パンデミックをきっかけに、雇用主は社員の福利厚生を見直している。
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- リモートワークの導入で通勤時間が短くなり、勤務時間が長くなったことで、企業は福利厚生に対するアプローチを変えつつある。
- サンフランシスコ・クロニクルによると、ソフトウェア会社のファストはスタッフの健康を維持するためにウェルビーイング・ディレクターを採用した。
- 新型コロナウイルスのパンデミックを受けて、福利厚生の大幅な見直しが行われている。
従業員が家に閉じこもり、通勤時間が減って、勤務時間が長くなる中で、企業は福利厚生を見直さなければならなくなっている。
ジム利用の特典や無料のヘルシー・ランチは、ハイブリッド・ワークの世界ではあまり意味がない。そんな中、あるスタートアップ企業では、社員の活動と健康を維持するためにウェルビーイング・ディレクターを採用した。
サンフランシスコに本社を置くソフトウェア会社、ファスト(Fast)は、2021年5月、元イギリス海兵隊員でフィットネストレーナーのフィル・マクドゥーガル(Phil McDougall)を正社員として採用した。サンフランシスコ・クロニクル(San Francisco Chronicle)によると、彼は当初、同社のCEO、ドム・ホランド(Domm Holland)のパーソナル・トレーナーだった。
同紙によると、マクドゥーガルの1日は夜明け前から始まり、社員に睡眠改善や毎日のランニングについてのアドバイスやズーム(Zoom)を使ったエクササイズ・クラス、栄養やメンタルヘルスの指導などを行っている。
彼は社員からのフィードバックに基づいて福利厚生や企業文化の向上に取り組む「ピープル・エクスペリエンス・チーム(people experience team)」の一人である、とファストの採用担当ディレクター、ピーター・グラッシ(Peter Grassi)は述べている。
現在、ファストのサンフランシスコのオフィスは、ワクチンを接種した社員だけが利用できるようになっており、多くの社員はリモートワークをしている。マクドゥーガルは、企業の拡大に伴い、アシスタントを増員したいと考えており、より多くの社員がアクセスしやすいように毎日のルーティンや講話のライブラリを作成していると同紙に語っている。
テック企業の特典が変わった
パンデミックと業務の再編成は、企業が社員への特典を見直すことにつながっている。
オフィスにいる時間が短くなると(最も一般的に支持されているハイブリッド・モデルは週2、3日の出勤だ)、多くの企業は、企業文化や結束力が低下するのではないかと懸念している。また、無料のコーヒーや仕事が終わったあとのドリンク、その他のオフィス勤務に特化した特典は、現在の従業員やこれから入ってくる人材にとってあまり魅力的ではないということだ。
そこで、社員の確保や福利厚生を充実させるために、ホーム・オフィスを快適な場所にすることに重点を置いている企業もある。
オンラインストレージサービスのドロップボックス(Dropbox)は、「ホーム・オフィスのアメニティ」やトレーナー、音楽のレッスン、育児支援などのために社員に年間7000ドル(約77万4400円)の手当を支給している。
ベビー家具を製造するミリオン・ダラー・ベビー(Million Dollar Baby)では、経験したことを同僚と共有することを条件として、従業員に旅行のための有給休暇と700ドル(約7万7400円)を支給している。
介護者を紹介する企業、ケアドットコム(Care.com)の調査で、500人の人事担当者のうち98%がパンデミックを受けて少なくとも一つは新たな福利厚生を提供する計画を持っていることが分かった。
2020年10月、オランダ政府が支援する家計に関する研究グループNIBUDは、企業は在宅勤務の社員に対し、自宅で使用するコーヒーやトイレットペーパーの代金として1日2.40ドル(約266円)払うべきだと試算した。
コンサルティング会社のアドバンスド・ワークプレイス・アソシエイツ(Advanced Workplace Associates)の創業者、アンドリュー・モーソン(Andrew Mawson)は、パンデミックは雇用主が福利厚生を見直すチャンスだとInsiderに語っている。
「企業は必ずしも予算を増やす必要はなく、何にお金を使うかをよく考えることで、その『福利厚生パッケージ』は人材を惹きつけて維持するための差別化要因になる」
(翻訳:大場真由子、編集:Toshihiko Inoue)