ASRV(エステティックレボシューション)の若き最高経営責任者(CEO)、ジェイ・バートン。
Derek Reynolds/ASRV
新型コロナ感染拡大による行動制限が長期化し、室内の時間を快適に過ごせるカジュアルな衣服へのニーズが高まったことで、多くのスポーツ(アクティブ)ウェアブランドが恩恵を受けた。
「ASRV(エステティックレボシューション)」もそのひとつ。機能性や快適性を高めたハイテクメンズウェアに特化し、プロスポーツ選手のファンも多いアパレルブランドだ。
2020年3月、新型コロナ感染拡大をを受けて多くの企業がオフィス閉鎖に追い込まれると、ASRVの若き最高経営責任者(CEO)ジェイ・バートンは、すぐに危機管理計画の策定に着手した。
ただし、同年に米フォーブス(Forbes)誌の「30アンダー30」(30歳未満で活躍する30人)に選ばれたバートンはそのとき、自社の将来予測を完全に見誤っていた。
3月前半は一時的に売り上げが落ち込んだものの、その翌週には一転して倍増。それまでヨガやランニング、エクササイズ向けのデザインを売りにしてきたASRVは、瞬(またた)く間にパンデミックを家にこもってやり過ごす人たちに人気のブランドとなった。
感染拡大のピーク時には、アパレル業界全体の売り上げが4割近く落ち込んだにもかかわらず、アスレジャー(=アスレチック+レジャー、運動着の機能やテイストを普段着にとり入れるスタイル)のブランドは逆に売り上げを大きく伸ばした。
そして、ASRVの爆発的成長をもう一歩あと押ししたのは、ウェアに使用しているのと同じ伸縮性のある高機能素材を使ったマスクを、感染拡大の本格化から間髪おかずに発売したことだった。
コロナとは無関係に、光化学スモッグや大気汚染からの防護を目的としたマスクをデザインしてあっったため、図面に落として生産、販売に至るまで、わずか数週間でたどり着くことができた。
加えて、完成したマスク25万枚をパンデミックの最前線で闘う医療関係者らに寄付したことで、ASRVのブランド認知度は一気に高まった。
米カリフォルニア州カールスバッドにあるオフィスで、頭のてっぺんからつま先まで自社ブランドに身を包んだバートンは、当時をこうふり返った。
「マスクを発売したときは半狂乱状態でした。あんな勢いで、それこそ飛ぶように売れていく商品を見たことがありません」
2020年4月、ASRVのマスクはオンライン販売開始直後わずか15分で3000枚以上売れた。
同社ゼネラルマネージャーのデイビッド・チャンによれば、マスクを注文しようとサイトを訪れたユーザーがシャツやジョガーパンツを一緒に購入した結果、同月の売り上げは前年比170%増を記録したという。
マスクのついでに購入したと言っても、それらは決して安い商品ではない。シャツはおよそ70ドル(約7700円)、ハイテクパンツは150ドル(約1万6500円)以上する。
当初の売り上げの伸びはいくぶん緩やかになったものの、同社によれば、2021年のここまでの売上高は前年比45%増で推移している。パンデミックの最初期にマスクが呼び込んだ新たな顧客の波が、その後も売り上げ増加に貢献しているわけだ。
「ASRVのカスタマーリテンションレート(顧客維持率)はきわめて高く、かたや返品率はきわめて低い。確かに、顧客獲得のために大きな資金を投じていますが、一度試していただいたお客さまは、ブランドを使い続けてくださる可能性が非常に高いのです」
Derek Reynolds/ASRV
バートンは、デザインとエンジニアの専門学校(中退)を経て、2社の起業を経験し、2014年にASRVを創業している。
ASRVはソーシャルメディア上でカルト的な人気を誇り(インスタグラムの公式アカウントはフォロワー120万人以上)、NBAペリカンズのロンゾ・ボール、MLBニューヨーク・ヤンキースのアロルディス・チャップマン、シンガーソングライターのアリシア・キーズなど、全米を代表するスーパースターたちが愛用している。
「パンデミックはあらゆる企業に5年、10年前倒しで『気づき』をもたらしてくれました。そうだ、もうわざわざオフィスに通勤してもらう必要なんてないじゃないか、と。そうなれば、従業員の皆さんもワイシャツなんて着たくなくなります。だからいま、人々はとにかく快適な服を求めているのです」(バートン)
アクティブウェアはいまや新たな普段着であり、そこにテクノロジーを導入することで新たなフロンティアが拓けていく、バートンはそう断言する。
例えば、ASRVでは「ケブラー」技術を一部の商品に組み込んでいる。ケブラーは、米デュポンが1965年に開発した特殊な繊維(耐熱性パラアラミド合成繊維)で、きわめて高い強度を持つ。
「普通に使っていても差は認識できないと思いますが、皆さんが普段着ている服に比べると、ASRVの(ケブラーを使った)ラインナップは20倍の耐久性を持っています」(バートン)
ASRVは最近、限定商品や最新の企業情報を提供するアプリをローンチ。この年末には、南カリフォルニアに第1号となるリアル店舗をオープンさせる。
パンデミックによる行動制限の解除が進み、コロナ以前の日常が少しずつ戻りつつあるが、アクティブウェアをカジュアルに着こなすトレンドに変化はないとバートンは考えている。
(翻訳・編集:川村力)