ビジネス向けの新サービスを発表したココナラの鈴木歩社長。会員数227万人を抱えるココナラは、ロゴデザインも一新した。
撮影:横山耕太郎
ビジネス向けのスキルシェアサービスの競争が激しさを増している。
資料の作成から、動画の編集、似顔絵など40万件以上のサービスが出品されているココナラは8月10日、ビジネスに特化した新サービスを開始した。
ビジネス向けスキルシェアサービスの市場では、ランサーズやクラウドワークスなどが先行しているが、ココナラも本格参入する形だ。
競合サービスも勢い付く。大手企業などで実績を積んだ「プロ人材によるスキルシェア」サービスを展開するサーキュレーションは2021年7月27日に、東証マザーズに上場したばかり。
1回の利用が500円のスキルシェアから、AIやDXなどのプロ人材によるスキルシェアまで、市場のすそ野が広がっている。
市場規模「2030年に5兆2000億円」
ココナラビジネスのホームぺージ。ビジネス関連のスキルをピックアップしている。
提供:ココナラ
「2021年3~5月のビジネス関連の利用は前年同期比で74%増と、力強く伸びている。
新型コロナの影響もあり、企業では外の人材を使いながら、必要な時だけ使い人件費を変動費化するトレンドがある」
ココナラの鈴木歩社長はそう話す。
ココナラが情報通信研究所の報告書をもとに市場規模を推定したところ、2030年には年間5兆2000億円の潜在市場規模を見込めるという。
提供:ココナラ
ココナラの新サービス「ココナラビジネス」とは
拡大するスキルシェア市場で、ココナラが注目するのがビジネス分野だ。
これまでココナラでは、占いやインターネットゲームの解説など、プライベート用のスキルと、デザインなどのビジネススキルのカテゴリーが混在し、計約450のカテゴリーがあった。
ココナラが始めた新サービス「ココナラビジネス」では、ココナラに出品されているスキルのうち、ビジネス用のスキルをピックアップ。「デザイン」「イラスト・漫画」「Webサイト制作」「ビジネス代行・コンサル・士業」「ライティング・翻訳」などに分類され、カテゴリーは約230種類あるという。
また、法人利用の利便性を高めるため、チームを作って作業の進捗や購入履歴を把握したり、納品物に関してチームで話し合える機能を備えたりと、ビジネスに特化した機能を追加した。
ベンチャーから大企業まで利用広がる
ベンチャー企業・reiniciarがココナラで発注したパンプレットや似顔絵、封筒など。
撮影:横山耕太郎
ココナラが開いた新サービス発表会見には、ココナラをビジネス利用する企業担当者も参加した。
2021年1月に起業したばかりのベンチャー企業の社長は、「Webサイトやチラシ、名刺、パンフレットの作成をココナラに発注している。起業後は全部ひとりでやらないといけないが、パンフレットの文字の大きさやデザインなど相談しながら進められた。初期フェーズで役立つサービス」と話した。
また大企業の担当者は、ロゴの作成をココナラに依頼したと説明。
「過去の作品と評価が掲載されており、どのクリエーターに依頼したらいいのかがわかりやすかった。
社内では『直接クリエーター個人に頼んで大丈夫なのか』という声もあったが、依頼の1週間後には複数の案を作ってくれ、色の相談などもスピーディーに対応してくれた」(住友生命保険の担当者)
競合との差別化は「全部がそろう」こと
「制作・ビジネス系」のカテゴリの流通額が大きく伸びている。
提供:ココナラ
ビジネス領域でのスキルシェアサービスは、競争が激化している。
ココナラは出品者側が値段を決めてサービスを出品する「EC型」だが、依頼主が提示する案件について手をあげるクラウドソーシングでは、ランサーズやクラウドワークスが先行している。また、スキマ時間を利用したコンサル事業では、2020年3月に上場したビザスクもある。
競争が激しいスキルシェア市場だが、ココナラはどう差別化していくのか?
