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デルタ株の拡大により、オフィス再開の動きを進めていた企業は頭を抱えている。オフィスへ復帰することの安全性に対し、不安を抱く従業員が多くいるからだ。そんな企業が頼るのは、パブリックリレーションズ(PR)会社。Insiderは、大手PR会社6社に話を聞いた。
世界の大手PR会社のエデルマン(Edelman)、リアルケミストリー(Real Chemistry) 、フライシュマン・ヒラード(FleishmanHillard)などに企業からの依頼が殺到している。依頼内容は、オフィス復帰に向けた社内コミュニケーションの支援、安心して働ける職場環境づくり、従業員のワクチン接種の促進などだ。
元W2Oグループのリアルケミストリー社長、ゲイリー・グレイツは、オフィスの再開を先延ばしにする企業もあるが、あえて再開を進める企業は、予断を許さないコロナの状況にしっかり対応しなければならないと言う。
「デルタ株の広がりで、状況は一変した。多くの企業は訴訟や混乱の恐れから慎重な姿勢を示し、オフィス再開を先延ばししている」とグレイツは話す。
そんな中、リアルケミストリーは、ファイザー、メルク、アストラゼネカ、グラクソ・スミスクラインといった世界有数の製薬会社に、従業員とのコミュニケーションや、オフィス復帰計画の策定に関する支援をしたという。
エデルマンのエンプロイー・エクスペリエンス部門(顧客の社内コミュニケーションや組織文化の問題に特化した部門)のグローバル主任であるシドニー・ローチによると、2020年3月以降、エデルマンは、80社以上の企業(社名は非公開)にオフィス再開に関するコンサルティングを提供し、2020年度の部門収益は前年比で約11%上昇した。
コロナ流行初期から、オフィス復帰に向けたコミュニケーションの重要性にすでに商機を見出していたPR会社もある。
オムニコム・グループ傘下のフライシュマン・ヒラードは、2020年4月、「リカバリー・アンド・リサージェンス(復帰・再開)」という新たな部門を立ち上げ、今では社員35人とパートタイム・アドバイザー250人をこの部門で抱えている。
この部門は、企業のコロナに対するコミュニケーションの体制づくりやリカバリー戦略を支援し、すでに500を超える会社にサービスを提供したと広報担当者は言う。企業は、従業員とのコミュニケーションが、顧客へのコミュニケーションと同様に重要であると認識し始めている。
感染拡大に伴い、社内コミュニケーションは急速に活性化していると、PR会社幹部らはInsiderに話す。 従業員の気持ちを汲み取らない企業に新たな人材は集まらず、離職率が史上最高レベルに達しているなか、優秀な人材は会社を離れていく。そんな現状を企業のCEOたちは自覚しているという。
デルタ株の拡大を受けて、企業は従業員の声に、より耳を傾け始めた。オフィス再開を躊躇するのも、従業員の意見を取り入れたためだ。リアルケミストリーに舞い込む依頼には、オフィス復帰に対する従業員の要望調査や競合他社の復帰計画に関する情報収集などが含まれると、グレイツは取材に語った。 すでに従業員にワクチン接種を義務付けたり、ワクチン接種を促すためのインセンティブ制度を設けたりする企業もある。
しかしフライシュマン・ヒラードのシニア・バイスプレジデント兼パートナーのジェフ・モードックは、そんな取り組みに二の足を踏む企業があると指摘する。
「医療保険の携行性と責任に関する法律(HIPPA)」は医療記録の保護を定めており、企業側は法に抵触することを恐れているからだ。また労働安全衛生局は雇用主に職場の安全確保を義務付けているが、安全管理が万全かどうか不安を感じる企業は少なくない。
フライシュマン・ヒラードは、顧客の従業員にワクチン接種のメリットを説明することで接種を促し、企業のオフィス再開計画を着実に進めていると、シニア・バイスプレジデント兼シニアパートナー、ジョシュ・ロジャースは語った。
従業員の生産性を高めたり、企業への満足度を把握したりするため、社内コミュニケーションは引き続き活発になると、PR会社幹部らは見ている。
その見通しを踏まえ、エデルマンは今後、成長が見込まれる分野に重点的に投資するとローチはいう。それらの分野には、インフルエンサー・マーケティング、パフォーマンス(成果報酬型)マーケティング、ファイナンシャル・コミュニケーションがあり、4つ目にエンプロイーエクスペリエンスも加えられた。
「2020年にはコロナ拡大とブラック・ライブズ・マター(BLM)運動が起こった。それに伴い、企業は従業員にどのような価値を提供でき、それが彼らの企業ブランドにどう影響するかについて改めて考え始めている。労働環境が激変した今、それらをもう一度考えることこそが最も大事なことだ」
と、ローチは強調する。
(翻訳:西村敦子、編集:大門小百合)