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日本政府とメディアはなぜ「台湾有事」をあおり続けるのか。隠された「3つの政治的意図」

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日本の政府関係者やメディアからは、中国による台湾侵攻の可能性を指摘する声が絶えない。

REUTERS/Dado Ruvic/Illustration

バイデン米政権が「台湾有事は近い」と危機感をあおってからほぼ半年が過ぎた。

アメリカの国際政治学者の間では、有事論の「虚構性」を批判し、台湾海峡の平和と安定に向けて「一つの中国」を再確認し、政治的解決の模索を促す議論が出始めている。

一方、日本の政府とメディアは相変わらず台湾有事をあおり続ける。なぜなのか。

識者たちの主張を紹介しつつ、有事論に潜む3つの「政治的意図」を浮き彫りにしたい。

「Xデー」は近いのか?

2021年3月、米インド太平洋軍のデービッドソン司令官(当時)が「中国軍が7年以内に台湾侵攻する可能性」に言及して以来、日本の大手メディアはいまも台湾有事論を展開している。

例えば、『文藝春秋』2021年9月号掲載の台湾・蔡英文総統インタビューについて、概略を紹介した『文春オンライン』記事(8月10日付)は、こんな一文から始まる。

「人民解放軍は台湾海峡周辺での軍事行動を活発化させ、台湾侵略の『Xデー』も取り沙汰されている」

一方、米軍制服組のトップ、ミリー統合参謀本部議長は「(台湾有事が)近い将来に起きる可能性は低い」と議会で証言(6月17日)。

さらに、外交専門誌『フォーリン・アフェアーズ』(2021年9・10月号)は、「海峡は非常事態なのか?台湾への中国脅威を議論する」と題する論考を掲載し、「中国軍には台湾本島への侵攻能力も、海空域封鎖や離島攻撃をする能力もない」と、有事論の虚構性を批判した。

筆者の一人、エリック・ ヘギンボーサム氏(マサチューセッツ工科大学研究員)は同論考のなかで、台湾有事論が「ワシントンで『侵略パニック』を引き起こし、アメリカと台湾の両方の利益に損害を与えている」と警鐘を鳴らし、

  • 中国指導部にとって共産党体制の安全保障こそ最優先事項。侵攻はそれを危険にさらす
  • 人民解放軍は近代化したものの、海峡を越えた攻撃に必要な海軍と空軍の能力を欠き、大規模で複雑な作戦における陸海空軍の総合的調整能力が不十分

との結論を引き出した。

さらにその結論を踏まえ、ヘギンボーサム氏は「中国の勢力拡大に過剰反応せず、台湾海峡の平和と安定を促進すべき」と主張。

アメリカは、「一つの中国」政策と、中国による武力行使への対応を明らかにしない「戦略的あいまい」を再確認し、台湾に対する「無条件の約束」を控えるべき、と提言した。

「日本の後方支援がなければ米軍は中国軍に敗れる」

日本では大手紙や識者の多くが、いまだに台湾有事論を前提としたシナリオを描いている。筆者はその背後に、日米両当局者による次のような「3つの政治的意図」が潜んでいると考える。

  1. 日本が台湾問題で主体的な役割を担う枠組みを構築する
  2. 自衛隊の南西シフトを加速させ、将来の米軍中距離ミサイル配備に向けた地ならしを進める
  3. 北京を挑発し「(武力行使の)レッドライン」を探る

1については、バイデン政権の誕生以来、菅政権は日米外務・防衛担当閣僚会合(「2プラス2」2021年3月)と日米首脳会談の共同声明(同4月)に「台湾の平和と安定の重要性」を盛り込み、日米安保の性格を「対中同盟」に変え、同時に自衛隊の軍事力強化をうたったことが傍証だ。

旧知のアメリカの国際政治学者によると、研究者による「ウォー・ゲーム(=図上演習)」の結果、「日本の後方支援と在日米軍の自由なアクセスがなければ、台湾侵攻を阻止する米軍は中国軍に敗れる」との結論が出たのだという。

それこそが「台湾問題で日本が主体的役割を担う」という政治的意図の背景だ。

日本政府は従来、台湾問題では受け身で及び腰だったが、世論の追い風を借りて、主体的な関与スタンスに変えようとしている

では、具体的にどう変えようというのか。

安倍前政権で安全保障の中心的役割を果たした兼原信克・元内閣官房副長官補による産經新聞のコラム記事(4月21日付)が参考になる。以下に一部を引用する。

「台湾有事は日本の有事である。台湾は与那国島からわずか100キロ余りの島だ[中略]時速数千キロの戦闘機が飛び回る現代戦の戦域は広い。先島諸島は物理的に巻き込まれる。

