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緊急事態宣言で「景気後退」色強める日本。アメリカとユーロ圏はコロナ以前のGDP水準を回復へ

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ワクチン接種の進捗に応じて行動制限の解除が進むイギリス。経済活動の回復ぶりも著しい。写真は7月26日のロンドン中心部、リージェント・ストリートの様子。

REUTERS/Henry Nicholls

7月末、アメリカおよびユーロ圏の第2四半期(4~6月)GDPが立て続けに公表された。

実質GDP成長率は、アメリカが+6.5%(前期比年率)、ユーロ圏が+8.0%(同)と、いずれもきわめて高い伸びを示した。

アメリカについては、市場予想の中心(+8.4%)こそ下回ったものの、金額ベース(実質)では19兆3582億ドルと、2019年第4四半期(10~12月)に記録した19兆2023億ドルを超えている

名目ベースではすでにそうした状態に至っていたが、今回の発表を受けて、名実ともにコロナ以前の水準を回復した形になった【図表1】。

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【図表1】アメリカの実質GDPの水準。

出所:Macrobond資料より筆者作成

成長率の下ぶれは、在庫取り崩しや純輸出のマイナス(=背景として、内需が拡大して輸入が増加したことがあげられる)によるポジティブな結果。

何より大事な個人消費の伸びは、ただでさえ大幅な増加を示していた第1四半期(1〜3月)の+11.4%から、第2四半期(4〜6月)に+11.8%へとさらに加速した。

過去の成長率を見ると、2020年第4四半期(10~12月)以降、+4.5%→+6.3%→6.5%と順当に加速しており、悲観する理由はあまりない。米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策正常化プロセスを阻害するような材料とも言えない。

足もとでは低下基調にある米金利も反転する展開を見据えつつ、ドル高の地合い(相場)が定着すると筆者は考えている。

ユーロ圏も年内にコロナ前の水準へ

ユーロ圏も力強い動きを見せた。

冒頭で示した+8.0%という成長率(前期比年率)はアメリカを上回る好調ぶりで、3四半期ぶりのプラス成長復帰となった。

4月以降、ユーロ圏の各国ではワクチン接種と行動規制の解除が順当に進み、おそらくは第3四半期(7~9月)もその軌道からブレることはなさそうだ。

項目別の需要の動きは2次速報値(8月17日公表)を待つ必要があるものの、行動制限の解除にしたがってサービス消費を中心とした個人消費が伸びたことは想像に難くない。

ちなみに、最新の欧州中央銀行(ECB)スタッフ見通し(6月改訂)および国際通貨基金(IMF)による世界経済見通し(7月改訂)によれば、2021年の通期成長率は+4.6%の予測。

その通りになれば、2021年末にはコロナ直前の2019年第4四半期(10~12月)の水準を回復することになる【図表2】。

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【図表2】ユーロ圏の実質GDP。

出所:Macrobond資料より筆者作成

アメリカもユーロ圏も、GDPという象徴的な指標について名実ともにコロナ以前の水準を回復する2021年は、ひとつの節目になると言っていいだろう。

日本は「テクニカル・リセッション」の可能性

もちろん、欧米ともにデルタ株(やそれに追随する他の変異株)の感染拡大がリスクとして消えず、予断を許さない状況にあることは確かだ。

それでも、感染が落ち着いているタイミングを的確にとらえて行動規制を解除し、消費・投資意欲をふんだんに発露させるというメリハリの利いた実体経済は、コロナ禍を乗り越えていく国家のあるべき姿と言える。

変異種の拡大次第でいつ何どき再度の行動規制を強いられるかわからないからこそ、「成長できるときにしておく」というのが最も合理的な行動ではないだろうか。

日本に目を向けると、第2四半期(4~6月)のGDPは8月16日の発表待ちだが、日本経済研究センターの「ESPフォーキャスト調査(7月分)」によれば、+0.19%(前期比年率)の横ばいが予想されている

第1四半期、第2四半期ともに緊急事態宣言(もしくはまん延防止等重点措置)で内需が抑圧されているので、横ばいというのは腹落ちする結果だ。

ただ、このまま横ばいで済むのかどうかは怪しくなってきている。

既報の通り、日本政府は8月2日から緊急事態宣言の対象に埼玉、千葉、神奈川、大阪の4府県を追加し、飲食店の酒類提供を一律停止。北海道、石川、京都、兵庫、福岡の5道府県には宣言に準じるまん延防止等重点措置を適用している。

先述のESPフォーキャスト調査(7月分)の回答期間は「2021年6月28日~7月5日」で、足もとの感染急拡大を受けて規制対象地域が拡大されるところまでは織り込まれていない。

(状況悪化前の)調査期間時点でも、回答者37人中14人がマイナス成長を見込んでいたことを踏まえれば、第2四半期(4〜6月)は日本だけがマイナス成長に陥る可能性は否めない。もしそうなれば、2四半期連続なので「テクニカル・リセッション(事実上の景気後退)」となる。

実際、欧米に比べてみると、みすぼらしいとしか言いようがない構図だ【図表3】。

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【図表3】日米欧の実質GDP。前期比年率は振れが大きいため、前期比を使っている。

出所:Macrobond資料より筆者作成

ESPフォーキャスト調査では、次の第3四半期(7~9月)は+4.9%まで成長率が回復すると予測されているが、すでに最低でも3分の2が緊急事態宣言下の四半期になることが確定しているなかでは、下ぶれの可能性を想定しておく必要があるだろう。

そして残念ながら、現在の流動的な政策対応を見る限りでは、9月まで緊急事態宣言が延長される可能性すら否定できない。

日本だけコロナが終わらない展開も

海外の先行事例を見てもわかるように、いくらワクチン接種を進めても、感染それ自体を完全に防ぐことはできない(その点ではインフルエンザも同様だ)。しかし、重症者や死者を減らすことはできる。

先述のように、欧米はそれを前提に行動制限を解除して経済を走らせる選択肢をとった。その決断が2021年上半期の高い成長率につながったことは明らかだ。

では日本も追随できるかと言えば、崩壊の危機にあるとされる医療体制の現状を踏まえると難しそうに見える。

そして、医療体制の拡充が現実に難しいのだとすれば、日本だけコロナが終わらない展開も絵空事ではないという覚悟が必要だ。

GDP成長率の現状と展望からもその流れは感じられるし、株式市場や為替市場で日本を回避する動きが明確に出ていることは、前回寄稿でも明確きわまりない図表を付して説明した通りだ。

そうした現状認識をもとに、為替や株式といった資産価格は、「日本の弱さ」を自明の前提として見通していく必要があると筆者は考え始めている。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

(文:唐鎌大輔


唐鎌大輔(からかま・だいすけ):慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構、日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局に出向。2008年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)でチーフマーケット・エコノミストを務める。

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