「ココナラが唯一無二なのは全てを扱っているということ。部分的には他のサービスと内容がかぶる部分もあると思う。ただ、1つのプラットフォームで、全てがそろうという使い勝手の良さがある」(鈴木氏)
一方で、「他のサービスを競合とは思っていない」とも言う。
「他のサービスと一緒に市場を拡大させていければと思っている。すべてのスキルシェアサービスの利用者を合計しても、利用者は人口のほんの一部でしかない。まずは『オンラインで発注するのが怖い』という、スキルシェアリング市場への意識を変えていきたい」(鈴木氏)
ココナラは2021年3月に東証マザーズ上場時、市場から調達した資金の使い道について「広告費を含めたマーケティング費用に充て、利用者増加へさらなる攻勢をかける」と説明してきた。
「新サービスによって、ビジネス向けの器も整った。決算年度が始まる2021年9月から、サービス周知のための露出を増やしていく」(鈴木氏)
高単価「プロ人材」のシェアサービスも上場
上場後にオンライン会見を開いたサーキュレーション社長の久保田雅俊氏。
撮影:横山耕太郎
最低500円から、誰でもスキルを出品できるココナラとは対照的に、専門的なスキルを持つ「プロ人材」に注目するスキルシェアサービスを運営するのがサーキュレーションだ。
サーキュレーションでは、DXや新規事業のアイデア創出、コンサル、事業継承などの分野で、大企業などで経験を積んだ人材によるスキルシェアサービスを展開。
2014年の創業から、売上高は年平均で約1.7倍に増え続けており、2021年7月期には54億5000万円の売上高を見込む。
サーキュレーションは2021年7月27日、東証マザーズに上場。初値は公募売り出し価格(1810円)を77%上回る3205円をつけた。
2021年8月10日現在は、3100円程度で推移し時価総額は約254億円。ココナラも3月の上場時、公開価格1200円に対し初値は2300円を付けており、スキルシェアサービスへの市場の関心は高いことがうかがえる。
月報酬が100万円超のプロ人材も
サーキュレーションは「プロ人材」に限定したスキルシェアサービスで売上高を伸ばしてきた。
提供:サーキュレーション
スキルシェア市場で、サーキュレーションの差別化点は、専門知識を持つ「プロ人材」によるスキルシェアであることだ。
「現状ではDXなど専門知識のある人材を確保したくても、採用に半年以上かかったり、そもそも正社員では採用できなかったりする。サーキュレーションのサービスでは、必要な知識を持つ人材を翌週からでも紹介できる」
サーキュレーション社長の久保田雅俊氏(38)はそう説明する。
サーキュレーションでは、まず依頼者の課題を把握し、同社に登録している1万7000人の「プロ人材」から、適した人材をアサインする。
3カ月から12カ月のプロジェクトを組み、週1日~3日、働くケースが多く、AI関連のプロジェクトなどの場合には、月に100万円以上の報酬を受け取るプロ人材もいるという。
「3社同時に働く時代」が来るか
サーキュレーションには約1万7000人のプロ人材が登録している。
提供:サーキュレーション
どんな人がプロ人材として活躍しているのか?
「コロナ後は特に、DX、マーケティング、WEBマーケティング、新規事業開発などの需要が高まっている」(久保田氏)
プロ人材の専門分野は、以下の割合になっているという。
・DX領域(ウェブディレクターやリードエンジニア)などが29%
・マーケティングやイノベーションなどの領域が26%
・人事や広報、財務などの領域が45%
そのうち副業・兼業が約4割、 現役の経営者が約4割、個人事業主が2割という。
「コンサルに委託するのとは違い、直接、専門知識を持つ人材と協働できるのが強み。プロ人材にとっても、やりがいだけでなく自由度の高い働き方ができる」(久保田氏)
サーキュレーションの「プロ人材」は、市場のニーズに応じて、サーキュレーションがスカウトする形をとっている。
「スキルシェアの人材をただ増やす方針ではなく、量よりも質を優先して考えている」(久保田氏)
久保田氏は「人口減少が進む日本こそ、プロフェッショナル人材としての働き方を広げていく必要がある」と指摘する。
「アメリカでは、スキルをもとにプロジェクトベースで働くことが当たり前になっている。
日本は1社に30年勤める終身雇用の時代から、1人が3回転職する時代になった。そしてこれからは、1人が3社で同時に働く時代にパラダイムシフトする。プロフェッショナルとして、一人ひとりが生産性を高めて働く土台を作っていきたい」(久保田氏)
(文・横山耕太郎)