新卒でLINEに入社。アプリマーケティングや部署横断プロジェクトを担当しつつ、自撮ラーで話題に。
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先日、私は5年間勤めたIT企業・LINEを退職して、同じく5年間続けてきた“本業会社員・副業ライター”を卒業した。
私が会社員として働いた2016年から2021年の5年間は、人々にとって”働き方”に対する考え方が大きく変わった5年間だったように思う。
2016年に副業を始めた頃、周りに副業をしている人はほとんどいなかった。社内外に同じような境遇の人がいれば、それを共通項として仲良くなれる、特殊でニッチな属性だった。
しかし今や、副業をしていること自体、珍しくもなんともない。
最近は、「人材の流動化としての副業」が話題になることも多いし、求人サイトに「副業募集!」という文字が並ぶのも当たり前になりつつある。
ここ数年は、コロナによる在宅勤務の普及に伴って働き方はさらに柔軟になっており、ようやく会社以外で仕事を持つことが、当たり前になろうとしている。
しかしそんな最中、私は副業会社員を辞め、フリーランスのライターとして活動する道を選んでしまった。
会社員の頃は「いつ辞めるの?」と散々聞かれたのに辞めたら辞めたで「どうして辞めたの?」と日々聞かれている。私も私で、辞める直前まで散々「会社員を辞めるつもりはない」と話していた。
それではどうして、ようやく副業が一般的になってきた今になって、私は会社員を辞めてしまったのか——。
同僚見て焦り。本業への投資時間は短くなる
副業しながらの会社員として働いた5年間、土日のどちらかは必ず仕事をしていて、週休二日を実感したことは一度もない。
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そもそも副業をやることには当然だがメリットもデメリットもある。
メリットとしては、複数の仕事を持つ分、”2倍速で経験値が貯まる”というものだ。当然、外部で本業と違う仕事をしていれば、スキルも2倍獲得できる。人脈もまた2倍速以上のスピードで増えていく。
さらに個人的に救いだったのは、複数の経験が別サイクルで回っていることで、片方の仕事がうまくいかなくても、もう片方の仕事が好調な場合があることだった。
新卒一年目の辛いときも、くじけずにがんばれたのは、自分への信頼が複数の仕事によって完全には崩れなかったという理由が大きい。
一方で、デメリットはメリットの延長線上にある。2倍速で経験やスキルを得るために、労働時間は単純に増える。副業しながらの会社員として働いた5年間、土日のどちらかは必ず仕事をしていて、週休二日を実感したことは一度もない。
さらに、疲弊してしまっても、予定を詰め込みすぎている自分の責任…という自己管理の厳しさもある。
もっとも気をつけなければならなかったのは、それぞれの仕事に投資できる時間の分散化だ。
私が一番副業をしていて不安を覚えたのは、同僚たちが、語学やプログラミングだなど専門知識を獲得していることだったり、休日や平日の夜の時間を使って、本業にまつわる自己研鑽をしていたり……を見かけたときである。
副業は“自分という資産の分散投資”
副業は”自分という資産の分散投資”。多様なリターンを得られるメリットと、どこからも大したリターンを得られないリスクがある。
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一方で、冒頭でも述べたが、この5年で、働き方に関する周りの考え方は大きく変わった。その中で、自分が経験してきたメリットとデメリットに周りがより一層共感してくれるようになったのも事実だ。
特に、コロナの影響で在宅勤務する人たちが増えてから、副業の広がりは勢いはすさまじい。
友人から確定申告の相談を受けることも増えた。何より、ライターの仕事ではさまざまな会社の人とやりとりすることになるのだが、その窓口になる人から「副業でこの会社を手伝っている◯◯です」という紹介を受けることがかなり増えたのである。
すでに、私達の“仕事”という営みは、所属する会社という組織でのみ行われるものではなくなっている。
しかし一方で、それと同時にこれまでなかった組織やキャリアの歪みが生じている。“副業をする”という行為が先走りすぎて、目的を見失っている人も多い。
例えば、一流企業で大きな仕事を任されている友人が寝る間を惜しんで、スキルにならないような単純作業の仕事をしているケースを見かけたことがあった。
あるいは「本業のほかにさまざまな仕事を少しずつ手伝っていて、ラーニングコストが高いわりに、何も身についていない」という相談を受けたこともある。
副業は、“自分という資産の分散投資”だ。上手に分散すれば、多様なリターンを得られるメリットはあれど、使い方を間違えれば、どこからも大したリターンを得られないリスクもある。
そんなときには、一点集中で自分のリソースを投資し会社で絶大な信頼を手に入れている同僚の姿がまぶしい。
