30歳官僚が和歌山に出向して見つけた「教科書では分からないこと」

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総務省の官僚で、現在、和歌山県庁に出向中の桐明祐治さん(右)。和歌山県白浜町にある「インフィニティ足湯」で撮影。

桐明さん提供

「霞が関で働く官僚こそ、地方の魅力と課題を知るべきだと思っています」

総務省のキャリア官僚で、現在は和歌山県庁に出向中の桐明祐治さん(30)はそう話す。

桐明さんは2021年秋に、官僚(国家公務員)を対象にしたワーケーションイベントを企画し、現在参加者を募っている。

ワーケーションイベントでは北海道や長野県、和歌山県など8道県と協力。それぞれ2泊3日~3泊4日で滞在し、各地域のリアルな課題を知って交流してもらうのが狙いだ。

なぜ官僚を対象としたワーケーションを企画したのか?

「総務省での苛烈な働き方に疑問を感じていた」と語る桐明さんに聞いた。

「花形部署」も経験。順調なキャリア

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撮影:今村拓馬

福岡県出身の桐明さんは、大阪大学を卒業後、2013年に総務省に入省した。

大学2年生の時、人事院主催の採用説明会に参加し、各省庁の採用担当者の話を聞いたことがきっかけになり、官僚を目指したという。

「営利目的でなく、世のため人のために働く霞が関の仕事を知り、そのスケールの大きさと職員の熱量に大げさですが感銘を受けました」

試験を突破し、志望通り総務省に。入省前から聞いていた通り、業務は多かったものの、地域振興や防災を目的とした地方自治体向けの補助金事業等を担当し、やりがいも大きかったという。

入庁3年目からは、内閣官房国土強靱化推進室に2年間出向した。

「内閣官房への出向ポストは、同期と比べても早いうちから貴重な経験を積むことができるポジションでした」

5、6年目は総務省に戻り、放送行政を担当。希望していた配属先で、NHKなどテレビ放送に関わる分野は、マスコミの注目も高く「花形の部署」だった。

官僚として順当にキャリアを歩んでいた桐明さんだったが、次第に官僚の働き方に違和感を覚えるようになったという。

続く残業……ふと冷静になることも

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国会の対応の時期などは、深夜も霞が関の明かりは消えない。

撮影:今村拓馬

放送行政を担当していた当時は、国会での集中審議の前には、深夜の2時3時まで省内を駆け回った。

「みんなアドレナリンが出ていて、ある意味でお祭りのような空気でした。国会審議は民主主義の根幹。非常に重要であることは理解していましたが、『これから何年もこのような働き方ができるのだろうか』とふと冷静になることもありました

同期をみても、長時間の残業が当たり前となり、中には月の残業が300時間を超える同期もいた。

そんな中、桐明さんと仲の良かった同期がメンタル面での不調に陥り、民間企業に転職したこともキャリアを考えるきっかけになったという。

「真面目で優秀な同期だったので、心配していたのですが、IT企業に転職して今は元気に仕事に取り組んでいます。そういう選択肢もあるなと気が付きました」

ワーケーション先進地への出向

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桐明さんは「ワーケーションなどで地域を知ることで、新しい視座が得られる」と話す。

桐明さん提供

「総務省以外でも経験を積んでみたい」

桐明さんは配属先の希望について、「民間企業か地方への出向」と書いて提出した。

桐明さんの次の勤務先になったのは和歌山県庁。もともと和歌山県庁では総務省からの出向者を受け入れており、前任者と交代する形で2019年に和歌山県情報政策課長に就任した。

桐明さんが任されたのは、県内の情報通信政策とあわせて、和歌山県が力を入れるワーケーション事業の推進だった。

和歌山県は、羽田空港から南紀白浜空港まで約1時間というアクセスの良さをアピールし、民間企業のワーケーションを誘致し実績を上げてきた。

和歌山県によると、県内でのワーケーション体験者は、コロナ前の2017年度から2019年度の3年間で104社、910人に上る。

またNECソリューションイノベータやセールスフォース・ドットコム等のIT企業がサテライトオフィスを構えていたこともあり、和歌山県は企業誘致やワーケーションの先進地として知られるようになった。

和歌山で考えた「人生の優先順位」

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ワーケーションを活用した企業研修で、地域課題の現場視察する様子。

提供:和歌山県

和歌山県に住んで桐明さんが感じたのは「魅力的な人が多い」ということ。

「和歌山はワーケーションだけでなく、移住してくる人も多い。地域おこし協力隊を経て移住したり、著名なプログラマーが住んでいたりと多様性がすごいんです。もちろん昔から住まれている地元の方も素敵な方ばかりで、よそ者の私にも温かく接してくれます。

東京に住んでいたころは、似たような環境に住む人とばかり飲んでいましたが、和歌山で様々な経験や思いを持つ方々とお話しすることはとても刺激的です

スーパーに行くにも車が必要な環境に身を置くことで、「人生の優先順位」についても考えるようになった。

これまでは官僚として仕事を最優先に考えてきました。そのことに後悔は少しもありません。ただ和歌山で暮らし始めて、自分にとって大事なのは仕事内容や勤務環境なのか、給与なのか、プライベートの時間なのか考えるようになりました」

「教科書に載っているベタな課題」ではない

今回、霞が関で働く官僚らを対象にしたワーケーションを企画した理由は、かつての自分が「顔が見えないままで政策作りに関わっていた」と感じるからだ。

霞が関にいると、自治体の課題というと『教科書に載っていそうなベタな課題』だと思ってしまう。でも現地に足を運べば、課題の内容や軽重にも地域ごとに違いがあり、現地で解決に向けて頑張っている人の存在もわかる。僕自身がそうだったのように、新しい視座が増える」

また桐明さんは、「長時間労働が常態化している霞が関の働き方に風穴を空けるきっかけにしたい」と話す。

霞が関の働き方をめぐっては、内閣人事局による2020年10・11月の残業時間調査で、「20代キャリア官僚の約3割」が、過労死ラインの目安とされる「月80時間」超えて残業していることが明らかになった。

長時間労働が知られるようになった影響で、2021年度の国家公務員採用総合職試験の申込者数は2012年以降最大の減少幅となり、「官僚離れ」が加速している。

「霞が関でもワーケーションなど新しい働き方ができれば、多様な人材の確保や離職防止にもつながるはず」

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