コロナ禍でより重視されるようになった1on1。その効果は出ているのだろうか?
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コロナ禍のリモートワークで1on1(上司と部下の定期的な1対1のミーティング)の導入はさらに進み、日本企業でも身近なものになりつつある。2020年時点で、上司と部下のコミュニケーションに取り入れる企業が4割とのデータもあるほどだ。
しかし、1on1の優先度や期待値では、上司より部下が低いとの調査結果が。特に「成長支援の場」としては機能していないという部下からの声は重い。
リモート環境でのコミュニケーションに頭を悩ませる職場も少なくないが、せっかく取り入れた1on1で部下と上司がすれ違うのはなぜ? 解決策はあるのか?現場社員の声を聞いた。
「1on1の優先度」一般社員は管理職ほど感じていない
出典:Unipos
HRテックのUniposが全国の上場企業勤務の20〜60代の管理職/一般社員約650人に1on1について聞いたところ「すべての業務の中で1on1の優先度が高い」と考えている管理職は65%と多く出た一方、一般社員で「1on1の優先度が高い」と考えている人は47%にとどまった。
さらに「フィードバックの場になっている」、「技術や能力の習得」「悩みや不安を理解し合う場になっている」など「1on1に期待すること」12項目では、全ての項目で部下の期待は、上司の期待をはっきりと下回った。
こうした上司と部下、理想と現実のギャップはなぜ生まれるのか? 実際に、管理職として、あるいは部下として、業務に1on1を取り入れている人の声を聞いてみよう。
「上司しか満足してない1on1、マンモス企業はそうなりがちですよね。前職がそうでした」
そう話すのは、日本で名前の知らない人のない大企業から、フルリモートのITベンチャーに転職したデザイナーの女性(20代)。
「ジョブでしっかりと役割が分かれていなくて、ぼんやりと『マネジメントする』という謎の役割が、結果的に『監視する』に置き換わってしまってる感じがします。終身雇用型でジェネラリストを目指す日本企業の悪癖では」
明確な目的のないまま、ただ1on1をやる……になっていることが「上司しか満足してない1on1」の背景にあるとの指摘だ。
会社が1on1を積極的に取り入れたのはいいが、具体的な方法や目的が統一されておらず、やり方がよく分からないという声も。
「1on1に必要性は感じてますが、やり方が管理職によってバラバラ。会社全体で1on1の方法が統一されてないんです。雑談の人もいるし、業務リソースの相談する人もいるし。逆に自分が部下に1on1する時も『このやり方でいいのか……』と自信がないですね」(ITベンチャー勤務、27歳男性)
韓国コスメやドラマ、アニメまで
共通の話題作りのために、流行の韓国コスメの話をすることも。
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管理職側も手探りという面もあるようだ。
人材系のベンチャー勤務の女性(28)は、営業サポート部門の課長で、10人の部下と月1回は1on1を行っている。年上の部下もいて気を使うが、1on1の困難さは社員のタイプに寄るという。
「昇進を目指すなど仕事に燃えている前向きなタイプは、アドバイスもしやすいのですが、サポート部門なので、そもそもそれほど仕事にガツガツしてない人もいる。惰性で受けているだろうなというケースもあり、共通の話題を作るために韓国コスメやドラマ、アニメの話もあえてしていますが、部下がどう感じているかは正直、わかりません」
大手通信業の中間管理職の男性(44)はこうボヤく。
「自分自身が、手取り足取り教えてもらった経験がないので、いきなり1on1と言われても……。上の命令は絶対に従ってきた世代だが、自分が上司になったらなったで部下には気を遣って……。損な役回りと感じてしまう」
なぜ上司の自己満足になるのか?
