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アメリカは東京五輪をどう総括したか。主要メディアはIOCを「非民主的」「詐欺以上」と批判

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7月23日、東京五輪開会式で打ち上げられた花火。東京は4度目の緊急事態宣言下、新型コロナ新規感染者数は4000人を超える日が続いた。

Mark Edward Harris

東京五輪が8月8日、閉幕した。米ニューヨークに住む私の周りでは、新型コロナの危機的な感染拡大が続くなかでの開催に、(在米の)日本人こそ懸念を示したものの、アメリカ人の友人たちの間ではほとんど話題にのぼらなかった。

そうした現実を反映してか、アメリカで東京五輪の独占放映権を持つNBCテレビの視聴率は、2016年のリオ大会に比べ、全日で45%低下。プライムタイム(20時〜23時)も51%落ち込んだ(CNN.com記事による)。

それでも、プライムタイムは開催期間中の平均視聴者数が1350万人と、高齢者層を中心に他局をしのぐ数字を獲得した。全競技を配信したNBCのスマホアプリや同社運営のストリーミングサービス「ピーコック(Peacock)」を合わせると、平均視聴者数は1680万人。前回のリオ大会は2900万人だった。

視聴率伸び悩みの理由

テレビの視聴率が大きく落ち込んだ理由としては、リオ大会以降の5年間で、動画視聴のあり方が大きく変化したことがあげられる。

ネットフリックス(NetFlix)などストリーミングサービスが台頭し、テレビ番組をリアルタイムで見る習慣は、いまの若い人の間にはほとんどない。

そんななかでも、スポーツは生中継の醍醐味があるので、ドラマや映画と違ってネットフリックスにも勝てる分野とされてきた。にもかかわらず、アメリカにおけるスポーツ中継の視聴率は下がり続けている。

今回の五輪について言えば、NBCのスマホアプリやウェブサイトの使い勝手が悪かったことも、視聴率伸び悩みの一因だったとされる。

私も何度か試してみたが、コンテンツへの導線が複雑で、観戦したい競技や選手を探すのが難しかった。50代後半の友人はスマホで五輪を見ていたが、使い勝手の悪いアプリは早々とあきらめ、YouTube経由での視聴に切り替えていた。

いずれにしても、現在のような傾向が続けば、NBCにとって五輪の放映権を独占しているうまみが浸食されていく可能性がある。

NBCは東京五輪を含む直近の夏冬4大会について、約43億8000万ドル(約4800億円)の放映権契約を国際オリンピック委員会(IOC)と結んでいる。さらに、2032年までの延長がすでに決まっており、契約総額は約76億5000万ドル(約8400億円)に達する。

放映権(販売)収入の大きな部分をNBCとの契約が占めることから、IOCにとっても視聴率の低下傾向は大きな脅威と言える。

IOCの組織体質、五輪のあるべき姿

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8月5日、スケートボード男子パークで金メダルを獲得したオーストラリア代表のキーガン・パーマーの滑り。アスリートたちはベストを尽くした。

Mark Edward Harris

視聴率の低下以外にも、東京五輪はさまざまな問題を浮き彫りにする形となった。

8月8日(現地時間)の閉会式終了を待って、アメリカの主要メディアは東京五輪を総括する批評をそれぞれに掲載している。

新型コロナのパンデミック(世界的大流行)さなかで開催を強行したことの是非にとどまらず、IOCの組織体質や五輪の本来のあり方に疑問を投げかける記事が相次いだ。

ニューヨーク・タイムズはこう指摘している。

「パンデミックのさなか、日本の一般市民から強い反対があったにもかかわらず、五輪を優先したことは、組織(IOC)を支える非民主主義的な体質を物語っている

ワシントン・ポストは「五輪を開催したい都市はだんだん減っている。そのことはIOCに何かを告げているはずだ」と題する記事を掲載。

フォークを握ったIOCは、日本という嫌がる幼児に強制的に食事をさせようとした。さて、この話は、誰が権力を持っているかということを痛感させる。明らかに開催都市や国の人々ではない」

ワシントン・ポスト記事は、開催都市に残される五輪の「奇妙な」遺産として、東京大会の場合、実際にかかった費用が154億ドル(約1兆7000億円)で、当初予算(74億ドル)の倍以上になったと指摘。

