ソニーグループの好調が続いている。
8月4日に公表された2021年度第1四半期決算では、売上高は前年同期比15%増の2兆2568億円、営業利益は同26%増の2801億円となった。2021年度連結業績見通しも、売上高こそ9兆7000億円から変更しなかったものの、営業利益は9800億円と、500億円の「上方修正」だ。
ソニーグループの2021年度第1四半期業績。好調を維持し、売上高・利益ともに前年に比べ大幅に伸ばしている。
出典:ソニー決算説明会より
2021年度通期での業績見通しも、利益をさらに上方修正。営業利益は9800億円を目指す。
出典:ソニー決算説明会より
興味深いのは、好調の内訳の変化だ。
これまで、同社の伸びを支えていたのは「ゲーム」や「イメージセンサー」だった。それが今期、上方修正の主役となったのは、「音楽」と「エレクトロニクス」だったからだ。
セグメント別業績。営業利益上方修正の牽引役となったのは「音楽」と「エレクトロニクス」。特にエレクトロニクスの大幅増益が目立つ。
出典:ソニー決算説明会より
コロナ禍2年目でどのような変化があったのかを、ソニーグループ決算から分析していく。
ここへきて音楽事業の収益が拡大、その理由
ソニーグループの利益拡大を牽引した「音楽」と「エレクトロニクス」。この2つの事業に共通するのは、「コロナ禍の影響減少」という要素だ。
音楽事業は前年同期比44%増の2549億円と、大幅に売上高が上昇した。その背景には、いわゆる「鬼滅特需」もある。2020年末大ヒットした『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』のパッケージ版や配信の収益が反映されているからだ。
音楽事業。売上が前年同期比で44%と大きく伸びている。もちろんここには「鬼滅特需」の影響も。
出典:ソニー決算説明会より
だが、それだけで音楽事業が伸びたわけではない。収益拡大の基盤となったのは、ストリーミング型の音楽サービスからの収益が順調に拡大していることが大きい。
以下はオンライン決算説明会で示された資料だが、2020年度に比べ劇的に伸びているのがわかる。
ソニーの音楽事業におけるストリーミングサービス売上の変化。右肩あがりだが、2021年度になって一段と伸びているのがわかる。
出典:ソニー決算説明会より
これはなぜなのか? 決算説明の中でソニーグループ・代表執行役副社長兼CFOの十時裕樹氏は「有料会員制サービスも伸びているが、無料・広告型サービスの収益が戻ってきたことも大きい」と説明する。
ソニーグループ・代表執行役副社長兼CFOの十時裕樹氏。
出典:ソニー決算説明会より
コロナ禍での消費冷え込み・業績悪化に対応するため、2020年中は企業が広告出稿を手控える動きがあった。
だが、欧米を中心にワクチン接種が広がったこともあってか、経済は復調傾向にあり、それがストリーミングサービスの売上高にも影響してきたと考えられる。
“コロナショック”のデジカメ事業が大幅増益
こうした傾向は、いわゆる消費者向け家電を扱う「エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション(EP&S)分野」も同様だ。
売上高は前年同期比で実に59%増の5763億円まで伸び、営業利益で89億円の赤字だった事業は718億円の黒字へと大幅増益となった。
エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション(EP&S)分野業績。売上・利益ともに大きく伸びている。
出典:ソニー決算説明会より
EP&S分野を牽引したのは主にテレビとデジタルカメラだ。
特に注目すべきはやはりデジカメだ。2020年は旅行需要が落ち込み、「コロナの影響をもっとも強く受けた製品」とも言われた。一方、今期については、前述のようにワクチンの影響もあって「フルサイズミラーレスの需要は戻ってきている」(十時CFO)という。
高付加価値な大型テレビとともに、ミラーレスの「α」シリーズが売れたことがエレクトロニクス事業の収益拡大につながった。
出典:ソニー決算説明会より
五輪中継ではプロカメラマンがソニーの「α」シリーズを使う姿も多く見かけられるが、この点について十時CFOは「スポンサーシップの関係から直接言及はできない」と前置きしつつも、「一般論として、プロ向けでのαシリーズのシェアは拡大している」とコメントした。
しかも、ソニーはエレクトロニクス事業の収益改善について「一時的なものではない」(十時CFO)と認識している。コロナ禍での需要減速が緩和し、堅調な伸びに戻ったという点が大きいが、それだけが理由ではない、と十時CFOは説明する。
