A.各サービスのARPU(1ユーザー当たりの売り上げ)Netflix $11.70(約1170円)Facebook $3.35(約335円)YouTube $0.95(約95円)
個人課金モデルのNetflixのARPUが 約1170円と最も高額です。(Netflixの日本での月額料金はベーシック990円、スタンダード1490円)
広告売り上げを主体にしているYouTubeのARPUが最も低いですが、現在1.6%の課金率を高めるためのトライアル(YouTube Premium Lite)に着手しており、今後課金ユーザーの増加に伴いARPUも増加するポテンシャルがあります。
この記事はゲストライターとの共同制作です。
2021年7月末にGAFAMの2021年4〜6月期の決算が出揃い、売り上げと利益をまとめた以下の比較表をツイートしたところ、さまざまな反響がありました。
GAFAMの四半期決算(4〜6月)が出揃いました。 各社とも今回も好決算ですが、成長率には差が見られます。 中でも、Google、Facebookは四半期売上高がYoY+50%超を実現していて、この規模にして驚異的な成長率です。 各社の成長要因は、今後解説していきます!
これだけの売り上げ規模でありながら、全ての企業が前年同期比20%以上の売上成長率となっており、GAFAMの存在感が益々大きくなっているように感じます。
その中でも、GoogleとFacebookの売上高は前年同期比(YoY)+50%以上の成長率で、営業利益は、FacebookがYoY+2倍、GoogleはYoY+3倍と、売り上げ規模も収益性も驚異的な成長を見せています。
今回の記事では、GAFAMの中から広告ビジネスであるGoogleとFacebookにフォーカスし、Googleに関しては、特に急成長しているYouTube Ads(広告)事業を取り上げていきます。
さらに、YouTubeの次の成長の軸となる個人課金モデルで先行しているNetflixをもう一つの比較対象として取り上げ、売り上げ、利益、ARPU(1ユーザーあたりの売上)、MAU(月毎のアクティブユーザー数)について比較しながら、Google(YouTube)の今後の成長可能性を見ていきたいと思います。
YouTube Adsの決算
まず、YouTube Adsの決算から見ていきます。上図は、Googleのサービスセグメント別の売上高とYoYを比較した表です。ほぼ全てのセグメントで大きく成長していますが、YouTube AdsはFY21Q2(2021年4〜6月)の売上が$7B(約7000億円)、YoY+83.7%と、コロナ禍が追い風となりGoogleのセグメントの中で最も成長しています。
YouTube ads revenues increased $3.2 billion from the three months ended June 30, 2020 to the three months ended June 30, 2021, driven by growth for our brand and direct response advertising products.
金額にすると、前年同期(FY20Q2)から$3.2B(約3200億円)も成長していますが、その成長を牽引しているのは、ブランド広告とダイレクトレスポンス広告です。
ダイレクトレスポンス広告は、動画広告に連携して下部に関連商品を紹介する画像を掲載できるなど、動画広告を閲覧したユーザーに、その場で直接購買につながるアクションを促す仕組みを強化した広告です。
コロナ禍で、オンライン購入ニーズが高まっている中で、購買を促進させる手段として、ダイレクトレスポンス広告のニーズも同様に高まっているということでしょう。
では、同じく広告モデルにより収益を上げている他の企業も同じように伸びているのでしょうか?YouTube Adsとの比較をするために、GAFAMの中で広告売り上げ比率が圧倒的に大きいFacebookの広告事業の数字を見てみましょう。
Facebookの決算
FY21Q2(2021年4〜6月)のFacebook広告の売り上げは$28.6B(約2.86兆円)、YoY+56%と、YouTube AdsのYoY+83.7%には劣りますが、非常に高い成長率となっています。
Q2 ad revenue was $28.6 billion, up 56% or 51% on a constant currency basis. The macroeconomic environment for online advertising remains very strong. As Sheryl noted, the growth in advertising revenue was largely driven by verticals that have performed well during the pandemic, such as online commerce and consumer packaged goods.