そこには準備期間のコストは含まれておらず、IOCが開催地にそれを負担させる仕組みは持続可能ではなく「詐欺以上」だとする。

同記事はこう結ぶ。

「サヨナラ、トウキョウ。強制してごめんよ。君らの経験を書き留めて、将来の五輪を開催しようとする都市が、きちんと警告を受けられるようにシェアしておくれ」

また、政治ニュース専門サイトのアクシオス(Axios)は、

「東京大会は、五輪という国際的なスポーツイベントが、アスリートよりお祭り騒ぎとの結びつきのほうが強まっていっているという、将来の大会が逃れられない現実を示した」

とし、(このあとの開催都市である)北京やパリの大会主催者とスポンサーは、大会のあり方を検証すべきと提言している。

加えて、東京大会が「試験に合格した」とするのは時期尚早だとアクシオスは指摘。

その理由として、新型コロナの潜伏期間は数週間あり、大会閉幕直後の現時点ではまだ、五輪に関係する感染者数の全体像がわからないこと、さらには首都圏で急増している新規感染者数が五輪開催と関係あるのかどうか、専門家もまだ結論を出していないことをあげている。

アクシオスは、東京大会に出場した選手が暑さと湿度に苦しんだことも、将来解決すべき課題とする。地球温暖化による気候変動の影響が顕在化するなか、五輪を開催する時期や場所の見直しが必須だと強調する。

現地取材したカメラマンたちに本音を聞いた

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7月30日、女子5000メートル予選で自己新を記録したスペイン代表のルシア・ロドリゲス。直後にトラックに倒れ込み、心配そうに近寄る日本人スタッフ。最終日の男子マラソンでは30人の棄権者が出るなど、選手たちは終始、猛暑に苦しめられた。

Mark Edward Harris

実際に東京五輪を取材した外国人たちはどう感じたのか。2人のカメラマンに話を聞くことができた。

1984年から夏季五輪の取材を続けているベテランフォトグラファー、デビッド・バーネット氏は今回、IOCとの契約で東京を訪れた。

「フォトグラファーには意見や批評などない。歴史的な写真を撮るだけだ。

目を見張るばかりなのは、選手らの能力だ。数万人を収容する美しい競技場に数百人しか観客がいない状況でも、鍛錬と自制の結果として、新記録を次々に生み出した。コロナショックのさなかでも、アスリートとして競技することを選び、ベストを尽くした。それほど健全なことはない」

フリーランスのフォトグラファー、マーク・エドワード・ハリス氏は「新型コロナ感染拡大という危機のなかで開かれる東京五輪には歴史的な意味がある」と考え、今回初めて五輪の取材を手がけた。

米カリフォルニア州ロサンゼルス在住で、母親ときょうだいが新型コロナに感染したというハリス氏は、海外メディアと選手を一般市民から完全に分離する「バブル方式」がかなり成功していると語った。

バブル方式が可能になったのは、海外から来る五輪関係者の8割以上がワクチンを接種していたことに加え、検温・消毒・検査など組織委員会が準備したシステムが機能し、現地スタッフが絶え間なく努力してきたためだとする。

「アメリカの大リーグ(MLB)もシーズン当初は無観客で始めた。当然の措置だ。(無観客であっても)選手たちは競技でベストを尽くすことを、世界中の人々が目撃した」

日本でも報じられているように、海外メディアからはプレスセンターの食事の価格が高い、競技場との移動に時間がかかるなどの苦情が相次いでいた。しかし、ハリス氏はこう言う。

「日本人の五輪スタッフやボランティアは一所懸命に働いていた。コップに水が半分しか入っていないと見るより、半分も入っていると見るべきではないか」

しかし、7月1日から8月8日までの間に、五輪関連の新型コロナ感染者数は436人(組織委員会の発表)にのぼっている。東京五輪に「歴史的な意味」やスタッフの「一生懸命」があったにせよ、多かれ少なかれ感染拡大がそこで起きたことは間違いない。

ワシントン・ポストは次のように厳しく指弾する。

「五輪があったから新型コロナの感染が広がったのかどうか知るには、しばらく待たなくてはならない。感染が広がるにせよ、広がらないにせよ、IOCが日本と世界に対して押しつけたリスクだったのは事実だ

(文:津山恵子


津山恵子(つやま・けいこ):ジャーナリスト、元共同通信社記者。ニューヨーク在住。2007年から独立し、主にアエラに、米社会、政治、ビジネスについて執筆。近著は『教育超格差大国アメリカ』『現代アメリカ政治とメディア』(共著)。メディアだけでなく、ご近所や友人との話を行間に、アメリカの空気を伝えるスタイルを好む。

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