買収発表の記者発表の後、Business Insider Japanの取材に応じたビザスク社長の端羽英子氏。
撮影:横山耕太郎
スポットコンサルのマッチングサービスを運営する「ビザスク」は8月18日、アメリカを中心にサービスを展開する同業のコールマン・リサーチ・グループを買収することを発表した。
約1億200万ドル(約112億円相当)で、ビザスクがコールマン社の発行済み株式を100%取得し完全子会社にする。
ビザスクの端羽英子社長はBusiness Insider Japanの取材に対し、「日本企業が海外の知見にどんどん触れられるようなサービスにしたい」と話した。
取扱高30億円から約3倍の88億に
ビザスクインタビューは、1時間の「スポットコンサル」をうたう。
HPより編集部キャプチャ
ビザスクの主力サービスは、市場調査などをする企業に対し、知見を持ったアドバイザーをマッチングする事業。企業の希望に沿ったアドバイザーを探し、企業側は1時間など短時間でインタビューできるサービスだ。
ビザスクは2020年3月に東証マザーズに上場。2022 年 2 月期第 1四半期(3~5月)の取扱高は、前年比89%増の9億8000万円と、上場後も順調に事業を拡大させている。
アドバイザーの登録者も増えている。上場時には約10万人だったが、1年余りの2021年5月末時点では約14万人にまで増えた。
一方のコールマン社は、2006年に設立。アメリカに本社を置き、ロンドン、香港に海外拠点を持っている。
年間の取扱高は4300万ドル(約47億3000万円)超で、アドバイザーは26万人を超える。
両社のプラットフォームを統合すれば、年間の取扱高はビザスクの約30億円と合わせて約88億円になると見込んでおり(直近12カ月の実績により推定)、アドバイザー数は40万人を超える。
海外アドバイザーの獲得狙う
今回の買収の理由について、ビザスクの端羽氏は「事業シナジーを最大化し、世界一のナレッジプラットフォームを作るため」と説明する。
ビザスクに登録するアドバイザーはほとんどが日本人だ。しかし、日本企業では海外市場についての情報収取ニーズが高まりを受け、2020年1月にはシンガポール拠点を設置。海外の知見を持つアドバイザー獲得を進めてきた。
「日本企業が海外に進出するために、現地でのマーケティングに役立てたいなどのニーズだけでなく、国内向けの新事業の企画でも、海外の先進事例を知りたいという声や、海外での業界のトレンドを知りたいという声があった。コロナで海外出張がなくなったこともあり、海外の一次情報へのニーズは高まったと感じている」(端羽氏)
目指すはアドバイザー100万人
現在、ビザスク単体ではアドバイザーは14万人だが、将来的には100万人の登録を目指す。
出典:ビザスク「米国Coleman社買収についての説明資料」より
今回の買収によって、コールマンに登録するアメリカやヨーロッパのアドバイザーが、ビザスクの人材紹介データベースに加わることで、日本企業のニーズとのマッチングの質が上がると期待する。
「これまではニーズがあっても、登録者が少なくアドバイザーを紹介できないこともあった」(端羽氏)
端羽氏が目標として掲げたのが、アドバイザーの登録者を将来的に100万人にまで増やすことだ。
「ビザスクでは一人のアドバイザーにインタビューするサービスのほかに、同じ質問を複数の人に回答してもらうサーベイというサービスもある。アドバイザーを増やすことができれば、サービスの質を高めることにつながる」(端羽氏)
市場規模は世界で1650億円
ナレッジシェアの市場はグローバルで拡大している。
出典:ビザスク「米国Coleman社買収についての説明資料」より
ビザスクが100億超えの買収に踏み切った背景には、世界的にナレッジシェアの市場が拡大していることもある。
ビザスクやコールマンのように、各種調査や相談のために知見を持つ人物とのインタビューをマッチングするサービスはENS(Expert Network Service)と呼ばれる。
グローバルでのENSの市場は、年17%の成長を続けており、2020年の市場規模は15億ドル(約1650億円)にのぼるという。
「ENS市場は高い成長率を続けているだけでなく、コンサルティング市場やR&D(研究開発)市場にも隣接している。世界のR&D市場は1兆7000億ドルとも言われ、世界がイノベーションに投資し、テクノロジーの進化に対応している。
良質な情報へのニーズが高まっており、経験を持った人材を紹介できる我々には大きなビジネスチャンスがある」(端羽氏)
事業好調も常に意識したM&A
記者会見後に取材に応じた端羽氏(右)と、ビザスクCOO瓜生英敏氏。
撮影:横山耕太郎
国内でのマッチング事業は、ビザスク単体でも成長を続けているが上場以降は買収を常に意識してきたという。
「上場後は忙しい毎日だったが2週間に1度は必ず、M&Aのための勉強会を続けてきた。M&Aの素敵なところは時間を買えるところ。M&Aで得た時間を使ってさらにサービスを拡大させる」(端羽氏)
ビザスクのサービス全体で見れば、日本企業と海外のアドバイザーのマッチング件数は、「まだまだ少数」なのが現実だ。
「遠い未来なのかもしれないが、海外とのマッチングが、日本国内でのマッチングを超えても不思議じゃない。日本企業が海外の知見にどんどん触れるようになれば、その可能性はある」(端羽氏)
拡大するナレッジシェアの市場。これまで国内で成長してきたビザスクが、グローバルを取り込みいかに存在感を示せるか。端羽氏の経営手腕が注目される。
(文・横山耕太郎)