特に、オンライン広告に対する市場全体のニーズは非常に高く、オンラインコマースや消費財などのコロナ禍でよりニーズを伸ばした業種が、Facebookの広告売り上げの成長を牽引しています。
ここまで、広告モデルであるYouTube AdsとFacebookの決算を見てきました。次に、「動画サービス」という観点でYouTubeと共通点を持つNetflixの決算を見てみましょう。Netflixは、YouTubeとは異なり個人課金モデルにより収益を上げていますが、どのような成長率になっているのでしょうか?
Netflixの決算
FY21Q2(2021年4〜6月)において、Netflixの売上高は、$7.34B(約7340億円)、YoY+19.4%となっています。上図の右側の四半期ごとのYoY成長率を見ていただくと分かるように、コロナ禍の後押しがあった昨年を除いて、成長は鈍化傾向にあります。
Revenue growth was driven by an 11% increase in average paid streaming memberships and 8% growth in average revenue per membership (ARM) .
YoY+19.4%の成長率のうち、有料会員増加による影響が+11%、ARPU向上による影響が+8%となっており、ARPUよりも有料会員数の増加が、今四半期の売上成長に寄与しました。
上図は、Paid net membership additions(課金ユーザーの純増数)を表しており、前四半期比(QoQ)で課金ユーザーがどれだけ増えたか(減ったのか)を地域別に示す指標です。
FY21Q2は、トータルでFY21Q1からQoQ+154.1万人と増加しています。そのうちAPAC(アジア)が102.2万人の増加と、増加分のうち3分の2を占めています。
その一方、UCAN(米国・カナダ)はQoQ▲43.3万人と、会員数が減少しています。
YouTube AdsとNetflixの四半期収益の推移
こちらは、黒がYouTube Adsの広告売り上げ、赤がNetflixの課金売り上げを比較したグラフで、両社の売上は接戦となっています。季節性などによって売り上げが前後しながら成長する広告売り上げと、安定的に成長している課金売り上げの違いがグラフから分かります。
こちらの表は、先ほどのグラフの元データに、YoY成長率を加えたものです。
YouTube Adsは、FY20Q2のYoYが+5.8%とその他の四半期より低い成長率となっています。これは、コロナ禍の影響により、視聴回数やエンゲージメント、前述したダイレクトレスポンス広告は成長しながらも、ブランド広告の売上が大きく減少したためです。しかし、翌4半期以降は、毎期成長率を伸ばしています。
次に、3社の売上とMAUからARPUを試算し、今後の成長ポテンシャルを考察していきましょう。
売り上げとMAUの横比較
こちらはYouTube Ads、Netflix、Facebookの四半期売り上げの推移をまとめた表です。
表の右側のFacebook売り上げ推移を見てみると、YouTube Adsと同様に季節性などによって売り上げが増減しながらも成長しており、広告ビジネスの特徴が表れています。
こちらは、それぞれのサービスをMAUの推移を示しています。
Facebookは、決算資料(Earnings Prsentation)の中でMAUが開示されており、30億人に迫る勢いで増加しています。Netflixは同じくIR資料(Letter to Shareholders)の中で、「 Global Streaming Paid Memberships(月額課金ユーザー数)」が公開されているため、そのユーザー数をMAUとしています。
YouTubeのMAUの推移は正式には公開されていませんが、「Business of Apps」の調べによると、2018年に約18億人、2019年に約20億人、2020年に約23億人となっています。2019年は1年間で約2億人(四半期で5,000万人)の増加、2020年以降は1年間で約3億人(四半期で7,500万人)の増加ペースと推定し、FY21Q2の時点でのMAUは24.5億人と試算しています。
ARPUの比較
前述した売り上げとMAUからARPUを算出すると、上の表のようにになります。
NetflixのARPUは、FY21Q2で$11.7(約1170円)で、広告モデルの2社と比較して圧倒的に高い水準にあります。
また、同じ広告モデルのFacebookとYouTube Adsを比較しても、Facebookは$3.35(約335円)、YouTube Adsは$0.95(約95円)と、3倍以上の開きがあります。Facebookの方がより高度なターゲティングができるためと考えられますが、YouTube AdsにはARPU向上のポテンシャルがあるとも言えるでしょう。
