エンバーク(Embark)が開発を進める自動運転トラック。2021年上半期は同分野への投資が集中した。
Embark
この10年間、ベンチャーキャピタルや自動車メーカー、さらには(グーグル親会社の)アルファベットやアマゾンなどの巨大IT企業までが、自動運転技術を確立するための研究開発競争に忍耐強く投資を続けてきた。
テクノロジー専門メディアのインフォメーション(The Information)によれば、自動運転関連のスタートアップに投じられた資金は、2015年以降の累計で少なくとも240億ドル(約2兆6400億円)にもおよぶ。
確かに、アリゾナ州やネバダ州の一部では旅行者が自動運転の配車サービスを利用できるし、実証実験ベースながら自動運転トラックを使った物流事業を展開する企業もすでに出てきている。
しかし、グーグルが自動運転技術の開発に乗り出して12年が経過したいまも、自動運転車を使った大規模かつ収益性のあるビジネスを実現できた企業はまだ1社もない。
自動運転開発企業は今年に入ってから、市場が(ベンチャーキャピタルなどの)個人投資家と同じように忍耐強く資金を提供し続けてくれるのか試そうと動き始めた。
(株式を公開すれば)短期間で大きな資金を調達できるが、四半期ごとに財務状況を開示し、より徹底した監視の目にさらされる必要がある。それだけの価値があるかを見きわめなくてはならない。
「ロボタクより自動運転トラック」の現状
2021年に上場した(もしくは上場の計画を発表した)自動運転開発企業4社のうち3社は、従来型の新規株式公開(IPO)か特定買収目的会社(SPAC)との合併によるか上場プロセスは違えど、いずれもトラック専業のスタートアップだ。
自動運転開発の黎明期に優勢だったロボットタクシーを手がける企業は含まれておらず、上記4社の残りの1社、オーロラ・イノベーション(Aurora Innovation)もトラックの市場投入を優先し、その後ロボットタクシーに手を広げる計画だ。
投資家にしてみれば、トラック輸送に特化したビジネスモデルの長期的な可能性は明白だ。
世界のどの市場でも物資の輸送を担うのはトラックが中心で、物流企業はドライバーの確保に苦労している。
米調査会社ピッチブック(Pitchbook)の試算によると、トラックに自動運転技術を搭載することで、1マイルあたりの物資輸送コストを2025年までに21%削減できる。また、自動運転トラックのグローバル市場規模は2035年に1670億ドル(約18兆3700億円)まで拡大するという。
専門家の多くは、配車サービスや自家用車向けの自動運転システムを開発するより、大型トラック向けのそれを開発するほうがたやすいと考えている。というのも、トラックは走行距離の大部分をハイウェーが占めるため、交差点や歩行者の存在を考慮する必要がないからだ。
自動運転トラックの開発を手がけるスタートアップにとっては、資金調達に動くならいま以上の好機はない。ピッチブックによれば、2021年上半期に自動運転トラック開発企業は合計56億ドル(約6200億円)を調達し、同セクターにおける年間資金調達額の最高記録を上回っている。
2021年7月にSPACとの合併を通じて上場する計画を発表したエンバーク(Embark)と前出のオーロラ・イノベーション、両社の最高経営責任者(CEO)も、十分な収益を得られるようになるまでの運転資金を手早く確保したいなら、いまをおいてほかにないと口を揃える。
エンバークはSPACとの合併により6億1400万ドル(約680億円)を調達する予定。2016年の創業以降の累計調達額の5倍以上に相当する金額だ。
ただ、バランスシートを強化できるからといって、このチャンスに飛びつく企業ばかりではない。例えば、小型自動運転トラックの開発を進めるアインライド(Einride)のロバート・ファルクCEOは、利益を出してから株式公開に進みたいと語る。
米ラクスキャピタル(Lux Capital)のシャヒン・ファルシュチはInsiderの取材に対し、いまIPOやSPACとの合併による上場を選択した企業は、今後(不安定で予測のつかない)株価の変動を見た人材やパートナーがアプローチを手控える可能性など、新たなリスクに直面するだろうと語っている。
2021年に上場した(あるいは上場計画を発表した)自動運転トラック開発企業4社のうち、商用プロダクトを販売しているのはプラス(Plus)のみ。
前出のオーロラとエンバーク、画像処理半導体大手エヌビディア出資のトゥーシンプル(TuSimple)の3社については、商用プロダクトのリリースは早くても2023年の予定。
電気自動車(EV)分野では、デビューモデル発売(予定)の1年以上前に上場を決めたスタートアップが株価の暴落に苦しんでいる事例もある。
自動運転トラックの開発を進めるスタートアップにとって、上場はビジネスを軌道に乗せるために必要な最後のひと押しとして選ぶ手段であって、「望むものには気をつけよ」(=望んで得られたものが望ましいものとは限らない)ということわざを思い出させられる方法でもある。
(翻訳・編集:川村力)