上司から1on1を仕掛けるだけでは意味がなく、その必要性を明確に伝えなければならない。
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もともと1on1文化は、グーグルやインテル、マイクロソフトなど名だたるシリコンバレー企業が相次ぎ導入したことで、日本でも注目された。
2010年代以降、ヤフーやソフトバンクなどが取り入れ、やがてコロナ禍で導入企業の裾野が広がった形だ。
「コロナ以降、1on1の導入はすごく増えて、一気に定着した感があります。ただ、その目的は成長支援なのか離職防止なのか、業務理解なのか、組織によってさまざまのはず。ただ1on1というビッグワードに乗るのではなく、何のために導入したのかを、明確に社員に対して発信する必要があります」
そう話すのは、大手企業を中心に1on1など組織コンサルティングで実績のある(約230社)、NEWONE代表の上林周平さんだ。
「コロナ禍以降、 WHY(なぜ)を語ることが非常に重要になっています。自宅でのテレワークは基本一人ですから、なぜ1on1が必要なのか、なぜこの施策をやるのかを明確に言わなければならない。なんとなく伝わることはありません」
こんな1on1はダメな2つのポイント
注意すべきポイントを押さえれば、1on1でより良い信頼関係を築くこともできる。
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なお、とりわけ終身雇用を前提としてきた大手企業については、1on1の導入に際し、注意すべき点が2つあると上林さんは言う。それは
1. 「上から目線の1on1にしない」
2. 「終身雇用前提で話さないこと」だ。
「まず、上下関係の厳しい組織で働いてきた上司に多いのですが、部下に対して、お前のために時間をとってやってるんだという態度はやめるべきです。これでは1on1が成立しません」
上司が自分の話ばかりしてしまう「残念な1on1」が生まれる背景もここにありそうだ。
「2つ目は、部下がこの会社に居続けること前提で話すのを見直すことです。今の若手が一生この会社にいるつもりとは限りません。若手にとってこの先のキャリアも踏まえて話を進めないと、本人にとっての時間になりづらい。抱えている問題の解決支援ができないのです」
上林さんは実際に、辞めたいと考えている部下に対しては、部署間移動を会社や人事に対して交渉するレベルまで「上司が動いて初めて、信頼関係が築ける」と指摘する。
ちなみに前出のUniposの調査では、一般社員が「1on1で満たされていること」も聞いている。
その結果、一般社員が1on1で満足できているのは「業務の進捗管理の場」であった一方、満足度のワーストは「新しい技術・能力の習得に繋がる場になっている」、続いて「挑戦に対して後押しされる場になっている」。
「成長支援の場」としての役割がもっとも満たされてないことが浮き彫りになった。
1on1を有益にするため最も大事なこと
NEWONE代表の上林周平さん。WHYを明確に伝える大切さについて語ってくれた。
画像:本人提供
リモートワークや、1on1自体のブームも手伝って、職場にせっかく導入されている1on1。もちろん、成長支援の場になれるに越したことはないが、言うのは簡単でも実行こそが難しい。
いい方法はあるのだろうか。
NEWONE代表の上林さんは、1on1の「大前提」についてこう言及する。
「1on1はそもそも信頼関係がないと、その場が満足するものにはなりえません。表面的な会話を繰り返しても、本質的な信頼関係は築けない」
相手の大事にしている価値観を明示するワークを取り入れるなど、相手を理解する仕組みの導入は効果的という。
「1on1という言葉がいろいろ内包して万能だからこそ、上司側は目的は何かというWHYに応えているか? 信頼関係を築く努力を普段からやっているか? これらを具体的に意識する必要があります」
一方、部下の側も『今すぐ何かを得られる場』と思って臨むと、期待値と現実がズレが生じてしまうという。
「むしろ、自分が何を考えているのか情報を出して、コミュニケーションをとることで、今後のキャリアのためのステップの場として使うべきです」
1on1がうまくいかない、リモートワークだとコミュニケーションが難しいと嘆く前に、WHYを伝えたか。信頼関係はあるのか。やれることはまだまだありそうだ。
(文・滝川麻衣子)