中国通信機器大手ファーウェイ(華為技術)の2021年1-6月の売上高は3204億元(約5兆4300億円)で、前年同期比29.4%減と大幅に減った。米政府の輸出規制で、スマートフォン事業が大きく落ち込んだ。
同社はスマホの開発を続けながらも、自動車など新事業の開拓に全力を挙げる。2018年12月にカナダで拘束された孟晩舟副会長兼最高財務責任者(CFO)のアメリカへの引き渡しを巡る最終審理も8月に始まり、ファーウェイの命運だけでなく米中関係の今後を占う判断が、今秋下される見通しだ。
スマホ世界シェアトップ5圏外に
ファーウェイは独自OS「Harmony OS」を搭載した新端末のリリースを続けているが、スマホ事業の落ち込みは大きい。
REUTERS/Tingshu Wang
ファーウェイの1-6月期の売り上げは、クラウドサービスなど企業向けは同18.2%増の429億元(約7300億円)だった一方、基地局など通信会社向け事業が同14.2%減の1369億元(約2兆3000億円)。そしてスマホなど消費者向け事業が同47.0%減の1357億元(約2兆3000億円)だった。
トランプ前政権がファーウェイに輸出規制を発動したのは2019年5月。同年は中国市場の伸びでスマホの出荷台数も業績も伸びて市場を驚かせたが、2020年は追加規制で半導体の調達を封じられ、生産の制限を余儀なくされたほか、サブブランド「Honor」も売却することになった。
市場調査会社IDCが公表した2021年4-6月のグローバルでのスマホ出荷台数でも、ファーウェイはついにトップ5圏外に落ちた。ファーウェイの定位置だった2位に浮上したのは同じ中国勢のシャオミ(小米科技)だ。
シャオミの雷軍CEOは8月19日の新商品発表会で、「世界2位の座を確固たるものにし、3年内に世界首位に立つ」と宣言した。ファーウェイの消費者向けビジネスグループの余承東(リチャード・ユー)CEOは2016~2018年にかけて「アップル、サムスンを抜いて数年内に世界トップに立つ」とたびたび語っていたが、同社の失速によって、シャオミがその目標を引き継ぐことになったわけだ。
ファーウェイはスマホ事業の継続を明言しており、8月12日にはフラッグシップモデルP50シリーズを発売した。しかし、大手スマホメーカーが5G対応端末の発表を競い、次期iPhoneへの搭載も確実視される中で、P50は5Gに対応できなかった。ぎりぎりに追い込まれたところでかろうじて新商品のリリースを続けていることが伺える。
年俸3400万円で採用、天才少年プロジェクト加速
4月の上海モーターショーではブランド力の弱い中堅メーカーと自動車を共同発表し、注目を集めた。
REUTERS/Aly Song
先が見えない状況でも、ファーウェイは「決算はほぼ予想通り」と総括し、徐直軍(エリック・シュー)輪番会長は「持続可能なあり方で、生き残る」とコメントした。
生き残りの最大の鍵は、世界2位だったスマホに代わる事業の柱をつくれるかだが、最も注目されているのが、次世代自動車分野における動きだ。
ファーウェイは今年4月、上海モーターショー期間中に中堅メーカーの重慶金康賽力斯汽車(セレス)とSUV「セレス・ファーウェイSF5」を共同発表し、全国に5000店舗あるファーウェイのスマホ販売店で予約を開始した。5月にはスマホ事業の顔だった余承東氏が自動車ソリューション部門のCEOを兼務。スマホの経験とリソースを自動車に振り向ける姿勢が鮮明になった。
同社は今後、毎年10億ドル(約1100億円)を自動車関連の研究開発に投資するとしている。開発チームの人員は5000人を超え、うち2000人が自動運転技術に携わっている。
自動運転分野は中国でもバイドゥ(百度)、小鵬汽車(Xpeng)などライバルが多いが、ファーウェイの参入がナマズ効果を生み、中国の業界全体を活性化させると期待されている。
また、より長期的な技術開発に向けて、創業者の任正非(レン・ジョンフェイ)CEO肝煎りで始めた「天才少年プロジェクト」の採用も加速している。任CEOはアメリカから最初の規制を受けた翌月の2019年6月、「世界から20~30人の天才少年を招聘する。来年は200~300人に採用を拡大する」と宣言した。
報道された限りでは、これまで学部を卒業したり、大学院で博士学位を取得した20人弱が同プロジェクトでファーウェイに入社し、うち5人が年俸201万元(約3400万円)で契約している。
副会長の米国への引き渡し、最終審理始まる
8月4日に孟副会長の最終審理がカナダで始まった。
REUTERS/Jennifer Gauthier/File Photo
もう1つ、ファーウェイの今後を直接的に左右する要素として忘れてはならないのが、創業者・任正非CEOの長女で、2018年12月にアメリカの要請によりカナダで拘束された孟晩舟(メン・ワンチョウ)副会長兼CFOの問題だ。
米司法省は2019年1月、孟氏を「英HSBCを騙してイラン制裁措置に違反させた」銀行詐欺罪などで起訴し、孟副会長をアメリカに引き渡すかを判断する最終審理が8月4日にカナダの裁判所で始まった。
孟氏側は、逮捕はトランプ大統領(当時)が司法に干渉した「政治案件」であることや、米司法省がカナダの裁判所に情報を意図的に開示せずミスリードしたなどと主張。ファーウェイ・カナダは訴訟の終結と孟氏の帰国を求める声明を出した。
ファーウェイ・カナダのスポークスマンを務めるアライカン・ベルシ(Alykhan Velshi)氏は「バイデン政権はどこかのタイミングでトランプ大統領のやってきたことを擁護するか否定するかを明確にするだろう。彼の人柄から後者を取ると期待しているが、トランプ政権時代に行われた孟氏へ行為に対処することまでは難しいと見ている」と話した。
ファーウェイ・カナダのスポークスマン、ベルシ氏は「早期解決に向け、カナダ政府にも働きかけを続けていく」と語った。
引き渡し審理は今秋に判決が出るが、裁判所が引き渡しを認めたとしても、孟氏側が上訴すれば審理はさらに5~10年かかる見通しだ。
また、最終的に身柄の引き渡しを決めるのはカナダの法相で、カナダ政府は判決後に介入が可能な立場であるため、ベルシ氏は「これまで何度も介入をお願いしており、政府への働きかけも続けていく」という。
カナダと中国の関係も、孟副会長拘束を機に急速に悪化した。中国当局は孟副会長が逮捕された直後に、中国で複数のカナダ人をスパイ容疑で逮捕。裁判所はうち1人に対し今月11日に懲役11年と5万元(約85万円)の没収、国外追放を言い渡した。中国の裁判所は10日に、別のカナダ人被告に対しても麻薬密輸の罪で死刑判決を維持する判断を下しており、孟副会長の裁判への圧力と受け止められている。
ベルシ氏は「カナダは米中対立に巻き込まれた形で、経済関係者の多くは早く解決したいと望んでいる」と強調した。
トランプ政権時代に始まった規制はファーウェイを弱体化させているが、同社は難局打開のために独自OS「Harmony OS(鴻蒙)」をはじめとする「アメリカに依存しないエコシステム」の構築を進めている。それが長期的に、アメリカやその同盟国である日本の産業にどのような影響をもたらすのか。着地点が見えるまでにはまだ時間がかかりそうだ。
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。最新刊「新型コロナ VS 中国14億人」。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。