脱プラスチックの「誤解と課題」…プラ依存社会は変われるか

プラスチック

世界では毎日のように大量のプラスチックがごみとして捨てられている。

Andrew Fox/Getty Images

世界で生産されているプラスチック量は、年間で約4億トン。このうち日本で生産されているのは約1000万トンだ(プラスチック基礎知識2021より)。

プラスチックが大量生産・大量消費されていく中で、大きく2つの課題が表面化してきた。

プラスチックの原料として「石油」を大量に消費し、焼却処分をすると二酸化炭素が排出され地球温暖化を助長してしまうという点。そして、廃棄されたプラスチックが海洋マイクロプラスチックなどとなって環境を汚染しているという点だ。

SDGsの取り組みへの注目も相まって、ここ最近「脱プラスチック」に向けたさまざまな取り組みが進められている。

「『脱プラ』を掛け声に、使用量を減らしていこうということならもちろん賛成です。ただ、『脱プラ』という言葉通りのこと(プラスチックをゼロにすること)が達成できると思っているのだとすると、それは現実的ではないでしょう

こう指摘するのは、循環経済(サーキュラー・エコノミー)の研究者、叡啓大学の石川雅紀特任教授(神戸大学名誉教授)だ。「脱プラ」の果てに、どんな社会が訪れるのか?

「脱プラ」は「ゼロプラ」ではない

マイバック

レジ袋ではなく、マイバックを持って買い物に出かける人を見かけることが増えた。

Yagi Studio/Getty Images

脱プラの取り組みは、多かれ少なかれ私たちのライフスタイルに変更を迫るものだ。

日本では2020年6月に、プラスチックの過剰消費の抑制や、環境問題への意識付けを目的に、スーパーやコンビニなどで使われるレジ袋(買い物袋)の有料化が始まった。

同年11月に実施された調査では、ユーザーの7割がレジ袋を辞退しているという結果が公表され、一定の効果があったと見られている。

このように、それほど無理なくライフスタイルを変更できるものもある。

一方で、例えば医療現場のように、プラスチックなしではもはや成り立たない可能性が高い現場も存在する

「注射器や点滴バッグなどの医療機器は、衛生性が重視されるため基本的に使い捨てです。少なくとも、今の日本の衛生水準を(プラスチックなしに)キープすることはできないのではないでしょうか」(石川教授)

注射器

使い捨てを前提として衛生状態を管理しているものも多い。

Serge Vo/Shutterstock.com

ほかにも、ほとんどの人が持っているスマートフォン。冷蔵庫や電子レンジなどの生活必需品とも言える家電製品なども、ほぼプラスチックでできている。

ここまで生活に深く根ざしたものを、今から完全に手放すことは相当難しい。

「机上の議論としては、代わりの素材を使用するという話もありえます。ただ、コストの議論になると用途によって許容できる範囲が変わります」(石川教授)

また、例えばプラスチックのストローの代わりに紙製のストローを使うことはできても、長時間経過するとどうしてもふやけてしまう。

コストを上げて代わりの素材を使ったとしても、プラスチックで実現していた機能を完全な形で置き換えることができない場合もある。

「『代替』という言葉は、プラスチックを他の素材に置き換えるときに、(コストは別にしても)機能やサービスを同等に保つことが暗黙の前提とされているように思います。しかし、これが当てはまる範囲は狭いのではないかと思います。


(脱プラスチックの取り組みは)『機能として劣るけれども、どこまで今と違う生活を許容できるか』ということなんです」(石川教授)

許容範囲は人によって大きく異なる。

中には、脱プラの究極の目標として「ゼロプラ」を目指すべきだと指摘する人もいるかもしれないが、社会全体にそれを強いるコストはとてつもなく大きい。

そのため、「いかにプラスチックを減らしていくか」という議論が、現実的な脱プラの取り組みとなっていると言える。

代替プラスチックの「誤解と課題」

ストロー

紙製のストロー。完全にプラスチック製と同じ性能とは言いがたい。

Ivanova Tetyana/Shutterstock.com

産業界では、製品に使用されるプラスチック量を削減したり、プラスチックだったものを紙にしたりとさまざまな取り組みが進められている。

これに加えて、「プラスチックの代わりとなる新素材(代替素材)」や「リサイクル素材」の活用にも注目が集まっている。

しかし、石川教授は、

「代替素材も、それだけで考えることは恐らくできないでしょう。代替素材には、“副作用”として既存のプラスチックリサイクルのシステム、特に『マテリアルリサイクル』にとってマイナスになるケースがあるんです」

と注意点を指摘する。

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