ちなみに、上記の表のYouTubeのARPUは、YouTube Ads(広告売り上げ)のみから算出しています。ただ、お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、YouTubeには、個人課金売り上げもあります。
では次に、YouTubeの個人課金売り上げを含んだARPUをNetflixと比較しながら見てみましょう。
YouTube Premiumの課金率向上によるARPU向上余地
上図は、YouTube Premiumの売り上げとNetflixの売り上げを比較したものです。
Youtube Premiumは、月額1180円(日本)で、YouTubeを視聴する際の広告表示を無くし、バックグラウンドでもYouTubeを再生できるサブスクリプションサービスです。
YouTube Premiumのユーザー数の推移は公開されていませんが、FY19Q4は2200万人、 FY20Q3では3000万人になっていると各期の決算発表で公表されています。そのデータから、FY20Q4以降はYouTube Premiumのユーザー数が毎四半期300万人増加していると推定し、FY21Q2の時点で3900万人のユーザー数がいると試算しています。
アメリカでのYouTube Premiumの月額料金は、$11.99(約1199円)であるため、FY21Q2の売上は、以下のように推定できます。
$11.99 × 3ヶ月 × 3900万人 = $1.4B(約1400億円)
さらに、YouTube AdsのARPUにYouTube Premiumの売り上げを加えた場合のFY21Q2のARPUは、
YouTube Ads売上:$7.00B(約7000億円)Premium売上:$1.40B(約1400億円)MAU:24.5億人より($7.00B+$1.40B)÷24.5億人÷3ヶ月=$1.14(約140円)
となり、現時点ではNetflixの$11.70(約1170円)に対して約10倍と、依然として大きな差があります。
また、現在24.5億人と推計されるYouTubeユーザーのうち、Premiumに登録してるのは3900万人と推計されるため、課金率は、
3900万人÷24.5億人=1.6%
ほどの水準であると推測できます。
一般的にフリーミアムの課金率は2〜5%と言われており、音楽ストリーミングシェアトップのSpotifyの課金率は45%となっています。もちろん課金率はサービスの性質によって異なりますが、YouTubeの現状の課金率が1.6%とすると、まだ課金率を高める余地はあるかもしれません。
さらにYouTubeは、広告非表示だけに機能を絞った月額700円程度のライトな有料プラン(YouTube Premium Lite)を欧州で試験的に導入しています。
同プランをNetflixやSpotifyの欧州の価格帯と比較すると以下のようになります。
YouTube premium Lite €6.99(約700円)Netflix basic plan €7.99(約800円)Spotify premium €10.99(約1100円)
他のサービスと比較しても、YouTube Premium Liteは、安価な料金設定になっています。手頃な価格のYouTube Premiun Liteが、課金率及びARPUの成長にどのくらい寄与するのかは、今後の注目すべきポイントと言えるでしょう。
まとめ
今回は、直近2021年4〜6月期で成長率が高かった、広告サービスを主軸にしているGoogleのYouYube Ads、Facebookと、個人課金モデルのサービスを展開しているNetflixを、ARPUを軸に比較していきました。
2021年4〜6月の各社の四半期売上、YoY、MAU、ARPUのそれぞれの数値は以下の通りです。
3社の決算から、ARPUが最も高いのは課金モデルのNetflixであり、YouTube AdsのARPUは同じ広告モデルのFacebookよりも低いことが分かりました。
また、YouTubeについては、Premiumの課金売り上げを加えたとしても、Premiumの売り上げは広告売り上げの2割程度であり、現時点では他社のARPUとは依然として大きな差があります。
YouTubeは課金率が1.6%とまだ低く、課金ユーザーが増加するポテンシャルはあると言えるでしょう。
特に、最近欧州でスタートした低価格プランのYouTube Premium Liteが、課金の売り上げをどこまで引き上げるのか、また、YouTube Adsへの影響があるかどうかには今後も注目していきたいと思います。
シバタナオキ:AppGrooves / SearchMan共同創業者。2009年、東京大学工学系研究科博士課程修了。楽天執行役員、東京大学工学系研究科助教、2009年からスタンフォード大学客員研究員。2011年にシリコンバレーでAppGrooves / SearchManを創業。noteで「決算が読めるようになるノート」を連載中。
決算が読めるようになるノートより転載(2021年8月19日公開)