グーグルからフェイスブックに至るまで、業界を変えてきたあらゆる大手テック企業の陰には投資家たちの存在がある。
本稿では、シリコンバレーの気風を築き上げた最も尊敬されるベンチャーキャピタリスト(VC)たち10人の顔ぶれを紹介する。選定にあたっては、VC業界の専門家たちの協力を得た。
どんな10人が選ばれたのか——さっそく見ていこう。
ジョン・ドーア
ジョン・ドーアは、グーグルやアマゾンといった大手テック企業や、フードデリバリーサービスのドアダッシュ(DoorDash)、スラック(Slack)をはじめ業界内の革新的企業にいち早く投資してきた伝説的なVC、クライナー・パーキンス(Kleiner Perkin)の会長を務めている。
ドーアの投資の中でおそらく最もよく知られているのは、1999年のグーグルへの共同投資だ。
ドーアは1975年にシリコンバレーにやってきたが、その時は本当に仕事も住む場所もなかったと自社のウェブサイトに記している。
「私はベンチャーキャピタルでインターンシップに参加しようと思っていました。しかし、どの会社からも断られたのです。そのうちの1社が、新しいチップメーカーのインテルについて教えてくれました。そこで私は、インテルが8ビットのマイクロチップを開発したちょうどその頃に、いきなり売り込みの電話をかけて仕事を得たのです」
クライナー・パーキンスの経営以外では、ドーアは社会起業家らとともに、公教育変革、気候危機、地球規模での貧困問題に取り組んでいる。また、オバマ財団やONE.orgの理事も務めている。
2018年には、大胆な目標を設定し成し遂げるためのハンドブック『Measure What Matters(邦訳:メジャー・ホワット・マターズ——伝説のベンチャー投資家がGoogleに教えた成功手法OKR)』を執筆している。
ビノッド・コースラ
コースラ・ベンチャーズの創業者、ビノッド・コースラ
Mario Anzuoni/Reuters
ビノッド・コースラは、モバイル決済のスクエア(Square)や即日配達サービスのインスタカート(Instacart)、ドアダッシュといったシリコンバレーの大人気企業を支援してきた著名なVC、コースラ・ベンチャーズ(Khosla Ventures)の創業者である。
コースラ・ベンチャーズを設立する以前は、2009年にオラクルが74億ドルで買収したことで知られるサン・マイクロシステムズ(Sun Microsystems)を共同設立したほか、VCのクライナー・パーキンスに20年近く在籍していた。
コースラはインドの陸軍軍人の家庭で育ち、ニューデリーのインド工科大学(IIT)の電気工学科を卒業。その後アメリカに渡り、カーネギーメロン大学で生物医学工学の修士号を取得し、後にスタンフォード大学でMBAを取得した。
ピーター・ティール
ファウンダーズファンドのマネージング・パートナー、ピーター・ティール
Stephanie Keith/Getty Images
ピーター・ティールは起業家にして投資家でもあり、ペイパルを共同設立してCEOとして同社を率いていることでも知られている。外部への投資としてはフェイスブックに初めて投資したことでも知られ、現在も同社の取締役を務めている。
近年ではデータソフトウェア会社のパランティア(Palantir)を共同設立し、2020年9月に株式を公開した。
投資家としては、リンクトイン(LinkedIn)やローカルビジネスレビューサイトのイェルプ(Yelp)など、いわゆる「ペイパル・マフィア」たちが経営するスタートアップに早くから投資していた。
2005年、再び「ペイパル・マフィア」のメンバーと合流し、ベンチャーキャピタル会社ファウンダーズファンド(Founders Fund)を立ち上げ、宇宙開発事業のスペースX(SpaceX)やエアビーアンドビー(Airbnb)などに多額の投資を行った。
ティールの著書『Zero to One(邦訳:ゼロ・トゥ・ワン——君はゼロから何を生み出せるか)』は、起業を志す者のバイブルにもなっている。
マーク・アンドリーセン
アンドリーセン・ホロウィッツの共同出資者兼ゼネラル・パートナーのマーク・アンドリーセン
REUTERS/Phil McCarten
マーク・アンドリーセンはVC大手、アンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz、通称a16z)の共同創業者兼ゼネラル・パートナーである。
キャリアの初期は起業家として、極めて影響力の大きいインターネットブラウザ「モザイク(Mosaic)」を共同開発したほか、インターネット関連ソフトの開発・販売を手がけるネットスケープ(Netscape)を共同設立した(ネットスケープはのちにAOLに42億ドルで売却された)。
さらに、ソフトウェア会社ラウドクラウド(Loudcloud)を共同設立。オプスウェア(Opsware)と社名変更した同社はその後、16億ドルでヒューレット・パッカードに売却された。
アンドリーセンは現在、a16zの投資先企業の取締役を複数務めている。例えば、自動運転用シミュレーションツールのアプライドイントゥイション(Applied Intuition)、エクイティマネジメントプラットフォームのカータ(Carta)、企業向け電話システムのダイヤルパッド(Dialpad)、スマートデバイスメーカーのオナー(Honor)、自治体向けクラウドサービスのオープンガブ(OpenGov)、製造業に特化したIoTスタートアップのサムサラ(Samsara)などだ。また、フェイスブックの取締役としても知られる。
アイリーン・リー
カウボーイベンチャーズの創業者兼マネージング・パートナーのアイリーン・リー
International Business Times/Kleiner Perkins Caufield & Byers
アイリーン・リーは、クライナー・パーキンスで13年間勤務した後2012年に退社し、女性が率いるVCの草分けであるカウボーイベンチャーズ(Cowboy Ventures)でシリコンバレーのVC界に新たな道を切り開いた。
