自分の好きな道を選び、チャレンジし続けている人たちは、どんなパートナーを選んでいるのでしょうか。
パートナーとしての決め手や、リスクをとる決断や心が折れそうなピンチを乗り越える時、どんな言葉が支えになったのかなど、夫婦にあえて同じ質問をすることで掘り下げます。
第7回は、京都に暮らす同性カップルの坂田麻智さんとテレサ・スティーガーさん。2015年にアメリカで挙式をしたお二人は、2019年から国に対する同性婚訴訟の原告でもあります。
そんなお二人はどのように出会い、お互いを支え合ってきたのでしょうか。前編では、坂田さんにお話を伺います。
撮影:千倉志野
—— 出会いのきっかけと結婚の経緯は?
小学校高学年の頃から、男の子ではなく女の子に好意を抱くことには気づいていました。高校生の頃に部活の同性の同級生と交際したことをきっかけに、私はレズビアンなのだと確信しました。
大学はアメリカに進学し、そこにはLGBTQという生き方を気にしなくていい環境がありましたが、帰国後に就職した後、日本では「男性と女性のカップル」という前提を突きつけられる場面が多く、同性愛者としての自分に自信を持てない時期が続いていたんです。
一方で、当時アメリカで放送されていた海外ドラマ『Lの世界』では、レズビアンがスタイリッシュに描かれていました。「実際にレズビアンはこの社会にいるし、その生活や恋愛も異性愛者と変わらない。それにこんなに面白いドラマもある!」と日本で暮らす皆さんにも伝えたくて、匿名でブログを書き始めました。
すると、共感して読んでくださる人が増えていって、ある時、「オフ会でもやりましょうか」という展開に。そこに来てくれた人が「外国人の友達と最近知り合ったから、今度連れてくる」とつないでくれて出会ったのがテレサでした。
当時、テレサは日本語をあまり話せなかったので、留学経験があって英語でコミュニケーションができる私となら仲良くなれるのではと考えたようです。2008年の夏、他の友人たち数人と一緒に飲みにいったのが出会いでした。
初対面でビビッときて……なんてことはなく(笑)、最初は友達関係から。私も当時は前の彼女と別れたばかりで、「しばらく恋愛はいいかな」と思っていたのですが、テレサと何度か一緒に食事に行ったりするうちに、話していてラクで気が合うなと好意を持つように。テレサは私が抱いていた「アメリカ人は自己主張が強い人が多い」という偏見とは真逆のタイプで、聞き上手で愛情深く、一歩引いて相手を立てるようなところがあるんです。テレサの前だと緊張せずに話せる自分がいました。
—— なぜ「この人」と結婚しようと思ったのですか?
一言でいうと価値観が合ったから。アウトドア好きな趣味や食事の好みも同じで、お互いに自然体でいられる。笑いや不満のツボが近くて、「そうだよね」と共感できることが多く、一緒に暮らしたい家のイメージも自然と一致して、京都の町屋を選びました。「いつか私たちの子どもを育てたいね」という話もしています。
お二人のご自宅は京都の町屋をリノベーションした物件。リビングの奥には和室が広がる。
撮影:千倉志野
日本には同性婚制度がないので、私たちは法律上の夫婦とは認められず、お互いの法定相続人にもなれません。若い頃は「結婚という形式にとらわれなくても、一緒にいられるだけでいい」と考えていましたが、テレサと生活を共にする年月を重ねる中で、「ふたりの関係を証明する何かがほしい」と思うようになりました。
テレサも同じ思いで、2015年に全米で同性婚が認められたことをきっかけに、テレサの故郷であるオレゴン州で結婚式を挙げました。ハワイも候補だったのですが、両家の家族を呼ぶと交通費がかかりすぎるという事情もあって。
このタイミングで、母に対してもきちんと説明をし、女性と結婚したいという意思を伝えました。母は「頭では分かっているけれど、まだ心は追いついていない。でも理解しようと思っている」と率直な気持ちを答えてくれて、以来、見守ってくれています。結婚式の当日はお天気にも恵まれて、一生の思い出になりました。その年の秋には京都で披露宴も開きました。
京都市長に手紙も。パートナーシップを宣誓
撮影:千倉志野
—— お互いの自己実現を支援するために、大切にしてきたことは?
私たちは、2019年2月から同性婚訴訟の原告になっています。国との訴訟はまだ続いていますが、居住する京都市では、2020年9月に同性婚のカップルの関係を公的に認める「パートナーシップ宣誓制度」(互いを人生のパートナーとして宣誓し、市長が受領証を交付する制度。法的な効力はない)が成立。市長に手紙を書いたこともこの結果につながったのかなと嬉しかったですし、すぐに宣誓書を提出しました。同性愛者も夫婦として認められる社会の実現に向けて活動することが、私たちに共通した「自己実現」のステップになっています。
このように実名で顔も出して公表しながら活動をしていくためには、お互いの価値観のすり合わせや相互理解が不可欠です。私たちの場合は、幸いにもその思いが一致して、前向きに支え合えていますが、もしもどちらか一方が消極的だったら難しかったと思います。実際、以前付き合っていたパートナーは自分たちの関係をオープンにすることに否定的でしたし、そういう同性カップルのほうが多数派ではないでしょうか。
テレサは自分のセクシャリティに対してポジティブで、弁護士から訴訟を提案されたことを伝えたときも、「いいね。やろう」と受け入れてくれました。私ひとりでは絶対にできなかったことが、テレサと一緒ならできている。ありがたいですね。「皆さんが持っている権利を、私たちにもください」と訴えている立場ではありますが、テレサとチャレンジできることに幸せを感じています。
—— パートナーから言われて、一番うれしかった言葉は?
