世界では毎日のように大量のプラスチックがごみとして捨てられている。
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世界で生産されているプラスチック量は、年間で約4億トン。このうち日本で生産されているのは約1000万トンだ(プラスチック基礎知識2021より)。
プラスチックが大量生産・大量消費されていく中で、大きく2つの課題が表面化してきた。
プラスチックの原料として「石油」を大量に消費し、焼却処分をすると二酸化炭素が排出され地球温暖化を助長してしまうという点。そして、廃棄されたプラスチックが海洋マイクロプラスチックなどとなって環境を汚染しているという点だ。
SDGsの取り組みへの注目も相まって、ここ最近「脱プラスチック」に向けたさまざまな取り組みが進められている。
「『脱プラ』を掛け声に、使用量を減らしていこうということならもちろん賛成です。ただ、『脱プラ』という言葉通りのこと(プラスチックをゼロにすること)が達成できると思っているのだとすると、それは現実的ではないでしょう」
こう指摘するのは、循環経済(サーキュラー・エコノミー)の研究者、叡啓大学の石川雅紀特任教授(神戸大学名誉教授)だ。「脱プラ」の果てに、どんな社会が訪れるのか?
「脱プラ」は「ゼロプラ」ではない
レジ袋ではなく、マイバックを持って買い物に出かける人を見かけることが増えた。
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脱プラの取り組みは、多かれ少なかれ私たちのライフスタイルに変更を迫るものだ。
日本では2020年6月に、プラスチックの過剰消費の抑制や、環境問題への意識付けを目的に、スーパーやコンビニなどで使われるレジ袋(買い物袋)の有料化が始まった。
同年11月に実施された調査では、ユーザーの7割がレジ袋を辞退しているという結果が公表され、一定の効果があったと見られている。
このように、それほど無理なくライフスタイルを変更できるものもある。
一方で、例えば医療現場のように、プラスチックなしではもはや成り立たない可能性が高い現場も存在する。
「注射器や点滴バッグなどの医療機器は、衛生性が重視されるため基本的に使い捨てです。少なくとも、今の日本の衛生水準を(プラスチックなしに)キープすることはできないのではないでしょうか」(石川教授)
使い捨てを前提として衛生状態を管理しているものも多い。
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ほかにも、ほとんどの人が持っているスマートフォン。冷蔵庫や電子レンジなどの生活必需品とも言える家電製品なども、ほぼプラスチックでできている。
ここまで生活に深く根ざしたものを、今から完全に手放すことは相当難しい。
「机上の議論としては、代わりの素材を使用するという話もありえます。ただ、コストの議論になると用途によって許容できる範囲が変わります」(石川教授)
また、例えばプラスチックのストローの代わりに紙製のストローを使うことはできても、長時間経過するとどうしてもふやけてしまう。
コストを上げて代わりの素材を使ったとしても、プラスチックで実現していた機能を完全な形で置き換えることができない場合もある。
「『代替』という言葉は、プラスチックを他の素材に置き換えるときに、(コストは別にしても)機能やサービスを同等に保つことが暗黙の前提とされているように思います。しかし、これが当てはまる範囲は狭いのではないかと思います。
(脱プラスチックの取り組みは)『機能として劣るけれども、どこまで今と違う生活を許容できるか』ということなんです」(石川教授)
許容範囲は人によって大きく異なる。
中には、脱プラの究極の目標として「ゼロプラ」を目指すべきだと指摘する人もいるかもしれないが、社会全体にそれを強いるコストはとてつもなく大きい。
そのため、「いかにプラスチックを減らしていくか」という議論が、現実的な脱プラの取り組みとなっていると言える。
代替プラスチックの「誤解と課題」
紙製のストロー。完全にプラスチック製と同じ性能とは言いがたい。
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産業界では、製品に使用されるプラスチック量を削減したり、プラスチックだったものを紙にしたりとさまざまな取り組みが進められている。
これに加えて、「プラスチックの代わりとなる新素材(代替素材)」や「リサイクル素材」の活用にも注目が集まっている。
しかし、石川教授は、
「代替素材も、それだけで考えることは恐らくできないでしょう。代替素材には、“副作用”として既存のプラスチックリサイクルのシステム、特に『マテリアルリサイクル』にとってマイナスになるケースがあるんです」
と注意点を指摘する。
プラスチックは、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリプロピレン(PP)などのいくつかの成分の総称であり、リサイクル工程では基本的に成分ごとに処理される。
異なる成分や不純物が混じると、リサイクルした素材の性質を担保できなくなるのだ。ごみを分別しなければならないのはそのためだ。
ペットボトルは、ほぼポリエチレンテレフタレート(PET)からできており、リサイクルしやすい。ただし、ラベルやキャップにはほかの原料が入っているため、リサイクル時には分別が必用だ。
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つまり、ある程度プラスチックの使用を前提とした社会で代替素材を活用していこうとするのであれば、プラスチックのリサイクル工程に混ざらないようなシステムを考えなければならない。
