イーロン・マスクは2016年、テスラの新車すべてに自律走行するハードウェアを搭載すると宣言した。
Yasin Ozturk/Anadolu Agency via Getty Images
- イーロン・マスクが考える自動運転技術に関して、最初に批判した人々にはテスラのエンジニアが含まれていたと最新の書籍に記されている。
- これは、2021年8月3日発売の『Power Play: Tesla, Elon Musk, and the Bet of the Century』の内容だ。
- エンジニア、広報、法務担当者は、マスクが2016年に「オートパイロット」の性能を誇張したことに不安を抱いていた。
イーロン・マスク(Elon Musk)は、テスラ(Tesla)の運転支援機能を誇張した表現で説明することで、長年に渡って批判されてきた。実際には「オートパイロット(Autopilot)」は自動で運転することではなく、「完全自動運転(Full Self-Driving)」は自律走行しないからだ。
そのような批判の大半は、安全性を重視する人々や政治家、自動車業界関係者によるもので、彼らは自動運転技術に対するテスラの迅速ではあるが厳格ではないアプローチは、人々を危険にさらすと述べている。彼らは、システムができることや今後可能になることについて、あまりにも楽観的に約束すると、人々に誤用させて事故を誘発すると主張している。
だが、2021年8月3日に発売されたテスラに関する最新の書籍、ティム・ヒギンス(Tim Higgins)の『Power Play: Tesla, Elon Musk, and the Bet of the Century(パワープレー:テスラ、イーロン・マスク、そして世紀の賭け)』によると、初期のそのような懸念はテスラ内部からも起きていたという。
マスクのチームについて詳しい人物によると、オートパイロットチームを率いていたスターリング・アンダーソン(Sterling Anderson)はシステムが最初に発表された1年後の2016年後半、オートパイロットのハードウェアとソフトウェアの最新版のリリースを控えていたが、マスクがおおげさな約束をする傾向があることに不安を感じていたという。
アンダーソンは、彼が携わった機能をアップグレードしても、システムが車を完全にコントロールすることはできないとわかっていた。オートパイロットは以前も今も、主に高速道路向けに作られており、多くのカメラとセンサーを使い、車線を維持して前方の車と車間距離を取るためのものだ。
書籍によると、アンダーソンはマスクが完全に自動運転すると宣言するのではないかと恐れ、同社のマーケティング部門のトップであるジョン・マクニール(Jon McNeill)にその懸念を伝えたという。
テスラの法務と広報のスタッフは、アンダーソンの懸念を共有していた。これらのやりとりを知る人物によると、彼らは1年間、オートパイロット使用時でもハンドルから手を離してはいけないということをマスクに言い続けた。だがテレビのレポーターを乗せたテスト運転で、マスクは何度もハンドルから手を離した。
さらに悪いことに、その年の5月、モデルSが道路を横断していたトレーラーに突っ込み、40歳のジョシュア・ブラウン(Joshua Brown)が死亡した。彼はオートパイロットのスイッチを入れ、運転に注意を払っていなかった。これが、テスラの技術について調査されることになった多くの事故の最初の事例だった。
予想通り、テスラが2016年10月に最新のオートパイロットを発表した際、マスクは最終的に完全自律走行できるようになるハードウェアをすべての新車に搭載すると述べた。彼は、テスラは2017年末までに自動操縦でアメリカを横断できるという大胆な主張をした。
マスクの発言は、彼の提案が実現可能だと考えていない一部のエンジニアには納得のいくものではなかったとヒギンスは著書の中で述べている。テスラの上層部も、マスクは自分の期待に応えられなかったときに激しく非難する傾向があることを知っていたので憂慮した。
「彼らは、マスクの言うスケジュールは無理だと知っていたし、彼がすぐに誰かの責任を追及することも知っていた」とヒギンスは書いている。
「彼の約束は、一線を超えるものだった」
それから5年近くが経ったが、自律走行の完成に近づいたメーカーはなく、テスラも同様だ。それでもマスクは、今も完全自動運転技術の開発を積極的に推し進め、バグの多いベータ版ソフトウェアを多数の顧客に配布している。
(翻訳:Makiko Sato、編集:Toshihiko Inoue)