VC投資家マシュー・ボールは、メタバースは「今日のモバイル・インターネットの継承国家」になるという。
Fortnite/Epic Games
フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグやマイクロソフトのサティア・ナデラCEOは、自分たちの率いる巨大IT企業をメタバース企業へと移行させると宣言している。彼らが「メタバース」を語るとき、それは単なる流行語以上の意義を持つことになる。
「メタバース」という言葉を最初に生み出したのは、SF作家ニール・スティーヴンスンだ。1992年出版作品『スノウ・クラッシュ』に初登場するこの言葉は、デジタルとリアルが交わる共有バーチャル空間を表す。
実在する歌手のアリアナ・グランデやラッパーのトラヴィス・スコットが、ゲーム用プラットフォームのFortnite(フォートナイト)上でライブ・コンサートを開催したり、あるいはRoblox(ロブロックス)上で、プレーヤーがネイティブ通貨Robuxを使って家を買ったり、ペットを飼ったりするのをイメージするとよい。
1200万人を超すプレーヤーがプロラッパー、トラヴィス・スコットのライブイベントを「フォートナイト」で視聴した。
Epic Games
ベンチャーキャピタリストのマシュー・ボールは、コロナのパンデミックで、娯楽や消費における人々の行動の変化が速まっているという。
「パンデミック下、主にバーチャル世界において、友情が生まれるという現象が起きました。結婚式が行われ、多くの学校が卒業式を行いました。物理や生物をはじめさまざまな科目を担当する教師たちが、バーチャル世界で授業を始めました」
エピリオンのマネージングパートナーでもあるボールによると、メタバースはこうしたバーチャル世界を上回る「今日のモバイル・インターネットの 『継承国家』」 として出現したという。さらに次のように語った。
「メタバースをモバイル・インターネットの後継者ととらえるとき、それは個別のゲームや経験の話ではなく、多くのさまざまなテクノロジーが組み合わされ、集合的にインターネットの後継者となる、ということなのです」
数兆ドルの価値を生み出しうる可能性
インターネットは、すべての産業や市場に世界規模で関わっている。そのインターネットにおいて、獲得できる可能性のある最大市場規模(Total Addressable Market)を測ることは不可能だ。それと同じように、メタバースが生み出す機会の総価値を把握することは、非常に困難である。
ボールは、それをいくつかの具体的なカテゴリーに分類している。そのうちのひとつは、ロブロックス、マインクラフト、エヌビディアのオムニバースなどのバーチャル世界から構成されている。キャシー・ウッド率いる投資運用会社アーク・インベストによると、2025年までにこのカテゴリーから生み出される収益は、年間4000億ドル(約44兆円)にのぼる可能性があるという。
Ark Invest
「しかし、この規模はメタバース全体のTAM (Total Addressable Market)からすれば、ごく一部です。ソーシャルネットワークがインターネットのすべてではないのと同じです。モバイル・インターネットやそれ以前のインターネットがそうであったように、メタバースは全産業、全分野、世界のすべての市場に届き、全体として数兆ドル(数百兆円)の価値を生み出すでしょう」とボールは語る。
メタバースを投資機会としてとらえるためのもう一つの方法は、インターネット専業あるいはインターネット関連という共通項を持つ、現在最も価値の高い企業に目を向けることだとボールは言う。そして次のように続ける。
「将来最も強力になる企業、最も価値が高くなる企業は、方向転換をしてメタバース企業へと成長、変革する企業です。この変化は、成長のための経済的機会です。同時に、世界の有力企業であり続けるための条件になります」
注目の6つのメタバース銘柄とは?
ボールは、上場投資信託ランドヒル・ボール・メタバースETF(META)のインデックス・パートナーでもある。METAは2021年6月30日にファンド運用を開始し、その運用資産は既に4500万ドル(約49億5000万円)に達している。
ボールによると、METAの運用は、クラウドコンピューティングからブロックチェーンや暗号資産まで、メタバースの主要カテゴリーをカバーする7人の専門家によって行われているという。運用チームは、独自の手法を使い、メタバースへの関わりによって上場企業を評価している。
METAは、一定のルールに基づき策定される株価指数に連動するパッシブ運用だが、ボールは、インターネットの未来を継承するうえで、好位置につけている6銘柄を次のように分析している。
エヌビディア(Nvidia)
ボールによれば、エヌビディアはリアルタイムのバーチャル環境を提供するために必要な「最も重要で優秀で影響力のあるグラフィックス・プロセッシング・ユニット」を製造しているという。さらに、オムニユニバースという企業シミュレーション・プラットフォームを提供している。それは、複数の企業が提供する複数の異なったソフトウェアを使いながら、統合されたシミュレーションを作成できるものだ。
「メタバースの主な機能・要件、つまり臨場感を伴うリアルタイムレンダリング(即時の画像の3次元化)、プラットフォームをまたぐ新技術、規格、そしてメタバースが存在するためのプラットフォームを考えると、エヌビディアは不可欠で重要なプレーヤーです」
イマージョン(Immersion)
イマージョンはエヌビディアよりはるかに小規模だが、リスポンシブ・センセーション(反応感覚)とリスポンシブ・バイブレーション(反応振動)に関する最も重要な特許のひとつを持っている。
その特許は、iPhoneやゲームコントローラーを操作するときに感じる「豊かでダイナミックな感覚」に関わるもので、イマージョンは、消費者がiPhoneやプレイステーション5を購入するたびに特許料を受け取っている。
ロブロックス(ROblox)、ユニティ・ソフトウェア(Unity Software)
ロブロックスやユニティ・ソフトウェアは「バーチャル・プラットフォームを所有または運用しているか、他社がバーチャル世界を構築するための基本的な技術インフラを提供しているかのどちらか」に特化した企業だと、ボールは言う。
アマゾン(Amazon)
アマゾンはEC大手企業と考えられがちだが、実はAWSによるクラウドコンピューティング能力、PlayFabを通じた多様なサービス、そして技術水準の高さを備え持つメタバース企業だ。
テンセント(Tencent)
中国のインターネット大手であるテンセントも、METAの上位銘柄だ。テンセントは「世界で最大で、最も影響力を持ち、最も利用され、最も高い売上を上げているゲーム企業のひとつ」とボールは言う。テンセントのように、相互接続されたバーチャルなマルチフランチャイズ・シミュレーションを数多く作り出せる企業は、他にはあまりないという。
ただし、最近の中国規制当局によるIT企業取り締まりによって、テンセントの時価総額は1700億ドル(約18兆7000億円)近く失われた。
ボールは中国の状況を注視している。「中国の社会的変化が(テンセントの)ポテンシャル、計画、戦略に変化をもたらせば、我々の手法はそれに対応してポートフォリオをリバランスします」と言う。
(翻訳:住本時久、編集:大門小百合)