台湾有事が起きれば、中国は台湾の一部と主張する尖閣の奪取に動くであろう[中略]陸上自衛隊が近年、与那国島、宮古島、石垣島に基地を開いているのは、二度と沖縄に戦火を被らせないという決死の覚悟の表れである」

尖閣防衛の必要性と自衛隊の南西シフトは、「台湾有事は日本有事」になることを前提に組み立てられた論理が鮮明だ。

兼原氏はさらに次のように述べている。

「国内の分裂に苦しむ米国が本当に抑止できるのか。北東アジアにNATO(北大西洋条約機構)はない。[中略]米陸軍第1軍も米海兵隊第1遠征軍も1万キロ離れた太平洋の彼方(かなた)である。しかも、中国は、第1列島線の内側に絶対に米軍を入れまいとするA2AD[筆者注:接近拒否・阻止戦略]構想の実現に余念がない。極超音速対艦中距離ミサイルも登場してきた」

アメリカ単独では中国の台湾侵攻を抑止できないと状況を分析し、日本の支援が「死活的に重要」(兼原氏)になるとの考え方だ。

菅政権のもとで、安倍前首相と岸信夫防衛相の兄弟が進める「日本の台湾関与強化」政策は、安倍ブレーンだった兼原氏の認識そのものと言っていいだろう。

自民党の国防部会・安全保障調査会は、年内にワシントンで再度開かれる予定の2プラス2で、日米防衛協力の指針(ガイドライン)を改定して、台湾問題を盛り込む準備に入った。

過去にガイドラインを改定したのは、北朝鮮の弾道ミサイル発射実験を受けて朝鮮半島有事に備えた1997年、それに集団的自衛権の行使を認める安全保障関連法が成立した2015年の2回だけ。

今回は、台湾有事に備えて日米がどう協力して動くかを規定するのが目的だ。

米軍への後方支援の「重要影響事態」や、米艦防護にあたる「存立危機事態」など、安保法制の法的枠組みをどこまで盛り込めるかがポイントになる。

このような、台湾問題について主体的関与姿勢への転換を進めたい日本政府の政治的意図も、台湾有事をあおり続ける原動力になっている。

中国の台湾侵攻「レッドライン」を探る挑発

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中国・杭州市の人民解放軍空軍基地。

China Daily via REUTERS

先述した「3つの政治的意図」のうち、ここまでで最初の2つは説明できたかと思う。

最後の「中国の(武力行使の)レッドラインを探る」については、少し説明が必要だ。

台湾問題に関する「レッドライン」とは、北京が我慢できない一線を越え、台湾への武力行使を決断する事態を指す。

中国が台湾に「非平和的手段」(=武力)を行使する条件としては、2005年3月に成立した「反国家分裂法」8条に、以下の3つの条件があげられている。

  • 台湾を中国から切り離す事実が生まれる(台湾独立宣言など)
  • 台湾の中国からの分離をもたらしかねない重大な事変が発生
  • 平和統一の可能性が完全に失われる

台湾の与党・民主進歩党も、野党・国民党も、「中華民国(台湾)」は「すでに主権独立国家だから、独立を宣言する必要はない」という立場で一致している。そのため、「台湾の地位」については「現状維持」以外の選択肢はなく、台湾が独立を宣言する可能性はゼロに近い

結果として、日本・アメリカ・台湾側からは、中国の「レッドライン」がどこにあるのか読めない。

だからこそ、台湾有事の危機感をあおり、中国側の反応を引き出そうとする日米の政治的意図が働くのである。

2021年4月にアメリカの陸軍顧問団が台湾陸軍合同訓練センターに一時駐屯したことや、米軍輸送機の2度にわたる台北空港着陸も、レッドラインを探るための「挑発」と考えていい。

「つくられた危機」は戦争・紛争を引き起こす

台湾にワクチンを3度にわたって無償供与し、政府高官が台湾問題で失言しても、国会や世論には波風一つ立たない。「嫌中」の裏返しとしての「親台湾」ムードが広がる現在の日本の世論状況は、菅政権から見れば「3つの政治的意図」を実現する最大のチャンスにみえるはずだ。

歴史的にみれば、「つくられた危機」を利用して戦争・紛争に発展した例は少なくない。

「大量破壊兵器の保有」を根拠とした米軍のイラク侵攻(2003年)がそうだし、日本の関東軍が南満州鉄道の線路を爆破した「柳条湖事件」(1931年)は「満州事変」の発端となり、日本による中国侵略の導火線になった。

根拠の薄い中国脅威論を前提とした政府方針に対し、野党やメディアがほとんど異論をはさむこともなく、そのまま外交政策になるいまの状況は、非常に異様で危険だ。

中国を仮想的と見なす世論の「大政翼賛化」は、政権側の隠された政治的意図を反映したものにほかならない。

(文:岡田充


岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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