伝説的な投資家であるビノッド・コースラが、ウォーレン・バフェットと共通する投資の3原則について明かした。なぜ企業価値を重視しないのか、なぜ資産バブルや市場の急落について懸念していないのかなど、独占インタビューでInsiderに語ってくれた。
コースラはサン・マイクロシステムズの共同創業者であり、2004年にコースラ・ベンチャーズを設立する前は、ベンチャーキャピタルであるクライナー・パーキンスに勤務していた。今までの投資先としては、スクエア(Square)、ストライプ(Stripe)、ドアダッシュ(DoorDash)、インスタカート(Instacart)などがある。
コースラとバフェットは、投資へのアプローチにおいては対極に位置する。コースラはIT業界のスタートアップ数十社に対し、かなり初期に高いリスクを取って投資し、そのうち1、2社が10億ドル(約1100億円)企業になることを期待する。
対するバフェットは、コカ・コーラやクラフト・ハインツなど、基本的には自分の知る業界に属する大手の高収益企業に投資するスタイルだ。一体2人のどこに共通する投資の原則があるのだろうか?
1. バイ・アンド・ホールド
健全な経営陣が運営する素晴らしい事業に対して長期的に投資する、という考え方は、バフェットもコースラも同じだ。
「バフェットと私は、全く違う分野で同じことをしているんです」とコースラは言う。自らの戦略は、簡単に言えば「適切な市場で・適切な経営者に・適切な投資」をし、その後はリターンが出るのを数年間待つこと(バイ・アンド・ホールド)だ、と言う。
2. 現在の評価額は無視する
コースラは、投資金額についてはバフェットほど気にかけない。
「判断が難しいところは、100社あったらどの会社が社会に大きな影響を与え、100億ドル規模の会社に成長するのかということです。
私たちのスタイルは、オプション・バリュー投資ですね。資金が底をつくのが先か、素晴らしい会社となるのが先か。正しい判断をするのに、現在の企業価値は関係ありません」
コースラは、初期にリスクを取って投資したスクエアの例を挙げる。決済サービスを提供するこの企業はツイッターのCEOであるジャック・ドーシーが経営しており、現在の時価総額は1160億ドル(約12兆7600億円)になっている。ドーシーが小規模企業に変革を起こしてくれる世界を期待し、「ジャックに賭けた」と言う。
代替肉メーカーであるインポッシブル・フーズ(Impossible Foods)のケースも同様だ。コースラが数百万ドル(数億円)規模の投資をしたのは2011年だったが、当時は肉が植物由来のたんぱく質に代替されることなど想像もできず、「ハンバーガーにベンチャーキャピタルが投資するなんておかしいと思われていましたね」とコースラは言う。
そのインポッシブル・フーズも、2020年の企業価値はプライベート投資ラウンドで40億ドル(約4400億円)となった。「2倍投資しても良かった」とコースラは言う。
バフェットにも似たようなことがあった。1972年にシーズ・キャンディーズ(See's Candies)が3000万ドル(約33億円)の投資を求めたものの、バフェットは2500万ドル(約27億5000万円)以上出すことを渋り、破談しかけたことがあった。
結局バフェットの言い分が通ったものの、500万ドルの差は誤差の範囲に過ぎないと言えるだろう。バフェットがオーナーになって以降、これまでたったの4000万ドル(約44億円)の投資で、今や税引前利益は20億ドル(約2200億円)をゆうに超えているのだから。
コースラは、バフェットによるアップルへの多額の投資についても高く評価している。その価値は5年間で1200億ドル(約13兆2000億円)超と3倍以上になった。
「バフェットは、ITが社会を大きく、根本的に変えることを認識していたんですね」
3. 市場の動きに惑わされない
『マネー・ショート 華麗なる大逆転』で主人公にもなったマイケル・バリーや、資産運用会社GMOの共同創業者であるジェレミー・グランサムをはじめとする第一線の投資家は、資産価格はいまバブルの只中にあり、歴史的な崩壊が今後起こるだろうと警告している。
これに対してビル・アックマンなどの投資家は、コロナ禍後にブームが来るだろうと予想する。しかし、コースラはこういった予測に対してかなり懐疑的だ。
「自分はマーケットの未来を予測できると思う人たちは、あまり賢くありませんね。私は何が起こるかなんて全く予測できません」
上場企業を対象にする投資家たちは、バブルが崩壊すると世界の終わりのように感じてしまうが、「ベンチャーキャピタルの世界ではそうではない」とコースラは言う。
「業界を一変させるような企業に賭け、10年後に10倍、100倍のリターンを期待するなら、今日の価値が3割、5割下落してもたいした問題ではありません。完全に売却するまでには、ブームと急落を3度ずつ経験することだってありえるのです」
この点でも、コースラとバフェットの見方は一致している。日々の株価の値動きは無視しなさい、10年後のマーケットを見据えて自分が満足できる投資をしなさい、とバフェットもよく投資家たちに言っているからだ。
コースラがバフェットを賞賛する点は他にもある。自分の投資スタイルに揺るぎない自信を持っていること、流行りに惑わされず易きに流れない姿勢、また多額の資産を手にしても生活をほとんど変えていない点だ。
66歳のコースラは、8月に91歳になるバフェット同様、長く働き続けたいと思っている。
「好きな仕事をできているなら、やり続ければいいんです。人は引退するときに年をとるのであって、年をとったから引退するのではないと私は信じています」
(翻訳・田原真梨子、編集・野田翔)