私が会社の昇格試験で行き詰まっているとき、「麻智はできる! 麻智ならできる! 麻智しかできない! Go麻智ーーーッ!」と全力でエールを送ってくれたんです。私が自信を失いかけたときには、いつも「大丈夫だよ」とサポートしてくれる心優しい人。私が何か相談すると真剣に向き合ってくれるし、もしも私が間違った行動をしようとしても、正しい方向へと導いてくれるんだろうなと信じられる。私も同じように、彼女が「私は大丈夫」と思える自信を与えられる存在でありたいなと思っています。
強がらず、弱い自分も出していい
時には二人揃って愛犬の散歩に出かけることも。テレサさんは身長176センチ、麻智さんは149センチ。27センチの身長差カップルだ。
撮影:千倉志野
—— 日頃の家事や育児の分担ルールは?
家事の分担ルールは特に決めていませんが、一緒に暮らしているとなんとなく得意分野が見えてきて、洗濯は私、掃除はテレサがすることが多いですね。夕食づくりと犬の散歩は、仕事から早く帰ってきたほうがやる。最近は私が在宅勤務をする日が増えたので、夕食担当になることが多いですね。どちらかに負担がかかり過ぎないように、お互いの様子を探りながらその時々で調整しています。
—— 夫婦にとって最もハードだった体験は? それをどう乗り越えましたか?
夫婦としての危機というのは、これといってないです。普段から、よく話してお互いの気持ちを理解しようとしているから、あまり大きな問題に発展しないんだと思います。やっぱり、会話が大事。ご飯を一緒に食べながら、バスタイムを一緒にとりながら、お互いにリラックスして会話する時間をよく過ごしています。
私はもともと自分の気持ちを表現するのが得意ではなかったのですが、テレサのおかげでだいぶ変わりましたね。相手を理解しているつもりでも、聞いてみなければ本当の気持ちは分からない。話せば話すほど、お互いの理解は深まる。「この人はきっとこういう人だろう」と先入観を持たないようにしようという意識は以前より強くなりました。
同時に、なんでも話を聞いてくれるテレサと暮らしていることで、「弱い自分も出していいんだ」と思えるようになったのは大きな変化ですね。以前は、自分のマイノリティ性に対して、頑なに強がってみることもあったけれど、不安や迷いもある自分をそのまま出していいんだって。ずいぶんラクになった気がします。
目に見える、身近な存在になることが大事
テレサさんが「麻智さん、正座できんのー?」とからかうと、麻智さんは「できるよー。何言うてんのー?テレサさん」と笑い返した。
撮影:千倉志野
—— これからの夫婦の夢は?
やっぱり、今は私たちが法律上の正式な夫婦として認められることが二人の夢ですね。
同性婚ができる社会は、つまり、誰もが生きやすい社会。私たちにはまだ子どもはいませんが、子どもたちが大人になった未来に、今よりも生きやすい社会であってほしいと強く願っています。
同性愛者に生まれても、異性愛者と変わらず結婚もできるし、みんなと同じスタートラインに立ってなんでもチャレンジができる環境を早く実現したいですね。同性婚の実現は一つのシンボルであって、単に私たちの結婚を認めてほしいからではなく、社会を前に進めるために取り組んでいるつもりです。
私たちはたまたま家族や友人、職場の理解も得られているし、近所の人たちにも「訴訟のニュースをテレビで見たよ。頑張ってね」と言ってもらえる環境に恵まれています。近所に暮らす高齢の方も、「LGBTQってあまりピンとこなかったけれど、麻智とテレサのことだよね」と自然に受け入れてくれて。やっぱり「目に見える、身近な存在になる」って大事なんだと実感することが多いんです。
一方で、周りを見渡すと、苦しい思いをしながら孤独に悩んでいる人も少なくありません。その人たちの代弁者になるつもりで、自分たちにできることをやっていこうとテレサとも話しています。
子どももいつか授かれるといいなと思って、人工授精にもトライしてきました。いずれ、日本でも同性カップルが養子縁組を迎えやすい社会も実現してほしいなと思っています。
—— あなたにとって「夫婦」とは?
ベストフレンドであり、協力し、補完し合いながら、人生の道のりを乗り越えていく同志。運命共同体ですね。
昨年、「パートナーシップ宣誓書」を提出したその前後で私たちの関係は特に変わってはいません。でも、「何かあったときに、行政にも相談できる」と思えるだけですごく安心できるんですよね。これからも一歩一歩を着実に、二人で進めていきたいです。
性別による固定観念がないからこそフラット
2Fの寝室には、1Fのリビングに向かって小さな窓が。下にいる愛犬の様子もここから見守ることができる。
撮影:千倉志野
—— 日本の夫婦関係がよりよくなるための提言を。
周りの異性婚夫婦を見ていると、「男はこうあらねば」「女はこうあるべき」という思い込みにとらわれて、対等なコミュニケーションができていないカップルが少なくない気がします。私たちの場合は性別による固定観念から解放されているので、フラットな会話をしやすいのかもしれません。
「思ったことは口にしないと相手に伝わらない」と意識して、自分の気持ちをこまめに話すことが大事ですよね。そして、「ありがとう」をちゃんと言う。毎日言う。我が家では「ご飯を作ってくれてありがとう」「お風呂を入れてくれてありがとう」と、感謝の言葉が頻繁に飛び交っています。やってもらって当たり前と思わず、サボらずに感謝を伝える。私は職場ではよく「ありがとう」と伝えているつもりでしたが、家族に対してはあまり意識できていなくて、テレサの行動から学びました。いい習慣だと思うので、皆さんにもおすすめしたいです。
(敬称略・後編に続く)
(聞き手・構成、宮本恵理子、撮影・千倉志野)