などが円盤状に広がった「原始惑星系円盤」がつくられ、惑星が作られる。太陽系も同じように誕生したはずだ。
2万光年遠くのWesterlund2星団。
出典:NASA, ESA, the Hubble Heritage Team (STScI/AURA), A.Nota (ESA/STScI) and the Westerlund2 Science Team
たくさんの恒星が互いの重力で集まった集団を「星団」という。恒星の温度はさまざま。質量が大きく若い星ほど高温で、赤い星は約3000度、白い星は約1万度、青い星はそれ以上高温で数万度にもなる。
アメリカ独立記念日に合わせて公開された、アメリカ国旗のような赤白青のNGC330星団。
出典:ESA/Hubble&NASA, J.Kalirai, A.Milone
将来「超新星爆発」を起こすと考えられている“死に際”の星。恒星が光り輝くための燃料である水素ガスが燃え尽きると、恒星は死を迎える。恒星の質量によって死のパターンが異なるが、超新星爆発はその一つだ。恒星は超新星爆発寸前に最も高温になり明るく輝く。
AGCarinae星。ハッブル望遠鏡31周年に掲載された、天の川銀河で最も明るい恒星(高光度青色変光星)の一つ。
出典:NASA, ESA, STScI
ハッブル望遠鏡は遠くの天体だけではなく、太陽系内の天体も撮影している。土星を1年ごとに撮影したところ、雲の色(雲の高度を反映)がわずかに変化していることがわかった。
土星の2018年から2020年の1年毎の変化の様子。
出典:NASA/ESA/STScI/A.Simon/R.Roth
木星のそば(トロヤ群)の彗星。2019年6月に発見された当初は小惑星だと思われていたが、実は海王星より遠くのカイパーベルトからやってきた彗星であることが2020年に分かった。
彗星P/2019LD2。彗星は太陽に近づき温度が上がることで尾を引くようになる。太陽から遠い寒い環境で尾を引いている彗星は初めてとらえられた。尾の長さは64万kmにもおよぶ。
出典:NASA, ESA, and B.Bolin (Caltech)
スペースシャトルがあった頃は、宇宙飛行士がハッブル望遠鏡まで行って修理できたが、今はもう修理できない。ハッブル望遠鏡は動く限り2030年代まで観測を続ける計画だ。後継機となるジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡とともに、引き続き私たちに美しい宇宙の姿を届けてくれるだろう。
1990年4月25日、スペースシャトルディスカバリー号から宇宙へ放たれたハッブル望遠鏡。
出典:NASA/SmithsonianInstitution/LockheedCorporation
ハッブル望遠鏡の後継機となるジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWTS:James Webb Space Telescope)は、2021年11月以降に打ち上げられる予定だ。
(文・小熊みどり)