省庁でのFAX利用を原則禁止する指示が出てから2カ月が過ぎた。
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河野太郎・行政改革担当大臣が、6月末までに各省庁でのFAX利用を原則廃止して電子メールに切り替えるよう通知(6月15日)してから2カ月が過ぎた。
その後、(職員の大きな負担になっているという)国会対応のためのFAX利用についても廃止を目指すと河野大臣は明言しているが、官僚から大反発を受けて断念したとの報道(北海道新聞、7月7日)もある。
いずれにしても、「メールやメッセンジャーアプリがあるからFAXはもう必要ない」とひと言で片づけられるほど単純な話ではなさそうだ。
仕事でFAXを使っている人が半数
それにしても、インターネット経由の通信手段が当たり前になったこの時代、「FAXって何だっけ?」「もう10年以上使ったことがない」という人も多いに違いない。
ところが、実態はちょっと異なることが明らかになった。
情報通信技術の利活用促進を目指す、情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)がこのほど公表した調査結果によれば、FAXはビジネスの現場ではまだまだ現役、しかも幅広い業種で活用されているという(調査手法などの詳細はリンクを参照)。
まずは【図表1】を見てほしい。仕事でFAXを使っている人は、「日常的に使用している」「たまに使用している」を合わせ、半数近くにのぼる。
【図表1】勤務先で文書・画像を送受信するためにFAXを使用している?
出所:情報通信ネットワーク産業協会 画像情報ファクシミリ委員会「ファクシミリに関する調査」
いったい、どんな業種でどんな使われ方をしているのだろうか。
下の【図表2】は、「日常的に使用している」「たまに使用している」と回答した人の業種と、それぞれの業種で何の送受信にFAXが使われているのかを調べたものだ。
【図表2】業種ごとに見た、FAXで送受信している原稿の種類。
出所:情報通信ネットワーク産業協会 画像情報ファクシミリ委員会「ファクシミリに関する調査」より筆者作成
業種を問わず、業務上の報告や連絡、受発注にFAXを利用するケースが半分以上を占めていることがわかる。
さらに、FAX利用者を職種別に見たのが、次の【図表3】。
【図表3】FAX利用者の職種別内訳。
出所:情報通信ネットワーク産業協会 画像情報ファクシミリ委員会「ファクシミリに関する調査」より筆者作成
(主に報告・連絡や受発注に使っているという)業種ごとのユースケースから類推できるように、事務・管理や営業、販売・サービスの職種が半数以上を占めた。
どう考えてもFAXを使いそうにない「ITエンジニア」が3.1%を占めたのはかなり意外だ。
FAX文書も「帳簿書類」として保存OK
精密機器大手リコーで30年にわたってFAXの開発に携わり、現在は情報通信ネットワーク産業協会(前出)の画像情報ファクシミリ委員会委員長を務める高敏雄氏も、この調査結果は意外だったようだ。
「予想以上に幅広い業種で使われていた、というのが率直な感想です。
また、ふだんは電子メールを使用しているであろうITエンジニアの方が、業務の報告や連絡のためにこれほどFAXを利用していたことも意外でした」
実は、河野大臣が4月の定例記者会見でFAX原則廃止に言及(4月13日)した翌日、インターネットテレビ局ABEMAで放送された報道番組では、FAXを廃止できない理由が視聴者からのコメントで相次いでいた。
「コンプライアンスで書面保存がある限り、FAXはなくならない」
「うちの会社は見積もりがメールだと承認されない」
同番組に出演した高氏も、最近、国税庁の職員から聞いたというエピソードを明かしてくれた。
「FAX文書はそのまま(電子データとして)保存することが認められているそうなんです。そうした帳簿書類に関するニーズもあるようですね」
FAXにいま求められる機能
ここまでの調査結果や現場の証言からわかるように、いま仕事でFAXを使わなければならない人は、日本社会に確実に存在する。
ただ、それがゆえに、コロナ禍でリモートワークが推奨されているにもかかわらず、FAX送受信のために出社しなければならないという嘆き節も聞かれる。
そんな状況を背景に、情報通信ネットワーク産業協会は前出の調査で「FAXに求める機能」について質問している。回答をまとめたのが【図表4】だ。
【図表4】FAXにあったらいいなと思う機能(複数回答可)。
出所:情報通信ネットワーク産業協会 画像情報ファクシミリ委員会「ファクシミリに関する調査」
「スマートフォンやタブレットで受信内容を確認できる」が約40%、「スマートフォンのような操作感で使用できる」が約30%、「受信した文書をクラウドサービスへ転送できる」が約25%と、オフィスではない場所で使える機能を求めていることがわかった。
言ってみれば、リモートワークでも使えるFAXが必要ということではないか。
ところが、(ご存知の方にとっては当たり前すぎる話かもしれないが)そうした機能はすでに一般的な複合機には備わっているのだという。
「いま普及しているほとんどの複合機には、クラウド連携、メール転送などの機能も搭載されています。ですから、設定すれば、受信したFAX文書を自動的に自宅のパソコンや携帯端末に転送したり、クラウドに上げて自宅で取り出したりすることもできるんです」(高氏)
複合機に届いたFAX文書を自動で転送・仕分けして、担当者にメールで通知する機能もあるという。
ただし、社内のネットワーク環境に接続したり、クラウドと連携したり、どんな業務フローで使うのか事前の想定や情報整理が必要になったり、「社内の担当者1人で設定できる問題ではない」(高氏)ため、あまり普及していないのが現状という。
それに、上の【図表4】にある回答が雄弁に物語るように、FAXにそうしたリモートワーク対応機能があることを知っている人はどう考えても多くない。
しかし、そんな状況もコロナ禍の長期化で変化しつつあるようだ。
「リモートワークが広がった影響で、昨年からクラウド連携やメール転送機能に関する問い合わせや引き合いが増えてきています」(高氏)
今回の調査では「今後もFAXを使い続ける」という意見が8割にものぼっている。インターネットを使えない機密情報の送受信や緊急時の連絡手段として使えることもあり、少なくとも「ただちに原則廃止」をゴリ押しする必要はないかもしれない。
とはいえ、若く才能ある社員たちがFAX送受信のためだけに出社させられ、前途に絶望することのないよう、せっかくの便利な機能が最大限活用されることだけは切に望みたい。
(取材・文:湯田陽子)