4月1日から社長に就任した宮川潤一氏は、2021年度第1四半期決算について「まずまずの結果」と称した。
出典:ソフトバンク
ソフトバンクは8月4日、2021年度第1四半期(2021年4月1日〜6月30日)決算を発表。
ソフトバンクにとって、この第1四半期は非常に大きなトピックが目白押しだった。オンライン専用プランの本格展開による携帯料金値下げの波、子会社であるZホールディングス(ヤフー)とLINEの経営統合など大きなトピックが重なったからだ。
結果、売上高は1兆3565億7400万円(前年同期比で15.7%増)、営業利益は2830億9900万円(同1.1%増)と増収増益の結果だが、純利益は1509億6400万円(同0.8%減)となった。
説明会で、ソフトバンク社長の宮川潤一氏は「まずまずの結果だと思う」としつつ、その詳細を語った。
LINEMOの契約数は「50万にも満たない」
2021年3月、LINEMOがスタートした。
撮影:小林優多郎
ソフトバンクの一般消費者向け事業は回復傾向にある。これはコロナ禍で実店舗の営業が制限された前年同期に比べて、現在は営業再開する店舗が増え、端末販売の成績が回復しているからだ。
ただし、宮川氏は楽観視はしていない。従来から示してきた通り、政府の携帯電話料金値下げの方針を受けて展開するさまざまな施策によって、年間で700億円程度の減収を見込む。
ただ、宮川氏は携帯料金値下げの主な実行策であるオンライン専用プラン「LINEMO(ラインモ)」についても、既存の低〜中料金プランのワイモバイルの方が好調という意外な事実を口にしている。
「(LINEMOの契約数は)50万にも満たない。(低料金という)お客さんが求めているものが、ワイモバイル側の方にかなり流れている。ワイモバイル側も契約者数を開示する段階ではないが、約700万まで積み上がっている。LINEMOとワイモバイルが(合計して)700数十万。近いゾーンにいる」(宮川氏)
また、LINEMOに加入するユーザーの転入元についても「ソフトバンクからの乗り換えがほとんどに近い状態。他社よりソフトバンクブランド(から)の方が多い」(宮川氏)と、LINEMOが他社への流出を防ぐ料金プランとして働いている現実を明かした。
LINE MOBILE利用者からの声から生まれたという「LINEMO」のミニプラン。
撮影:小林優多郎
LINEMOは7月15日に「ミニプラン」(月間3GBで月額990円)という格安SIM並みの料金プランを発表している。宮川氏はミニプランについて、傘下のMVNO「LINE MOBILE」を解約するユーザーへの調査の中で、仕様を決めたと言及した。
宮川氏はミニプランを「外に出ていくよりましと1歩踏み込んだ」「原点に戻って攻め側に回ろうと今回踏み切った」と表現。
だが、ソフトバンクとしては、LINEMOが他社のオンライン専用プランと比べて伸び悩んでいる点も、またより安価なプランの提供に至ったことも、大きな痛手とは思っていないようだ。実際、年間700億円という減収予想も「オントラック(想定通り)」としている。
半導体不足問題で「新型iPhone」に不安
宮川社長は次のiPhone商戦に不安を感じている。
出典:ソフトバンク
ソフトバンクがコンシューマー事業に慎重な見方をしているもう1つの要因がある。それは世界的な半導体の供給不足による新型iPhone販売への不安だ。
宮川氏はiPadの供給がニーズより下回っている現状についても触れ、「アップルさんがiPhone(の生産体制)がこれから苦しいという会見をされていた」「秋口以降のiPhoneの供給が間に合うかが心配事」と口にした。
ソフトバンクに限らず、iPhoneの発売はアップル製品を扱う通信キャリアにとっては一大イベントだ。
とくに2020年発売の現行「iPhone 12」シリーズからは5G通信に対応していることもあり、キャリアとしては新型iPhoneの発売を、5G契約者数の増加につなげたい思惑がある。
NAVERと連携、PayPay加盟店のインバウンド利用を強化
ソフトバンクは、NAVERと協力してQRコード決済の国際化を進める。
出典:ソフトバンク
そのほかに宮川氏は韓国NAVERとの連携についても触れた。
今回は、ブロックチェーン技術を活用して国際的な決済ネットワークを広げるアメリカのTBCASoftへNAVERと共同出資をするという内容が発表された。
ソフトバンクは2019年2月にTBCASoftへ出資しているが、今回は最大500万ドルを追加出資。NAVERは最大2000万ドルの新規出資を行う。
ソフトバンクとNAVERそれぞれの出資額。
出典:ソフトバンク
共同出資の目的として宮川氏は「NAVERと協力して国際的なQRコード決済の経済圏を広げていく」とし、日本からは「監督官庁の許可が必要」としつつも、PayPayの参加を示唆した。
具体的な内容として、宮川氏は「台湾の観光客の決済をスタートしたい」と、台湾からの旅行客が普段自国で利用している決済アプリを日本のPayPay加盟店で利用できるようにする方向性を示した。
その時に示されたスライドには、台湾のフィンテック企業・Pi Mobile Technologyによる「拍錢包(Pi Wallet)」と、通信キャリア・亜太電信による「GtPay」のアイコンが掲載されていた。
世界進出も狙うPayPayと不可思議なLINE Payの存在
PayPayの展開について語る宮川氏。
出典:ソフトバンク
宮川氏は「世界中のどこでもPayPayが使えるように」と野心を語る。が、同社のポートフォリオを見ると、不思議な点がある。
それは、Zホールディングス傘下となったLINEの決済サービス「LINE Pay」の存在だ。LINE Payは日本以外にも台湾、タイ、インドネシアでQRコード決済を展開しており、特に台湾は日本に次ぐ規模の市場と表現されてきた。
PayPayとLINE Payはそれぞれ別の形でインバウンドに関する決済アライアンスを組んできた(情報は各社の公式ホームページの公開情報から作成)。
作成:Business Insider Japan
また、LINE Pay自身も国を跨いだ決済に取り組んでおり、2018年には「LINE Pay Global Alliance」を発表。現在もLINE Payの読み取り用のQRコードを設置する加盟店では、中国の「微信支付(WeChat Pay)」、韓国の「NAVER Pay」のユーザーが決済できるようになっている。
グループ内のPayPayも同様の取り組みをしている。国内の一部の加盟店では中国の「支付宝(Alipay)」と韓国の「Kakao Pay」のユーザーを受け入れている(そもそもPayPayのベース技術を開発するインドのPaytmは、AliPayの運営元であるAnt Financialの出資を受けている)。
ZホールディングスのCo-CEOを務める川邊健太郎氏は、ヤフーとLINEの統合の際、LINE Payはアジア主要国での発展を目指すとしていた。
出典:Zホールディングス
なお、Zホールディングスは、既に国内のコード決済はLINE PayからPayPayへ統合する方針と、台湾などのLINE Payが広まっている国や地域についてはLINE Payブランドを継続する方針を示してきた。
ただ今回の、“PayPayのネットワークにNAVERとの共同出資の成果を取り込む”という趣旨の発表の背景には、海外展開も含めて何らかの“整理”が行われる可能性もにじむ。
(文・小林優多郎)