カウボーイベンチャーズの最初の投資先は、2016年にユニリーバに10億ドルで売却されたと報じられたヒゲ剃りの定期購入サービス、ダラーシェイブクラブ(Dollar Shave Club)だった。他にも、固体酸化物形燃料電池の製造・販売のブルームエナジー(Bloom Energy)、洋服レンタルサービスのレント・ザ・ランウェイ(Rent the Runway)などがある。
また、女性起業家や投資家の成功を後押しすることを目的とするNPO「オールレイズ(All Raise)」の共同創設者でもある。
リーが2013年のブログ記事で、10億ドル以上の企業価値を持つ未上場企業を架空の生物になぞらえたことで「ユニコーン企業」という言葉が生まれたことは有名。
リード・ホフマン
グレイロックのパートナー、リード・ホフマン
Kevin Moloney/Fortune Brainstorm Tech
リード・ホフマンは典型的な起業家出身の投資家だ。2016年に262億ドルでマイクロソフトに売却したリンクトインの共同創業者としてよく知られる。
また、ピーター・ティール、イーロン・マスクとともに決済サービス会社のペイパル(PayPal)を設立した、いわゆる「ペイパル・マフィア」の1人でもある。
2009年にグレイロック(Greylock)に入社し、アーリーステージ投資を中心に担当。エアビーアンドビーに投資したほか、電気エアタクシーのスタートアップ、ジョビー・アビエーション(Joby Aviation)の取締役も務めている。ちなみにジョビーは、ホフマンがジンガ(Zynga)の創業者マーク・ピンカスと設立したSPACを介して上場を目指している。
ポール・グレアム
Yコンビネータのポール・グレアム
Getty
ポール・グレアムは、2005年にジェシカ・リビングストン、ロバート・モリス、トリヴァー・ブラックウェルとともにシードアクセラレーターのYコンビネータ(Y Combinator)を設立したことでよく知られている。
Yコンビネータは創業以来、エアビーアンドビー、ドロップボックス(Dropbox)、金融サービスのストライプ(Stripe)、レディット(Reddit)など、3000以上のスタートアップに投資してきた。
グレアムは起業家としてスタートし、オンラインストア開設サービスのヴィアウェブ(Viaweb)を設立したが、1998年に4900万ドルでヤフーに売却した。
また、「富を築く方法」や「スタートアップが学ぶべき最も難しい教訓」などのエッセイをウェブサイト(paulgraham.com)上に投稿していることでも有名。
マイケル・モリッツ
セコイアのパートナー、マイケル・モリッツ
Noah Berger/Bloomberg via Getty Images
モリッツはセコイア・キャピタル(Sequoia Capital)のパートナーとして、グーグル、リンクトイン、ペイパルなどに投資している。
同社のウェブサイトによると、モリッツは1976年にアメリカに渡った時「知っている人は誰もいなかった」という。
その後ジャーナリストとしてキャリアをスタートさせ、TIME誌のサンフランシスコ支局員を務めた。また、スティーブ・ジョブズの伝記『The Little Kingdom(邦訳:スティーブ・ジョブズの王国——アップルはいかにして世界を変えたか)』を執筆した。
健康上の理由で2012年にセコイアの日常業務からは退いたが、投資は続けている。2021年2月にはジョン・ドーアと共同で、ストライプの元従業員3人が設立したソフトウェアスタートアップ、ウォーターシェッド(Watershed)への投資をリードした。両社のVCが共同で投資を主導するのは1999年のグーグルへの投資以来となる。
ビル・ガーリー
ベンチマークのゼネラル・パートナー、ビル・ガーリー
REUTERS/Mike Blake
ビル・ガーリーはベンチマークキャピタル(Benchmark Capital)のゼネラル・パートナー。
1999年にベンチマークに入社する以前は、ソフトウェアとウェブに特化したサンフランシスコ拠点のVC、ハマーウィンブラッドベンチャーパートナー(Hummer Winblad Venture Partners)のパートナーだった。さらにさかのぼると、キャリアの初期の頃はウォール街でデル、マイクロソフト、アマゾンなどを担当するリサーチアナリストを務めていた。
ガーリーと言えば、2011年に1100万ドルを投じてウーバー(Uber)に投資したことでよく知られている。2017年6月まで同社の取締役を務めていた。その他の主な投資先にはフードデリバリーサービスのグラブハブ(GrubHub)、地元特化型SNSのネクストドア(Nextdoor)、レストランのオンライン予約サービスのオープンテーブル(OpenTable)、オンラインパーソナルスタイリングサービスのスティッチ・フィックス(Stitch Fix)、不動産情報サイトのジロー(Zillow)などがある。
ウォール・ストリート・ジャーナルは2020年4月、ベンチマークの最新のファンドにガーリーが投資していなかったことから、同社から退くつもりだと報じている。
メアリー・ミーカー
ボンドキャピタルのゼネラル・パートナー、メアリー・ミーカー
KPCB
メアリー・ミーカーは、2019年にボンドキャピタル(Bond Capital)というVCを設立し、現在は同社のゼネラル・パートナーを務めている。出資先はインスタカート、スポティファイ(Spotify)、スクエア、エアビーアンドビー、フェイスブックなどである。
ボンドキャピタルを設立する以前は、クライナー・パーキンスのゼネラル・パートナーとして、幅広い読者層を抱える「インターネット・トレンド(Internet Trends)」というレポートの執筆を担当していた。
さらにさかのぼると、2010年にクライナー・パーキンスに移籍するまでモルガン・スタンレーでマネージング・ディレクターを務め、グーグル、アマゾン、マイクロソフト、アップルなどの企業の総合的な技術調査を指揮していた。
(翻訳・渡邉ユカリ、編集・常盤亜由子)
[原文:These are the 10 most respected people that built Silicon Valley's foundation]