- 「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第6次評価報告書が8月9日に発表された。
- 報告書は、気候危機が海や氷河に及ぼす影響は、数千年続くとしている。
- 氷河は溶け続け、数千年間にわたって海面水位は上昇し続けるという。
今後数千年もの間、地球は元の姿を取り戻すことはないだろう。人間の活動は地球のシステムを劇的に変化させてしまっており、21世紀のあとも氷河は溶け続け、海面水位は上昇し続ける ── 。
「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が2021年8月9日に発表した報告書には、そう記されている。IPCCは、世界中から何百人もの科学者を募り、気候危機に関する長年の研究成果をまとめている国連機関だ。
この総合的な研究結果は、地球の長期的な未来と、異常気象の増加など気候変動による短期的な影響の両方について、憂慮すべき姿を描いている。人類は化石燃料を燃やすことで、大気中にあまりにも大量の二酸化炭素を放出してきたため、たとえ今、世界の二酸化炭素排出量がネットゼロになったとしても、地球温暖化は止まらないという。
この温暖化により、海面水位の上昇、氷河の消滅、猛暑、洪水、干ばつ、熱帯性暴風雨などが発生し、今後数十年にわたって地球に大きな変化を与えるだろう。これらの変化の中には「数百年から数千年にわたって不可逆的」なものもあると報告書は指摘している。
氷河は溶け続け、数千年間にわたって海面水位が上昇する
北極圏ではすでに永久凍土が失われつつある。永久凍土とは年間を通して凍っている土壌のことで、その中に何世紀にもわたって植物や動物の死骸などの有機物が閉じ込められている。
しかし、気温が上昇して永久凍土が融けると、これらの有機物が温められて分解され、温室効果ガスとなって放出される。永久凍土に蓄えられている炭素量は、現在大気中に存在する量の約2倍に相当すると考えられており、温暖化がさらに進行することになる。IPCCによると、この温室効果ガスの放出は何百年も続く可能性があるという。
海の変化も「数百年から数千年のタイムスケールで不可逆的なもの」だと報告書は述べている。海は、排出された二酸化炭素の約31%を吸収して酸性化が進んでいる。また地球の他の部分と同様に、温暖化も進んでおり、海水温が高くなると、海洋生物に欠かせない酸素を保持できる量が減少する。
報告書によると、温暖化によって極地や山頂の氷河は数十年、場合によっては数百年にわたって融け続けるという。エビデンスはまだ限られているものの、温室効果ガスの排出量がさらに増えれば、南極の氷床の融解が数百年にわたって加速し続けるということも示唆されている。
これらの氷の融解が、さらなる海面上昇につながる。今後2000年の間に、海面水位は22メートル上昇する可能性がある。報告書では「強い確信」を持って、海面水位が「数千年にわたって上昇し続ける」と述べている。
IPCC報告書が示すその他のポイント
国連は1988年、気候変動に関する情報を各国の政策立案者に提供するためにIPCCを設立した。今回で第6次の評価報告書となる。
2018年、韓国・仁川で記者会見するIPCCの李会晟(イ・フェソン)議長(中央)。
Ahn Young-joon/AP
これらの報告書を取りまとめるために、世界中の何百人もの科学者が膨大な数の科学論文を精査している。そして、気候がどのように変化しているのか、その変化により何が起き、将来的にどのようなリスクがあるのか、そしてそれに対して何をすべきなのかを説明している。
8月9日に発表された報告書は、IPCCによる新たな評価報告の導入部分に当たり、2013年以降、新しい知見を発表していなかった作業部会により作成された。今回の発表から3カ月後の11月9日には、スコットランドのグラスゴーで第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)が開催される。2022年始めには、他の2つの作業部会による評価報告書が、IPCCに加盟する195カ国の政府の承認を受けた上で発表される予定となっている。
2021年6月26日、オレゴン州セーラムのクーリングセンターで熱中症の男性を治療する救急隊員。
AP Photo/Nathan Howard
最新のIPCC報告書のその他の重要なポイントは以下の通り。
- 2001年から2020年までの世界の平均気温は、1850年から1900年までの平均気温に比べて、およそ摂氏1度上昇した。
- 世界の平均海面水位は、1901年から2018年にかけて、約0.2メートル上昇した。その間、年間の海面上昇率は約3倍になった。
- 2019年には、大気中の炭素濃度が過去200万年のどの時期よりも高くなった。また、二酸化炭素よりも強力な温室効果ガスであるメタンと亜酸化窒素の濃度は、過去80万年のどの時期よりも高くなった。
- 2001年から2020年の北極海の海氷の年平均面積は、1850年以降で最少だった。また2050年までに少なくとも一度は、海氷のない9月を迎える可能性が高い。
- 過去40年の間に、大規模な熱帯サイクロン、熱波、豪雨の発生頻度が世界的に増加している。
- 豪雨やハリケーンによる高潮などの極端な現象が同時に発生し、それに海面上昇が加わることで、今後数十年にわたって洪水が発生する可能性が高くなる。
- 温暖な表層流が北上し、そこで冷やされると重くなって底層に沈み込んで南下する「大西洋南北熱塩循環(AMOC)」と呼ばれる海流の動きが弱まっている。この流れが遅くなると、ヨーロッパやアメリカ東海岸は異常な低温に見舞われるだろう。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)