- ストーンヘンジが5000年前に建てられて以来、なぜ変わらずに存在し続けているのかについて、新たな研究が発表された。
- ストーンヘンジを構成する巨石「サルセン石」には、固く絡み合った石英の結晶が含まれている。
- 10億年から16億年前のものも含むこれらの結晶が、岩石の耐久性を非常に高めているという。
イギリスのソールズベリー平原にあるストーンヘンジの大部分は、約5000年前に石器時代の人々がサルセン石という巨大な砂岩を組み立てて以来、ほとんど変わっていない。
その理由が、2021年8月4日に発表された研究論文によって明らかになった。論文によると、サルセン石に含まれる石英の結晶が相互に絡み合った構造になっているため、風化することはほとんどないという。
「ストーンヘンジが存在し続けている納得のいく理由が、ついに見つかった」と、ブライトン大学の物理地理学教授で、論文の筆頭著者であるデビッド・ナッシュ(David Nash)は、Insiderに語っている。
「この石は信じられないほど耐久性があり、浸食や風化にとても強いのだ」
今回の研究では、このサルセン石に含まれる石英の結晶には、10億年から16億年前のものがあることも明らかになった。
サルセン石の化学的組成の秘密を解き明かす
1958年にストーンヘンジで行われた掘削作業では、「ストーン58」と名付けられたサルセン石からサンプルが採取された。
Lewis Phillips
今回の研究はサンプルの返還をきっかけに始まった。
1958年、ストーンヘンジ修復作業中に、ロバート・フィリップス(Robert Phillips)という掘削工が長さ約1.5メートルの岩石を採取して、フロリダの自宅に持ち帰っていた。その60年後、フィリップス家がストーンヘンジを保存する慈善団体ヒストリック・イングランドに、その岩石を返還した。
ストーンヘンジは法律で保護されているため、新たにサンプルを採取して研究することはできない。サンプルが返還されたことで、ナッシュのチームはストーンヘンジの地質学的起源を調べる機会を得たのだ。
研究者たちは、近くの博物館で見つかったサンプルとともにフィリップスのサンプルを、X線照射、顕微鏡、CTスキャンによって観察し、内部構造を分析した。
「この小さなサンプルは、月の石以外で最も分析された石かもしれない」と、ナッシュはプレスリリースで述べている。
分析の結果、このサンプルは小さな石英の粒子がパズルのように組み合わさっていることがわかった。これらの粒子は、他の石英の結晶化した破片によって固められ、「岩石を構成する結晶が、信じられないほど強固に絡み合った構造を作っている」とナッシュは述べている。
ストーンヘンジの「ストーン58」から採取されたサンプルの顕微鏡写真。石英の結晶が緊密に絡み合ったモザイク状になっている。石英の粒子の輪郭が矢印で示されている。
Trustees of the Natural History Museum
この結晶が絡み合った構造から、ストーンヘンジが何千年も存在し続けている理由の一端を知ることができる。
このサルセン石は、恐竜が地球を闊歩していた2億5200万年前から6600万年前の中生代に堆積した土砂でできていることも明らかになった。
フィリップスがコアを採取した「ストーン58」は、地面から突き出した部分の高さが6メートル、重さが約24トンの巨石である。ストーンヘンジにはもともと80個の四角いサルセン石がサークル状に並んでいたが、現在は52個が残っている。ナッシュによると、この52個のうち50個の岩石は同じ化学構造を持っていることから、「ストーン58」から得られた知見は残りの岩石にも当てはまると考えられる。
「これほど詳細にサルセン石が分析されたことはない。ストーンヘンジの歴史を物語る貴重な資料となる」とナッシュは述べている。
ストーンヘンジの「ストーン58」から掘削したコアを分析するブライトン大学のデイビッド・ナッシュ。
Sam Frost (English Heritage)
サルセン石は約24キロ離れた森から運ばれた
ストーンヘンジは、新石器時代の人々によって5000年前と4500年前に建てられた。同心円状のサルセン石の内側にブルーストーンが同心円状に置かれ、さらにその内側にサルセン石が馬蹄形に配置されている。
ブルーストーンがどこから来たのかを考古学者が調べたところ、約225キロメートル離れたウェールズのワインマウン(Waun Mawn)に行き当たった。これらのブルーストーンは、最初にそこでサークルを作るのに利用され、数世紀後にストーンヘンジに移されたことを示す証拠が見つかっている。石器時代に農耕を営んでいた人々が、東に向かって移動した際に、重さ2トンから4トンのブルーストーンを運んだのだ。
一方、サルセン石の起源は謎に包まれていたが、2020年、ナッシュの助力により、サルセン石がストーンヘンジから約24キロメートル離れたウエストウッズと呼ばれる森林地帯で産出されたことが判明した。
ウエストウッズのサルセン石。ストーンヘンジに使われたほとんどのサルセン石は、ここから運ばれた。
Katy Whitaker/Historic England/University of Reading
ストーンヘンジを建てた人々はサルセン石を運ぶ際、ローラーのようなものを用いたり、凍った地面のような滑りやすい表面を引きずったりした可能性があるとナッシュは考えている。
「動物に運ばせたという証拠はないが、まだ確かなことは分からない」
ストーンヘンジを作った人々は「適切な材料を選んだ」
ストーンヘンジが何のために使われていたかについては、天体カレンダーや神聖な墓場など、さまざまな説が唱えられている。ストーンヘンジの正面は、夏至の日の出に合わせた造りとなっている。
「分かりやすく言うと、ストーンヘンジはイングランド南部の儀式の中心地だった」と、ウェセックス・アーケオロジーの考古学者マット・ライバーズ(Matt Leivers)は、以前Insiderに語っている。
ストーンヘンジのサークル内部からの眺め。
James Davies/English Heritage
ナッシュは、ストーンヘンジを作った人々が「長年にわたって残るモニュメントを作るのに最適な材料を選んだ」ことを知っていたのかどうかは定かではないという。
しかし、ドーバー海峡の白い崖を構成する白亜の岩石など、別の材料を選んでいたら、ストーンヘンジはこれほど長くは残っていなかっただろう。
今、ストーンヘンジの存続を脅かしているのは、どうやらウサギのようだ。
「ストーンヘンジへの唯一の脅威と考えられるのは、ウサギが岩石の下に穴を掘ることで土台が揺らぎ、岩石が倒れる可能性があるということだ」とナッシュは述べていた。
[原文:Archaeologists figured out why Stonehenge's sandstone boulders have lasted for millennia]
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)