NFTコレクション「おかしなクジラたち」のクリエイター、ベンジャミン・アフメド少年。
Benyamin Ahmed
「ノンファンジブル・トークン(NFT、非代替性トークン)」の人気が急上昇している。
アーティストが自分の作品をデジタル化するための手段として始まったものが、デジタル資産を売買する人たちにとって大きな利益を期待できる投資機会に早変わりした。
社会の大きなトレンドとまでは言えないものの、早くから注目している人たちはこのテクノロジーが持つ可能性を認識している。
NFTは、画像や音声、ときにはツイートなどの形をとるデジタル資産の一種。クリエイターが自ら制作したコンテンツをブロックチェーンサービス(大半はイーサリアム)を通じて販売したり、マーケットプレイスで転売されるたびに手数料を徴収したりできる。
さて、12歳のベンジャミン・アフメド少年は「おかしなクジラたち(Weird Whales)」と名づけた自作のNFTコレクションを通じて、すでに約110イーサ(ETH)を稼ぎ出した。
アフメド少年のコレクションの特徴は、鮮やかな色で塗りつぶされた背景に、ピクセルで描かれたクジラ。楽しみながら学ぶ方法として始めたものが、わずか9時間で完売。きわめて収益性の高いプロジェクトに変わった。
8月23日14時時点(日本時間)の1イーサの取引価格は約3350ドル。アフメド少年のNFTコレクションは約37万ドル(約4000万円)相当ということになる。
なお、少年は銀行口座を開設したことがない。いまのところ法定通貨に換金する予定もなく、むしろ暗号資産のままで持っておきたいそうだ。
NFT販売開始までのプロセス
アフメド少年にとって「おかしなクジラたち」は、アートっぽくて派手なNFTコレクションをつくる2度目の試み。
当初はAdobe Photoshopで制作した作品をNFTに変換していたが、40点分のそうした作業を終えたところで、時間と労力がかかりすぎることに気づいた。
その後、アフメド少年は父親のイムランから教わり、(プログラムコードの)パイソン(Python)スクリプトを使って大量のNFTを作成する簡単な方法があることを知った。
イムランは英ロンドン証券取引所のウェブエンジニアリングリード。仕事の知識を活かして、息子のベンジャミンにコーディングを教えていたのだ。
「(父親のアドバイスを受けて)調べてみたら、『退屈なバナナ(Boring Bananas)』という別のNFTコレクションが、ソースコードをすべて公開しているのを見つけたんです。そのコードを使って、3350種類の『おかしなクジラ』コレクションを完成させました」
アフメド少年は、「退屈なバナナ」を運営するチーム(ボーリング・バナナズ社)のメンバーに、NFTコレクションを生成するためのコードを送ってもらい、特性の異なるレイヤーや背景を操作できるようカスタマイズ。
完成したのち、ツイッターアカウントを通じてプロセスをシェアした。
「12歳の僕がどうやってNFTコレクションを完成させたのかをツイートしたら、『退屈なバナナ』アカウントが引用リツイートしてくれたんです。たくさんのフォロワーがいるので、一気に情報が広まり、おかげで『おかしなクジラたち』も売れました」
アフメド少年が7月19日、イーサリアム上で「おかしなクジラたち」コレクションをクジラ1点あたり0.025イーサで売り出したところ、9時間で完売した。
「NFTプロジェクトの多くが0.08イーサで販売しているのを見て、ベンジャミンはそれより安い価格設定を選んだのです。
もちろん、一気に完売するなんて思っていなかったので、私も息子に『ひとつかふたつ売れたら、あとはあまり動かなくなるかもしれないね』と(あまり期待しないように)言い聞かせていたのですが、口コミだけで広がって、その日のうちに完売です」(父親のイムラン)
アフメド少年が得た利益はそれだけにとどまらない。
NFTはクリエイター(著作権者)情報を紐づけたまま取り引きされるので、中古市場あるいは転売市場で売買されるときもクリエイター自身があらかじめ設定した手数料を徴収できる(NFTマーケットプレイス「オープンシー(OpenSea)」の場合)。
彼はこの手数料を2.5%に設定しており、現在までに1000イーサ相当の「おかしなクジラたち」が転売されている。
したがって、単純計算で手数料は25イーサ、1イーサの取引価格を約3350ドル(先述)とすれば、アフメド少年の追加収入は少なくとも約8万3800ドル(約920万円)となる。
コーディングを身につけた経緯
驚くべき成功をおさめたとはいえ、12歳のアフメド少年にとってコーディングは仕事ではなく、あくまで好きだからやっている趣味にすぎない。
父親のイムランは仕事が終わっても、帰ってから自宅でコードを書くことがしばしばあった。そうやって父親がパソコンの前で仕事をしているとき、ベンジャミンとその弟は父親のそばで画面をのぞき込んだりしていた。
「そんな状況だったので、ベンジャミンと弟にノートパソコンを買い与え、使い方やコーディングを教え始めたのです。ふたりとも本当に夢中になって覚えたので、これは良いスキルセットになると思いましたね。
『20年後には、コードを教えてあげたパパに感謝する日が来るよ』なんて冗談めかして話したものです」
イムランが驚いたのは、息子たちに20年もの時間は必要なかったことだ。ベンジャミンと弟は家族旅行の最中ですら、日中をビーチでまるごと楽しんだあと、夕方になるとノートパソコンを開いてコーディングを始めるほどの意欲を見せた。
「(コーディングは)学習体験として始めたもので、これからもそういう位置づけです。あくまで教育の一環であって、それ以外の何ものでもありません。巨額の利益を得るための冒険や探求とはまったく違います。
息子のNFTが売れたのは、その(12歳でコレクション販売という)ストーリーの興味深さが口コミを呼んだにすぎません」
アフメド少年のプロジェクト展開にかかったコストは約300ドル(約3万3000円)。内訳の主な部分は、イーサリアムの取引時に発生する手数料(いわゆる「ガス代」)だ。
彼は「ベローニ」の名前でYouTubeチャンネルも運営している。また、プログラミング教育コミュニティから生まれた学習用ゲームサイト「コードウォーズ(Code Wars)」を通じて、コーディングの過程で得た知識や経験をシェアしている。
アフメド少年からのアドバイスは「好きなことをすること、それ以外は無駄だから」というもの。
「料理でも何でも、好きなことをやればいい。友だちがやっているからとか、やったほうがいいような周りからのプレッシャーがあるからとかいう理由で、好きでもないことに手を出さないほうがいいと思います。
何かをやるなら楽しんでやること。すべては学ぶ『体験』だと思えばいいのでは」
[原文:How a 12-year-old earned 106 ethers by creating an NFT collection and selling it out within a day]
(翻訳・編集:川村力)