写真素材サービス「シャッターストック(Shutterstock)」創業者のジョン・オリンジャー。現在は米フロリダ州マイアミを拠点にベンチャー支援を手がける。
Jon Oringer
写真素材サービス「シャッターストック(Shutterstock)」の創業者で、現在は米フロリダ州マイアミを拠点にベンチャー投資家として活動するジョン・オリンジャーは、有望な起業家を見出すためのツールとして、ビジネス特化型SNSのリンクトイン(LinkedIn)を活用している。
「(ベンチャー投資家というのは)まだ世に出ていない才能を探そうとするものです」
オリンジャーはInsiderのインタビューでそう語っている。今年だけでもリンクトインを通じておよそ1000人の起業家にコンタクトし、100人から返答があったという。うち3、4人とは、これから実際に仕事をすることになるようだ。
しかしこの8月以降、彼はリンクトインを使って創業者を探すのに時間を費やす必要がなくなるかもしれない。
オリンジャーが連続起業家のエド・ランドと共同設立した投資会社兼起業支援会社(インキュベーター)「パレートホールディングス(Pareto Holdings)」は、プレシード(事業コンセプト段階の創業期)のスタートアップに資金提供を行うプログラムをスタートさせる。
「私たちが探しているのは、自分が起業家になるなんて考えたこともなかったのに、こちらからコンタクトしたら数カ月後には起業家になっている、そんな人です」(オリンジャー)
同プログラムは、アーリーステージの起業家あるいはスタートアップによる最初の資金調達を支援するファストトラック(=迅速性を重視した優先的支援)アクセラレーターと表現するのがふさわしい。
「たいていのアクセラレーターが数カ月から1年かけて資金提供を決めるのに対し、パレートはわずか1週間で出資にこぎ着けます」(ランド)
プログラムに興味のある起業家はオンラインで申請する。パレートの投資チームからは48時間以内に返信があり、将来性のある起業家についてはその後、投資チームとの面談に招待される。資金提供の決定は1週間以内に行われる。
「パレートは、起業家やスタートアップのポテンシャルを最初に見きわめ、最初に彼ら彼女らを信じる存在でありたいのです」(ランド)
資金提供額は5万ドル(約550万円)から30万ドル(約3300万円)の範囲を想定している。
その文脈で言えば、シリコンバレーの著名アクセラレーター「Yコンビネーター(Y Combinator)」の支援案件では、スタートアップの株式7%を取得して12万5000ドル(約1400万円)の資金提供を行うのが標準的。
一方、パレートはYコンビネーターのように数字を固定せず、それぞれの案件について出資比率や出資額を決めるという。
スタートアップ支援「パレート(Pareto)」のウェブサイトより。「世界を変える会社をつくろう」とうたう。
Screenshot of Pareto website
支援対象に選ばれたスタートアップが受け取るのは資金だけにとどまらない。
パレートのアドバイザーチームからはもちろんのこと、ソフトバンクグループ副社長執行役員COOのマルセロ・クラウレ、マイアミ市長のフランシス・スアレス氏、高齢者支援サービスのパパ(Papa)最高経営責任者(CEO)のアンドリュー・パーカーからも、戦略面、採用面、運営面のサポートを受けられる。
パレートの投資先ポートフォリオには現在、Eコマース向けのサブスクリプション管理ツールを展開する「スマートアールアール(Smartrr)」や、ランドが2020年に創業したギフトサービス「グッディ(Goody)などが名を連ねる。
2012年にシャッターストックを上場させ、ビリオネア(総資産10億ドル以上)となったオリンジャーは、自らの問題意識を次のように語る。
「生み出されるべき新たなアイデアはいくらでもあるのに、合理的な計算の上でリスクをとれる人はそう多くないというのが今日の現実です」
オリンジャーとランドは、外部投資家からの資金を入れず、自前ですべてのアクセラレータープログラムを運営する計画だ。
オンラインでの支援申請は、8月3日(現地時間)からパレートのウェブサイトで受け付けが始まる。
共同創業者のオリンジャー、ランドともにマイアミ在住だが、支援対象はフロリダ州内に本拠を置くスタートアップに限らない。事業のコンセプト段階から商用プロダクトを完成させてすでに収益を計上している段階のスタートアップまで、幅広く申請を受け付ける。
また、アメリカ以外の国でアーリーステージの資金を得られずにいる起業家を支援するため、オンライン申請フォームはスペイン語、フランス語、ポルトガル語などさまざまな言語に翻訳して提供される。
パリ育ちでフロリダに暮らすランドは、海外の起業家に今回のアクセラレータープログラムを提供することを特に重視している。
というのも、資本の流動性が高くプレシードやシードラウンドの資金調達が容易なアメリカに比べ、フランスではあまりに長い時間がかかり、起業家たちが苦しむことがままあるからだ。
「パレートが本拠を置くのはマイアミで、ここには確かに多くの才能が集まっていると思いますが、それでも私たちは、国境を超えて世界中の人々を支援することに大きな関心を抱いているのです」
(翻訳・編集:川村力)