リーダーにとって最も重要なスキルの一つが、失敗した時に挽回できるレジリエンス(回復力)だ。過ちから学ばないリーダーは、部下にも悪影響を及ぼし、チーム全体のパフォーマンスを悪化させることさえある。
アメリカの著名なCEOたちに対し、数十年間にわたってコーチングを行ってきたイエール大学のジェフリー・ソネンフェルド教授は、失敗から学ぶという壁には、CEOたちと何度もぶつかってきた、と言う。
リーダーシップ研究における上級副学部長も務めるソネンフェルド教授は、失敗への対処は単にそれを過去のものとするだけではなく、部下との積極的なコミュニケーションや、周囲にサポートを求めること、本人の謙虚さ、そしてレジリエンスが求められると言う。
目標を達成できなかった、期日を守れなかった、または部下からの信頼を失ってきている——そんな状況が発生したときは、逆説的だが、失敗が新たなチャンスへの道を開くこともある。
「仕事がうまく行っているとき、その人はスター社員や将来の幹部候補と思われるかもしれません。ですが、本当に英雄のように思われるには、どこかで大きな挫折をし、それを乗り越える経験が必要でしょう。その壁を越えて成功する人は多くありません。でも、挫折を乗り越えた人は不可逆的な変化をし、強さやレジリエンスを獲得するのです」(ソネンフェルド教授)
では、失敗をどう認識すればいいのか? また失敗した後はどうすればいいのか? 管理職が障壁を乗り越えるための7つの方法をソネンフェルド教授が教えてくれた。
1. 自分の哲学や目標を忘れないようにする
失敗を恐れることは、熟慮したり将来の予想をしたりせずに、現状維持に甘んじてしまうリスクにつながる。いいリーダーとは、必ずしも好かれているリーダーではなく、自分の中の目標やビジョンに基づいて行動する人だということを覚えておくべきだ、とソネンフェルド教授は言う。
自分は何を達成したいのか? 仕事で何を残したいのか? こういったコアとなる考えが分かっていれば、どこが不足しているのか認識でき、軌道修正もしやすいという。
2. フィードバックを聞ける体制を作る
方向性を定める際には自分の指針を基盤にするべきだが、軌道から外れないようにするためにはフィードバックが有効だ。リーダーシップでは、ビジョンを実行することと傾聴することのバランスが大事であり、失敗した時にはそれがさらに重要になる。
つまずいた際には、そこで心を閉じてしまうのではなく、批判の声を素直に聞くことが大切だ。チームメンバーと積極的・定期的に対話することをソネンフェルド教授は推奨する。
「反対意見は反抗のように思われてしまうことがよくありますが、そういうものほど実は建設的で一聴に値するものです」
3. 他のリーダーを観察する
勝ち負けがはっきりしている世界レベルのスポーツ選手に比べたら、職場でのリーダーの失敗は分かりづらいかもしれない。
だからこそ、あえて他のリーダーと自分を比較して、自分が期待値を達成できているかを確認することが重要だとソネンフェルド教授は言う。
4. 自分に足りないところを認める
「失敗はどこかに追いやってしまえば消える訳ではありません。原因に向き合って受け入れる必要があります」
何も問題がないふりをしていると、チームを間違った方向に導き、信頼を失うことがあるとソネンフェルド教授は強調する。逆に、改善が必要な部分について責任を持って話し合うことで、部下との関係を強くすることができる。
5. 自分が知らないことを認める
リーダーは、全てに答えを持ち合わせていなければならないと考えがちだが、それは誤りである、とソネンフェルド教授は言う。
自分がまだ知る必要のあることについて素直に認める謙虚さがあるかどうかが、失敗し続けるか挽回できるかの分かれ目になることもある。
6. サポーターとつながる
課題を乗り越えていくにはサポートを得られる環境も重要だ。良いメンター、仲間、同僚がいると、どこがうまくいっていないのか認識する助けとなり、間違いから学ぶのをサポートしてもらえる。
精神面の支えであれば、仲の良い友人でもある程度できる。だがリーダーには、向き合いたくない現実にも目を向けさせてくれるような人物の存在が重要だ、とソネンフェルド教授は言う。
「仕事面でサポートを受ける際には、そこまで親しくない人も必要になります。ただやみくもに慰めてもらうだけでは不十分です」
7. 失敗から自己否定にならないように
自分の中の大きなビジョンを持ち続け、部下や反対意見を持つ人、仲間たちの話を聞くことで、失敗は乗り越えることができる。だからたとえ失敗しても、「自分なんかダメだ」と思わないように。
また自分が何をするべきかを理解していれば、強いリーダーとしてまた立ち上がることができる、とソネンフェルド教授は言う。
※この記事は2021年8月27日初出です。