「本業がんばった方がいいんじゃない?」
より広がった選択肢から、自分の時間やスキルをどのように投資するかを考えなければいけない時代が来ているのではないか。
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社会人になってすぐ、元々同じ会社で働いていて、副業でかなり稼いでいた先輩と飲み会の席で一緒になったときに言われた言葉を、私はずっと忘れないでいる。
それは「君、その部署に入れるなら、将来のことを考えると本業だけ頑張ったほうがいいんじゃない?」という言葉だ。
私がたまたま入れた部署は、優秀な人ばかりで、学ぶべき点が沢山ある人たちに囲まれていたのだ。だからこそ、私は副業をしながらも常に「私は今、本業100%するのとどっちが価値ある時間を過ごせているんだろうか」と頭の片隅で自分に問い続けながら活動をしてきた。
会社員が本業のほかにサイドビジネスを持つ流れはきっと止まらない。
しかし、それを「週5でフルタイムで働くほかに、収入を得る機会を作るのがこれからの正しい働き方」という捉え方をするのは、違和感がある。
正しくは、より広がった選択肢から、自分の時間やスキルをどのように投資するかを、より一層考えなければいけない時代が来たのではないだろうか。
これまでどおり、リフレッシュとして趣味に興じてもいいし、本業にまつわる知識や資格の勉強をしても良い。そして、それに加えて、フルタイムの会社員以外の形態で、ほかの会社でも働けるようになったということだ。
私達は、若い間の時間や体力といったかけがえのない「資産」をどのように運用すべきか、広い選択肢から選べる時代を生きている。
だからこそ、単に「流行ってるから複数の会社で働いてみよう」ではなく、どの仕事に自分が持っている「資産」を投入すべきか。という問いに、より一層向き合わなければならないのだ。
”両方の仕事で中途半端になる”という危機感
長く副業をしていれば、その副業が本業になったり、あるいはさらなる勉強が必要になったりする機会も現れてくる。
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改めて、副業全盛期の今、あえて私が副業を手放して、専業ライターになった理由を明かしたい。
「本業に集中して頑張っていればそれなりに評価されたのに、ほかの仕事に労力を割いていたために、ほかの同期より成長が遅れてしまって、チャンスが回ってこなくなった……」
私の場合は、この危機感が年々高まっていったのが理由だった。
仕事の基礎力がつく若い時代に、多様なスキルがつくのはいいことだが、同じ仕事を何年もしている間に、スキルの深さが求められる。私を執筆業に専念させたのは、このまま時間を分散していては、”両方の仕事で中途半端になる”という危機感だった。
人生の残り時間という資産を幅広い選択肢から選んで投資できるのは良いことだ。
最近だと、複業だけではなく、海外に留学したり、新しく習い事をはじめたりしている人もよく見かける。「終身雇用は終わりを迎える」と言われ、個人が転職を経験することはもはや当たり前になっている。
私はさらにその先に、個人が会社員とは別トラックで、自分のキャリアを育てる活動を持つことも同時に当たり前になっていく流れを感じている。
加えて、長く副業をしていれば、その副業が本業になったり、あるいはさらなる勉強が必要になったりする機会も現れてくる。私の場合はまさにそれで、自分の知識をより専門的に作っていくために、「週5+副業」ではなく、「週何日か×複数」にできるよう、フリーランスになった。
これからは、企業との関わり方も勉強という自己投資も含め、より一層柔軟なワークスタイルを作るつもりだ。
副業で何をするかは自由。自分の人生のどんなフェーズで副業をするのも自由。さらに、副業と本業の組み合わせたキャリアの作り方も、これからはもっとどんどん自由になっていくはずだ。
“自由は責任とセットだ”という考え方はあまりにもトラディショナルなものかもしれない。しかしさまざまな働き方を自由に選べる会社員の時代は、個人に優れた判断力を求めるシビアさとともにやってくる。
これからの時代、副業か専業かではなく「自分の時間を何に使う?」を挨拶がわりに話せるような世の中を作りたいし、歩んでいきたいと願う。
(文・りょかち)
りょかち:1992年生まれ。京都府出身。神戸大学卒。学生時代より、ライターとして各種ウェブメディアで執筆。「自撮ラー」を名乗り、話題になる。新卒でLINE入社。LINEバイトやLINE Creators Studioの企画開発、LINEアプリのマーケティングなどを担当。2021年6月に独立した現在は、若者やインターネット文化についてのコラム、エッセイ・脚本・コピー制作のほか、若年層に向けた企業のPR支援も行う。著書に『インカメ越しのネット世界』(幻冬舎刊)。その他、朝日新聞、幻冬舎、宣伝会議(アドタイ)などで連載。