ボブ・チャペックCEO率いるディズニーは新たな局面を迎える。
Matt Stroshane/Courtesy Disney Parks
ディズニーのボブ・アイガー会長は今年いっぱいで退任を予定しており、ボブ・チャペックCEO率いるディズニーの歴史は新たな局面に入る。
チャペックがアイガー会長を引き継いでCEO職に就いたのは、コロナの影響でディズニーのテーマパーク、劇場、ストアが打撃を受けた時期だ。人々がテーマパークに戻り始め、ストリーミングの契約者数も上向き始めたため、最近発表されたディズニーの第3四半期決算は、好調だった。
しかし、今なお、チャペックは、デルタ変異株のみならず、事業上の多くの課題と奮闘している。
「コロナの影響でテレビは衰退を続けており、ディズニーのスポーツチャンネルESPNは難局に立っています。スポーツ賭博の話も進んでいません。長期的なディズニーの経営に懸念はないと思いますが、Disney+(ディズニープラス)は多くの課題への対応を迫られています」と指摘するのは、デジタルメディアコンサルティング会社ヴォーハウス・アドバイザーのマイク・ヴォーハウスCEOだ。
チャペックがトップとして、どのくらい長く生き残れるかは、彼がディズニーという複雑で肥大化したエンターテインメント企業の経営に必要な、幅広いスキルセットを持つことができるかどうかにかかっている。
チャペックは剛腕経営者として高い評価を得ているが、ハリウッドでは、もしチャペックが成果を出せない場合、ディズニー・グループ企業の一つゼネラル・エンターテインメント・コンテンツのピーター・ライス会長が彼の後継者としてふさわしいと考える者もいる。ライスは、映画やテレビのコンテンツの経験が豊かだからだ。
同社をよく知る経営者たちが、今後数カ月にわたりチャペックを悩ますことになる7つの問題を指摘した。なお、Insiderの取材に対し、ディズニーはコメントを差し控えるとした。
1. ストリーミング戦争
チャペックは、Disney+が今後も成長の余地があることをウォール街に示さなければならない。
しかし、Disney+と定期的なミーティングを持つ人物によると、同サービスが始まる前に行われた調査では、契約者数の上限は1億人と想定されたという。さらに、Disney+をよく知るもう一人の人物によると、チャペックら経営陣は最近、この調査結果をディズニーの取締役会に報告したという。
パンデミック下で契約者数の大幅増加を実現するのは容易ではない。市場調査会社イーマーケターによると、第2四半期に比べ成長は鈍化する見通しという。海外での拡大鈍化を反映してのことだ。
2. シリーズ作品の疲弊
ディズニーは長年にわたり、マーベル作品と『スターウォーズ』の世界的な人気にあやかり、またディズニープリンセスのグッズ販売から巨額の収益を得てきた。さらに、多数のマーベル作品をDisney+に投入している。
こうした従来からの手法が繰り返される中、『ブラック・ウィドウ』の映画館収益が低下したこともあり、ディズニーが今後も視聴者を惹きつけ続けられるかを疑問視する声もある。
ディズニーの元幹部は、「これらのシリーズ作品は古くなりつつあります。マーベル作品がいつまで人気を保てるでしょうか。既存作品の人気だけで収益を上げられるのはそれほど長い期間ではありません」
3. NFLストリーミング権
報道によるとディズニーは、有料ストリーミングサービスESPN+のために、NFL(ナショナルフットボールリーグ)ストリーミング権入札に参加する可能性があるという。他に入札参加の可能性があるのは、アマゾン・プライム、アップル、DAZN、ピーコックなどだ。
ディズニーはNFL放映パッケージに巨額を投じるつもりかもしれないが、他のスポーツ番組の視聴率が低下している中、問題はそれが利益を生み出すか否かだ。
4. コムキャストとの交渉
ディズニーとコンテンツ配信プラットフォーマーのコムキャストが、長年にわたりぎこちない関係にある中、チャペックは、コムキャストとの長期コンテンツ配信契約の再交渉に臨まなければならない。
テレビ業界関係者によると、コムキャストは習慣的に行われているライセンス料の大幅値上げに対し、難色を示すかもしれないという。
ディズニーは、人気のエンターテインメント・コンテンツのストリーミング配信を増やすことを理由に、ディズニー・チャンネルのライセンス料値上げを要求すると考えられえる。さらに、スーパーボールの放映を開始したABCの価値が高まったと言うだろう。
また、Huluの海外市場拡大の計画を中止するとのディズニーの決定についても、両社の間でもめている。計画を中止すればHuluの企業価値を下げることにもなりかねない。
コムキャストは、コムキャストが持つHuluの株式を2024年以降ディズニーに買い取らせる契約をディズニーと結んでいる。なおInsiderの取材に対し、コムキャストはコメントを差し控えるとした。
5. ハリウッドタレントとの関係
チャペックは、彼の前任者たちと異なり、ヒット作品を生み出した経験を持たない。有力タレントエージェントのひとりは、チャペックがディズニーのテーマパーク部門出身であることを皮肉り、「(チャペックは)チュロスのレシートを数えていた人ですよ。人々が求めているのはヒット作品で、彼らはヒット作品にお金を支払うのです。彼にはそれができますか?」と語っている。
彼の経験不足が表面化したのは、ディズニーが『ブラック・ウィドウ』の劇場公開と同時にDisney+での配信を始めたときだ。女優のスカーレット・ヨハンソンと法的係争となり、ハリウッド全体におけるディズニーの評判を落としかねない事態となった。
前出のエージェントは、チャペックが委員会を通じたコンテンツ運営をしていることに言及し、それが創造性を抑圧することになるではと懸念を示した。特に、Disney+ のコンテンツに出演するタレントに対して支払う報酬が市場の相場を下回っていることを指摘した。
6. 映画館オーナーの怒り
かつてディズニーと映画館オーナーは、世界全体で興行収入約130億ドル(約1兆4300億円)を分け合っていた。しかし今、チャペックは映画館オーナーの怒りを買っている。一部の作品を映画館放映と同時に、ストリーミング配信することを決めたからだ。
ディズニーは、次の大型作品に向けて映画館放映の選択肢を残す計画だが、デルタ株の影響でこの計画が変更されることもあり得る。
なおライバルのユニバーサル・スタジオやワーナーは、基本的にストリーミングより映画館オーナーとの友好関係を優先している。
7. 会社を去るディズニー幹部
チャペックは、アイガー会長の成功を強力に支えたゼニア・ムーチャ最高広報責任者とアラン・ブレイヴァーマン法務統括責任者が年内にディズニーを去ることから、その後任者を確保しなければならない。
さらにクリスティン・マッカーシーCFOとの契約も2022年に期限を迎える。ディズニーの組織再改革も進行中と言われている。
[原文:Seven big headaches facing Disney CEO Bob Chapek, from streaming wars to talent mutiny]
(翻訳:住本 時久、編集:大門小百合)