楽天グループは8月11日に2021年6月中間連結決算を発表。売上高7936億円(前年同期比16.9%増)の一方、最終利益は654億円の赤字で着地した。
ネット通販や金融などはコロナ禍にあっても堅調に成長を続けるが、負担となっているのが携帯電話事業だ。
楽天の2Q決算収支の状況。赤線部は編集部が加工。
出典:楽天2021年12月期2Q決算説明資料より
先日、アメリカの格付け会社S&Pグローバル・レーティングが長期発行体格付けを、投機的水準とされる「ダブルBプラス」に1段階格下げしたと発表するなど、厳しい目が向けられている。
「契約増」アクセルを踏みたくても踏めない?
楽天グループの三木谷浩史会長兼社長。
出典:出典:楽天2021年12月期2Q決算配信のインタビューより
楽天モバイル事業は累計契約申込数が442万件と増えており、さらに2020年4月から提供していた、いわゆる「1年間の無料キャンペーン」が終了するユーザーが増えてきたことで、モバイル通信料収入はプラスに転じつつある。
しかし、三木谷浩史会長兼社長は、契約者獲得にアクセルを踏みたくても、地団駄を踏まざるを得ない、もどかしい状況に追い込まれてもいる。
なぜなら、いま、新規にユーザーを獲得すればするほど赤字に追い込まれるという、「KDDIの策略」にどっぷりとハマっているからだ。
楽天モバイルの売上高と営業損失の状況。
出典:楽天2021年12月期2Q決算説明資料より
新規参入の楽天モバイルは、いきなり全国をカバーするのが難しいため、KDDIのネットワークにローミング接続する契約を2026年3月末まで締結している。
この契約では、楽天モバイルはKDDIに対して、「ユーザーが使う1GBあたり、約500円を支払う」ことになっている。
楽天モバイルの料金プランは1GBまでゼロ円で、1〜3GBは1078円、3GB〜20GBは2178円、20GB以上で3278円という設定だ。
仮にユーザーが楽天モバイルの自前ネットワークではなく、KDDIローミングエリアで5GBを使った場合、ユーザーは楽天モバイルに2178円しか支払わないが、楽天モバイルはKDDIに約2500円、支払う計算となる。
もちろん、これは1年間の無料キャンペーンが終わり、通信料金を支払ってくれるユーザーの話だ。無料キャンペーン中であれば、楽天モバイルは全くの収入がないなか、KDDIへのローミング費用を負担することになる。
つまり、楽天モバイルは、自前網を使ってくれないユーザーを増やせば増やすほど赤字が膨らむことになるのだ。
三木谷社長も「ローミングコストがあまりに高い」とぼやく。一方でKDDIとすれば、楽天モバイルをじわじわと苦しめる「してやったり」の料金設定といえるのではないか。
通信事業の赤字脱出にブレーキかける「半導体不足」
三木谷社長は高いローミングコストからの脱出を、次のように説明する。
「ローミング費用を下げるには、とにかく基地局を建てていけば良いという話。ただ、半導体の不足もあって遅れが出てしまっている。私も頑張って直談判で交渉したが、3カ月程度遅れることになった」
結局、従来はこの夏にも全国の人口カバー率が96%に達するとしていたが、計画達成は「年内中」にずれ込むこととなったのだ。
楽天モバイルが赤字体質を脱するには、全国に基地局を早期に整備しつつ、KDDIへのローミング費用を抑えなければならない。三木谷社長は「来年3月ぐらいから大幅にローミング費用を削減できる」と見ている。
実際のところ、KDDIが公表している楽天モバイルへのローミング提供エリアを見ると、すでに東京都内はローミング提供を終了済みだ。また、現在、提供しているエリアも2022年3月に原則終了する場所が目立つ。
「人口カバー率で96〜97%になったタイミングから、本格的な決戦に突入する。現状、新規獲得費用は安定しているが、どうしてもローミングコストがかかってしまうので、うまくコントロールしている状態。来年3月のローミング費用が削減されるタイミングで、一気に加速をしていきたい」
と、三木谷社長は意気込む。つまり、楽天モバイルは「来年3月から本気を出す」というわけだ。
データで見えてきた“来年3月から本気”の手応え
楽天モバイルにとってみれば、正直言って、いまは我慢の時期といえるだろう。とにかく全国に自前ネットワークを広げないことには話にならない。
ただ、ユーザー属性においては明るい兆しが次々と見え始めている。
例えば、新規ユーザーを分析すると、サービス開始当初は新規番号取得のユーザーが多かったが、最近ではMNP(ナンバーポータビリティー)による電話番号以降での契約者が増えている。山田善久・楽天モバイル社長によれば「MNPによる契約者は平均データ利用料、ARPU、ライフタイムバリュー(顧客生涯価値)が高く、解約率が低い傾向にある」という。
つまり、サービス開始当初に多かった新規番号取得をするユーザーは、「メイン回線は別にありつつ、お試しや2回線目として楽天モバイルを契約する」傾向が強かった。しかし、MNPで契約する人は「1回線目のメイン回線として楽天モバイルを選んだ」ということになる。
また、楽天モバイル契約者における新規楽天ユーザーの割合が19%になるなど、楽天モバイルに加入したことで、これまで楽天を使ったことがない人が、さまざまなサービスを使うようになった傾向が見られるようだ。
楽天モバイルの料金プランUN-LIMIT Vをアピールする三木谷氏(2020年の発表時のもの)。
出典:楽天
例えば楽天市場は3人に1人、楽天カードでは5人に1人といったように、楽天モバイル加入後1年以内の「楽天経済圏へのデビュー」が広がっているという。
三木谷社長は「楽天モバイルの、楽天エコシステムに対する貢献が大きい。すごいシナジー効果が出ている」と満足げだ。
さらに、楽天グループが特にモバイル事業で自信を深めているのが、楽天カードでの実績だ。
2300万枚(決算説明資料より)を超える発行枚数を誇る楽天カードだが、楽天モバイルは楽天カードの4倍以上も速いペースで契約者数が拡大している、とする。楽天カードは15年で2000万枚の発行数となったが、三木谷社長としては、数年でKDDIやソフトバンクと肩を並べる契約者を獲得できる……と目論んでいるかも知れない。
三木谷社長の口ぶりからは、楽天モバイル事業ではまだまだ本気を出しておらず、余力を残した状態で舵取りしているようにも見える。
果たして、2022年3月以降、三木谷社長は、どんな「本気」を繰り出すのか。ユーザー、メディア、アナリストが固唾を飲んで待つことになりそうだ。
(文・石川温)