説明会に登壇した孫正義氏。
出典:ソフトバンク
ソフトバンクグループは8月11日、2021年度第1四半期(2021年4〜6月期)決算を発表した。
決算説明会に登壇した孫正義会長兼社長は「AI革命」に向けた投資を加速させることを強調しつつも、中国における大手テック企業への規制強化については「少し様子を見たい」と慎重な姿勢を示した。
孫社長、今期のSBGは「それなりに順調」
大幅な減益の理由は「米Sprint/T-Mobile US関連の一時益によるもの」(孫社長)
出典:ソフトバンクグループ
4〜6月期の決算では当期純利益が7615億円と、数字上は前年同期比で大幅な減益となった。
だがその内訳として、2020年は米Sprint/T-Mobile US合併に伴う一時益が約1兆1000億円含まれていたという。
今四半期も約2500億円の一時益が含まれており、両方の年から差し引くと2020年の純利益は約1500億円、2021年は約5000億円と見ることもできることから、孫社長は「それなりに順調だ」と総括した。
時価純資産(NAV)は6月末時点で26.5兆円。そのうち87%は市場で取引される上場株だという。
出典:ソフトバンクグループ
投資運用子会社の余剰資金、ビジョンファンドに振り向けていた
ソフトバンクグループがKPIとして重視する時価純資産(NAV)は6月末時点では26.5兆円で、「概ね右肩上がり」とした。
この数字には未上場株も含まれており、その評価額に疑問を呈する声もあるが、87%が上場株として市場から客観的な評価を得ていることを示した。
SB Northstarの資金もビジョンファンドに投入する。
出典:ソフトバンクグループ
投資資金としてはビジョンファンドで稼いだ実現益のほかに、「SB Northstar」の動向にも注目だ。
同社は資産運用の子会社として余剰資金を米Amazon.comやFacebookの株式で運用してきたが、ポジションを縮小してビジョンファンドに資金を振り向けていることを明らかにした。
中国の状況は「少し様子を見たい」
日本にもタクシー配車サービスとして上陸しているDiDi(滴滴出行)。
撮影:小林優多郎
決算説明会で最大の焦点となったのが「中国」だ。
その象徴的な存在が6月30日にニューヨーク証券取引所に上場したライドシェア大手「DiDi」だ。6月末時点での時価は136億9400万ドル(約1兆5143億円)で、投資としては大きな成功を収めたと思われた。
DiDiの6月末時点での時価は約1.5兆円だが、7月に株価は大きく下落した。
出典:ソフトバンクグループ
だが7月以降、中国では政府による大手テック企業への規制が話題となり、中国や香港市場ではハイテク株を中心に株価の暴落が相次いだ。
決算資料によると、8月9日時点におけるDiDiの時価は92億3900万ドル(約1兆223億円)で、6月末から約5000億円近く下がったことが示されている。
まず、中国のハイテク株について、孫社長は「受難のときである」と受け止めつつ、「長い目で見ればどこかでバランスを取り直す。企業の業績は伸び続けており、どこかで株価は持ち直してくる」との見方を示した。
ソフトバンクグループとしても対応を進めている。ビジョンファンドに占める中国企業の割合は、規制が進んだ7月末時点の時価ベースで23%とした。だが4月以降に新しく投資した分に限ってみると、その比率は11%にまで下がるという。
今後の中国企業への投資方針について、孫社長は「中国政府の動きに反対しているわけではない」と言葉を選びつつ、「少し様子を見たい」と語った。
「どのような規制になるか、少し様子を見たい。新たなルールが始まろうとしており、今後1〜2年で新たな秩序が構築されると信じている」と慎重な姿勢を示した。
孫社長の個人資産「3兆数千億円ある」、一部をSVFに出資
説明会に登壇した孫正義氏。
出典:ソフトバンク
今回の決算ではもう1つ注目を浴びたのが、孫社長ら経営陣とソフトバンクグループによる「共同出資プログラム」だ。
これはビジョンファンド事業に対して、法人としてのソフトバンクグループが83%、経営陣が個人として17%を共同出資するというもの。
まずは孫社長が個人として最大26億ドル(約2877億円)のリスクを取り、その中から他の経営陣にも出資してもらうという。
ソフトバンクグループと経営陣が「共同出資」するプログラムを発表。
出典:ソフトバンクグループ
かつて「SVF1(ソフトバンク・ビジョン・ファンド 1号)」でも同様のスキームで取締役会の承認を得るところまでいったものの、株価が下がったことで実行を断念していたという。
その背景について孫社長は、自らリスクを取ることの意義を強調。個人資産2874億円を投じることについては「個人資産は3兆数千億円あり、耐えられる」。
将来的に後継者となる経営陣にも継続を望んでおり、「ソフトバンクグループの文化にしていきたい」と語った。
ただ、このスキームでは孫社長が保有する5億ドル相当のソフトバンクグループ株式を預託するとの記述もある。
質疑応答では株主のリスクを問う指摘も上がったが、「一般的なベンチャーキャピタルとは違い、経営者がリスクを取るほうが株主にもベターだ」(孫社長)として、株主と利害を共有することのメリットを強調した。
後払い「Klarna」にも投資
2017年以降、AI企業の資金調達の10%はSBGによるものという。
出典:ソフトバンクグループ
ソフトバンクグループの先行きを占う上で、やはり重要になってくるのがビジョンファンドの投資先だ。SVF1、SVF2、ラテンアメリカの合計では301社に拡大した。
テーマは引き続き「AI革命」で、未上場AI企業による2017年以降の資本調達のうち、10%はソフトバンクグループによるものだという。
いま話題の後払いサービスとして「Klarna」に投資する。
出典:ソフトバンクグループ
注目の投資先としては、スウェーデンの「Klarna」を紹介した。
フィンテック分野で世界的な盛り上がりを見せる後払いサービスを提供しており、AIによるリスク評価によってクレジットカードを持たない人にも後払いや分割払いを提供している。投資に至るまで、数年がかりの交渉を続けてきたという。
他にも韓国の旅行プラットフォーム「yanolja」、ノルウェーのロボット倉庫「AutoStore」、インドのデリバリー「Swiggy」を紹介した。
ソフトバンクグループの決算説明スライドを編集部により加工。
決算説明会で恒例となっている投資先の紹介だが、今回は中国企業が含まれていない。次の7〜9月期決算では、中国のテック規制がもたらした影響がいよいよ数字となって表れると予想される。
だがAI革命に賭ける孫社長は、自身の資金を入れながら投資を拡大する強気の姿勢を崩していない。
(文・山口健太 編集・小林優多郎)
山口健太:10年間のプログラマー経験を経て、2012年より現職。欧州方面の取材によく出かけている。著書に『スマホでアップルに負けてるマイクロソフトの業績が絶好調な件』(KADOKAWA/アスキー・メディアワークス)。