もちろんプラスチックをすべて代替素材に切り替えることができれば、リサイクルを気にせずに活用することは可能だが、前述したとおり完全にプラスチックを代替できるとは限らない。
実際、石灰石を主原料とした複合素材の「LIMEX」を開発するTBMでは、自社製品の回収システムを整備している。
植物由来の「バイオマスプラスチック」も多種多様
バイオマスプラスチックは「バイオプラスチック」の一部。バイオプラスチックには、環境中で分解される「生分解性プラスチック」も含まれる。生分解性プラスチックはマイクロプラスチック問題の解決策として期待される一方、石油から作られているものもあるため脱炭素には寄与しないこともある。中には植物由来(バイオマス)で生分解性を持ったプラスチックもある。
バイオ出典:プラスチック導入ロードマップ
植物を原料にして作られる「バイオマスプラスチック」も、代替素材として注目されている。
日本では、2030年までにバイオマスプラスチックを約200万トン導入する予定だ。
バイオマスプラスチックは、原料である植物が成長する過程で二酸化炭素を吸収することから、仮に焼却してもカーボンニュートラルな素材だとされている。
また、植物を原料としているとはいっても、一般的なプラスチックとして使われているポリエチレンなどの成分を作ることができる。原料が違っていても、成分が同じであればプラスチックの性質にはなんら違いはない。
代替素材であっても、こういった素材であればリサイクル工程に混ざっても問題はない。
ただし、自然界で分解されないプラスチックの性質に変わりはない。
そのため、海洋プラスチックごみなどの視点から見ると、問題解決にはつながらない点には注意しなければならない。
また、植物を原料にしていても、ポリ乳酸のように既存の石油由来のプラスチックとはことなる成分のバイオマスプラスチックもある。
そういった素材の場合は、リサイクルシステムへの“副作用”がある可能性があるため、導入時には注意が必要となる。
脱プラに欠かせない「リサイクル」の活性化
プラスチック生産量、廃棄量、リサイクル率。日本では、サーマルリサイクルが多い。
出典:プラスチックリサイクルの基礎知識2021
脱プラは、資源の大量消費の抑制やごみ問題の解決のための取り組みだ。
そう考えると、単に消費量を減らすだけではなく、すでに社会にばらまかれたプラスチックを有効活用(リサイクル)する取り組みも重要となる。
日本では、年間約850万トンの廃プラスチックが発生し、リサイクルされたり、焼却・埋立処分されたりしている。なお、日本のプラスチックの有効利用率は、2019年の段階で約85%と比較的高い。
ただし、このうちの60%分は焼却処分時の熱を発電に活用するといった「サーマルリサイクル」によるもの。実際に資源を循環させることができているのは、廃棄されているプラスチックの25%程度だ。
リサイクルには、回収した製品を同じ製品へと再加工する「水平リサイクル」と、回収した製品を別のものへと加工する「垂直リサイクル」がある。
例えば、ペットボトルを回収して再びペットボトルを作るのは水平リサイクル。回収したペットボトルを繊維などの他の製品として再加工するのが垂直リサイクルだ。
2021年2月、サントリーは兵庫県東播磨の2市2町と連携協定を締結したことを発表。回収したペットボトルをペットボトルとして再利用する取り組みを進めている。
提供:サントリー
飲料メーカーのサントリーやキリンなどでは、自治体や小売店と連携してきれいなペットボトルを回収する試みを実施している。
また、アパレルメーカーのユニクロでは、リサイクルペットボトルを素材の一部として、フリースやポロシャツを販売。ナイキ、アディダスなどのスポーツメーカーなどでは、ペットボトルや他の廃プラスチックを素材の一部として活用した製品を数多くラインナップしている。
リサイクル素材を製品に活用する動きは近年加速しており、企業にとっては「付加価値」となっている。
また、それに伴い、リサイクル素材として使いやすいペットボトルの需要は高まっていると石川教授は話す。
「(再利用ペットボトルの)価格が上がれば、もっときれいに回収しようと努力をする人が増えてくるでしょう。リサイクルの静脈(回収)ビジネスを活性化させるのは明らかです。
こうして、業界全体としてリサイクル率が高まれば良いと思います。結果的に、全体で見れば無駄に消費する石油資源の量を減らすことができるはずです」(石川教授)
脱プラの目的を達成するためには、リサイクルで既存の資源をうまく活用しながら、ライフスタイルの変更によって全体としての消費量を減らしていくことがセットになる。
「循環型社会と言いますが、静脈(回収)側と動脈(供給)側の連携はこれまで取れていませんでした。しかし最近、動脈側の企業が、小売店、生活者、行政などと一緒になってどうやったらうまくできるかを考えています。メーカーが自分ごととして本気になると、こんなにすごい変化があるのかと目の当たりにしています。
例えば、花王、ライオンが連携して進めているRecyCreation、ユニリーバが進めているUMILE等のプログラムは、リサイクルが困難な洗剤・シャンプーなどの日用品の詰め替えパウチを回収して、マテリアルリサイクルすることを目指して競合企業、小売店、静脈系企業(回収事業社)などが行政とも連携して進めているこれまでになかった画期的な取り組みです」
産業形態や事業の内容によってこういった取り組みができる企業は限られる。しかし今は、できるところを増やしていくフェーズだ。
「付加価値の高いリサイクルをできる循環型社会のコアのようなものを作る。そして、それでは解決できないような業界や製品については、また別の方法を考えていくということなのだと思います」
(文・三ツ村崇志)