「過去の構造改革の成果として、さまざまな部分で経営体質の強化ができたことが大きい。体質改善によって(EP&S分野が)しっかりと利益貢献できる状況になった、と理解している」(十時CFO)
デルタ株で見通しが変わった「映画」事業
コロナの悪影響を脱した事業がある一方、そうでない事業もある。それが「映画」だ。
直近の動きとして、デルタ株の流行拡大もあって、前期の予想からの変化も見られる。
2、3カ月前まで、ワクチン接種が進んだアメリカなどは他国より一足先に劇場が平常の状態に戻っていくだろう……との予測があり、2021年度の見通しも比較的強気なものとなっていた。
その見通しが、ここへきてトーンダウンしてきた印象が強い。テレビ・配信向け作品への旺盛な需要を背景に増益は見込んでいるものの、一部作品がコロナの影響で納入が後ろ倒しになることや、劇場公開を延期・見合わせる作品が出てくることなどから、売上予測は200億円の下方修正となった。
映画事業。今期は利益率を落としている。コロナ禍からの平常化が不透明になってきたこともあってか、2021年度通期見通しは弱含みに。
出典:ソニー決算説明会より
「米国の劇場はコロナ前の40%から50%程度の集客に戻ってはいるのだが、そこから平常化までは不透明な状況が続いている。再拡大の状況を読むのは難しいが、劇場のフルでの再稼働は難しいのではないか」(十時CFO)
そのため、ある作品は公開日を延期し、またある作品は劇場公開から配信へと切り替える。配信へ移行する作品は主にファミリー向け。理由は「アメリカでは、子供連れ・ファミリーで映画館に行くことへの抵抗感がまだある」という判断からだ。
デルタ株増加による映画館平常化時期見直しから、劇場公開予定の変更や配信への切り替えも。特にファミリー向け映画への影響が大きいという。
出典:ソニー決算説明会より
巣ごもりもひと段落のゲーム事業、「好調だが安定」のPS5
もう一つ、コロナの影響を受けているのが「ゲーム」だ。
ゲーム&ネットワークサービス分野は、前年同期比で売上高はプラス2%と微増、一方の営業利益は406億円減の833億円となった。
ゲーム&ネットワークサービス分野。PS5は品不足が続く順調な売れ行きだが、巣篭もり需要が落ちついたこともあり、前年度に比べ利益は減っている。
出典:ソニー決算説明会より
ゲームセグメントが減益になった理由は2つある。
1つは、前年同期には「The Last of Us Part II」などのメガヒットタイトルに恵まれたが、今期はそうではないこと、そして2つめは、前年同期がまさに「コロナ禍の巣ごもり需要」最盛期であった、という点だ。
このことは、ソニーグループ決算に関する補足資料の中にある、「ゲームソフト販売数」と、有料サービスである「PlayStation Plus会員数および月次アクティブユーザー数」を見ると分かる。
ソニーグループが公開している決算に関する補足資料より抜粋。ゲームソフト販売数・ネットワークサービスの利用者数ともに、2020年の「巣篭もり需要最盛期」に比べ落ち着いている。
出典:ソニー決算説明会より
とは言うものの、十時CFOは強気の見方を崩さない。
「コロナ前の2019年度と比較すると、ソフト売り上げは38%増、ゲームプレイ時間も18%増となっている。2021年度に発売した自社タイトルも、全てが想定を上回る販売数だ」(十時CFO)
それを反映してか、2021年度通期での予測も、売上・利益ともに変えていない。
PlayStationの本体販売台数自体は、2020年度の数字に比べ落ち着いてきたものの、好調ではある。今年度の目標として「PS4発売翌年の販売台数である1480万台を上回る」という予定にも変更はなく、半導体不足が叫ばれる中でも「計画達成に必要な数の調達は問題ない」とする。
ゲーム機本体のハードウェア販売の利益貢献についても、以前より「(ディスクドライブ付きの)スタンダードエディションについては、周辺機器売り上げなども含め、この6月から」としていたが、この計画にも変更は起きていないという。
逆に言えば、世界的な品薄状況を劇的に改善するような増産も短期的には難しい、ということでもあるだろう。
「モメンタム(勢い)を落とさないよう、動向を注視していく」と十時CFOは説明する。世界的なインパクトの「特需」が落ち着いていく中、ヒットゲームや入手難易度の改善など、顧客の興味をPS5から離れさせない施策が、そろそろ必要とされる時期ではないか、とも感じる。
(文・西田宗千佳)