CRM(顧客関係管理)大手のセールスフォースは、今期、計画どおり22%成長を達成する見通しだ。2025年の売上目標500億ドル(約5兆5000億円)に向けて、順調な進捗を見せている。
しかしアナリストによると、その目標達成は容易ではないという。いくつかの「悪夢のシナリオ」が想定されているからだ。
セールスフォースは、重大な変化の時期を迎えている。ビジネス用コミュニケーションアプリSlackを277億ドル(約3兆470億円)で買収したことで、CRMツールから、生産性向上と協働のための包括的なハブへと転換を目指している。
さらにセールスフォースは、そのプラットフォームを顧客がAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)等のパブリックサーバー上で運用できるようクラウドサービスを強化している。
こうした重要な局面にあるセールスフォースだが、アナリストはその成長を妨げかねない3つの重大課題を提起している。それらを順に見ていこう。
1. Slackを買収しても顧客価値は高まらない可能性
セールスフォースのマーク・ベニオフCEO。
REUTERS/Mike Blake
Slackの大型買収からさかのぼること数年前にも、セールスフォースは2つの大型買収を実施している。2018年に65億ドル(約7150億円)で買収したミュールソフト(MuleSoft)と、2019年に157億ドル(約1兆7270億円)で買収したタブロー(Tableau)だ。
セースルフォースは最近この2件の買収からの果実を収穫し始めたと言うが、RBCのアナリスト、リシー・ジャルリアによれば、ディールの規模が大きくなればそれだけリスクも高まるという。
セールスフォースとSlackはうまく協調できる面があることは間違いないものの、Slackの買収が本当に有益だったことをセールスフォースが証明するのはこれからだ。こう語るのは、フューチャラム・リサーチのアナリスト、ダン・ニューマンだ。ニューマンは次のように続ける。
「(セールスフォースは)大きな賭けをしたのです。それは単に協働プラットフォームの開発のためだけではありません。Slackを使い、マイクロソフトTeamsのセールスフォース版を作ろうというものです」
マイクロソフトのコミュニケーション・プラットフォームTeamsは、ここ1年で大幅な拡大を遂げた。Teamsが無料でOfficeにバンドルされるため、既存客はTeamsを選びやすくなる。
マイクロソフトに追いつくためにも、セールスフォースはSlackとのシームレスな統合を実現し、両製品を組み合わせることでどのような価値を顧客に提供できるのか示す必要がある、とニューマンは言う。もし早急にそうできなければ、マイクロソフトのさらなる先行を許してしまう。
2. クラウド戦略が複雑化する危険性
セールスフォースは、ハイパーフォースというプログラムに巨額の投資をしている。ハイパーフォースとは、顧客がどのパブリッククラウド上でもセールスフォースのプラットフォームを利用できるようにするプログラムだ。これが実現した暁には、顧客は1カ所でビジネスツールを連携させ、すべてのデータにアクセスできるようになる。
しかし、もしこのマルチクラウドに向けた施策が失敗したり、計画通りに進まなかったりすれば、セールスフォースとその取引先にとっては悲劇だ。こう語るのはガートナーのアナリスト、ジェイソン・ウォンだ。ウォンは言う。
「もし(このプロジェクトが)失速した場合、顧客や取引先にとって、アーキテクチャがこれまで以上に断片化してしまいます。そのせいでプラットフォームがさらに複雑化すれば、マイナスの結果を生む悪循環に陥りかねません」
3. レガシー企業と化す危険性
創業から年数が経過し、セールスフォースもイノベーションを起こすには意図的にならざるを得なくなってきている。
企業は成長するにつれて市場の変化に鈍感になり、行き詰まることが多い。そう語るのは、ヴァロワールのアナリスト、レベッカ・ウェタマンだ。
多くのスタートアップ企業がセールスフォースの市場を狙っており、セールスフォースは気を付けなければその後塵を拝することになりかねない、と前出のジャルリアも語り、次のように指摘する。
「(セールスフォースが)レガシーのようになってしまう可能性もあります。革新的なクラウド企業ではなく、行き詰まった旧式企業になってしまうということです。メガディスラプション(巨大な創造的破壊)に直面し、今日で言うところのオラクルのような存在になってしまいかねません。これがもうひとつの悪夢のシナリオです」
こうしたことを防ぐためには、セールスフォースは研究開発への投資を続け、「顧客獲得率や継続的な価格引き上げにフォーカスして成長しようとするのではなく、顧客の成功にフォーカスすべき」とジャルリアは言う。
なお、Insiderの取材に対し、セールスフォースはコメントを差し控えるとした。
(翻訳・住本時久、編集・常盤亜由子)
[原文:Experts say these are the 3 nightmare scenarios for Salesforce]