Patrick Pleul - Pool/Getty Images
イーロン・マスクというスターが巨大化し、他のCEOたちを自分の世界に引き込もうとしている。
2021年8月5日にブルームバーグが発表した役員報酬ランキングで、テスラのイーロン・マスクCEOが3年連続でトップになったことが明らかになった。オプション報酬の影響もあって、マスクは2020年に約66億ドル(約7300億円)の報酬を得た。
テスラが野心的な時価総額目標を達成し続けることで、マスクに巨額の報酬をもたらすなか、他社もこれに続いている。2020年にほとんどの業界のCEOが報酬1億ドルの大台を突破したのも、マスクと同様の契約をしていたからだ。
役員報酬に関するコンサルティングを手掛ける米ジョンソン・アソシエイツのマネージングディレクター、アラン・ジョンソンは、「かつては2000万ドルも稼げば、新聞の見出しを飾るに十分な額だった」と語る。
しかしこの5年ほどで、マスクの報酬契約が役員報酬全体に影響を及ぼしていることは明らかだとジョンソンは言う。他の企業も、CEOが野心的な成長目標を達成した場合に桁違いの報酬を与えるという報酬体系を採用し始めているため、CEOの報酬は現在猛烈な勢いで増している。
「彼のこれまでの功績の大きさと、彼が得た価値は、他のすべての人たちに対する保証となっている」とジョンソンは述べている。
マスクの報酬を天文学的な水準に引き上げた契約
マスクは2018年、テスラとの間で報酬に関する前例のない契約を結び、あらゆる人々に衝撃を与えた。
当時のニューヨーク・タイムズ紙の見出しにはこう書かれていた。「テスラのイーロン・マスクCEO、企業史上最も高額な報酬契約にサインか(Tesla's Elon Musk May Have Boldest Pay Plan in Corporate History.)」
テスラが目標を達成した場合、同社CEOと株主には莫大な報酬が支払われる。達成しなかった場合はマスクの報酬はゼロだという契約だ。
フォーブスによると、マスクが2018年に10年間の報酬契約にサインして以来、テスラの時価総額は12倍に増え、桁外れの6470億ドルにのぼったという。マスクはあらゆる期待を上回り、「モデル3」や「サイバートラック」といった新型車の生産を開始した。ブルームバーグによると、これまでにマスクが得た報酬は約330億ドルだという。
「バカげた目標のように見えましたが、マスクCEOはそれを実現しました。そのようなリスクを負って、そのような望みを抱く人はほとんどいないでしょう」とジョンソンは言う。
今にして思えば、気候変動危機の中で世界がいかに早く電気自動車に移行するかを我々は過小評価していたのだ、とジョンソンは指摘する。マスクはそれに賭け、その賭けが的中した。
マスクはまた、抜け目のないユニークなCEOでもあることが分かった。テスラは洗練された高価な車を作り、顧客はそれに対して喜んでお金を払った。
役員報酬は今のペースが続くのか
リスクをとることを厭わないマスクの姿勢は、規制当局、そして時には従業員や株主とも対立してきた。テスラのバブルがはじけるかもしれないとの見方を示す投資家もいる。しかし依然、テスラの株価は急上昇している。
さらに言えば、マスクの報酬が異常な水準にあるため、5年前でもバカげていたはずの報酬を他のCEOたちが要求できるのだとジョンソンは言う。
米経済政策研究所(EPI)のレポートによると、2009年から2019年にかけての景気後退後の回復期に、CEOの報酬は53%増加した。新型コロナウイルスのパンデミックが続いていた2020年も、役員報酬は16%増加した。
しかしジョンソンによると、テスラのような急上昇は例外で、平均的な成長率はまだ段階的な上昇だという。高額な役員報酬体系に追随しようとしている企業や、株主に持続可能な成果をもたらすことのないリーダーにまで多額の報酬をしぶしぶ払うような企業が出てくるのではないか、とジョンソンは危惧している。
役員報酬がこのペースで続くのは「物理的に不可能」だとジョンソンは言う。だが今のところ、マスクがペースを落とすことはほとんどなく、その大きな引力が他のエグゼクティブたちを引っ張っている。
(翻訳・渡邉ユカリ、編集・常盤亜由子)
[原文:Elon Musk's enormous appetite for risk is setting a new standard for how CEOs get paid]