人気が高まるポッドキャストだが、その課題は収益化だ。
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昨今、人気が高まる音声配信。コロナ禍による巣ごもり需要も後押しし、日本でもポッドキャストなどのユーザー数は増加している。
一方、課題は収益化だ。音声コンテンツが浸透しているアメリカでも、ポッドキャストで収益化に成功したポッドキャスターは全体の3%程度とも言われる。
現役の人気ポッドキャスターたちがそれでも配信を続ける理由を聞いてみると、収益だけではない魅力がポッドキャストにはある、という。
ポッドキャスターは「次のYouTuber」になれるのだろうか?
楽曲制作やデザインにも挑戦
「スタバで隣から聞こえてくるOLの会話を盗み聞きする」をコンセプトに人気を集めるポッドキャスト「ゆとりっ娘たちのたわごと」。
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2017年末に配信を開始し、累計リスナー数が30万を超える人気ポッドキャスト「ゆとりっ娘たちのたわごと」(通称「ゆとたわ」)。
パーソナリティである、かりんさんとほのかさんは都内で会社員として働きながら、週に2回、30分の配信を続けている。
「(収益化については)何も決まっていないけれど、検討を始めたところです。この活動を生活の一部として続けていく方法を考えないとね、と話しています」
「ゆとたわ」は、「スタバで隣から聞こえてくるOLの会話を盗み聞きする」をコンセプトに、実際に都内で会社員として働く2人のおしゃべりを配信。20代後半の2人が見て感じたことを素のままで発信し、その等身大の価値観や世界観が共感を集めている。
番組の知名度が上がっていくにしたがって、ポッドキャストに使う時間も増えた。はじめは週に数時間程度だったものの、今は平日の終業後や休日をまるまる使うことも当たり前になるほどの多忙ぶりだ。
しかし、2人に「職業=ポッドキャスター」として活動するビジョンはない。2人が収益化を焦らない理由に、ポッドキャストを続けることで、活動の幅を広げられるメリットがあるからだという。
例えば、絵を描くことが好きだったかりんさんは、ポッドキャストを通じて発信する場ができたことで、番組や、オンラインイベントのアートワークやグッズデザインなどに挑戦できたそうだ。
5月に開催されたオンラインイベントのアートワークやグッズはかりんさんがデザインした。
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ほのかさんは、「ゆとたわ」の活動を通じて、楽曲の制作や発表も実現。以前からの「曲を作ってみたい」という夢を叶えた。
2020年8月に発表した「ワナチル」はSpotifyでの再生回数が9000回を超えたという。
かりんさんが作詞、ほのかさんが作曲した曲がSpotifyをはじめApple MusicやLINE MUSICなどでも配信されている。
動画:ゆとたわチューブ
また、ポッドキャストの活動を通じて、思わぬ出会いもあった。
番組を始めて1、2カ月くらいの頃から、お笑い芸人のティモンディ前田さんが聞いてくれており、その後に「ゆとたわ」のイベントにゲスト出演してもらうような仲に。
ほかにも、アーティストのさとうもかさんや映画監督の大九明子さんがゲストとして出演してくれるなど、ポッドキャストを通じてつながった人たちも多い。
「『ゆとたわ』は私たちにとって仕事というよりも、生活に根付いた『ライフワーク』なんです。普段なかなか出会えない人たちと(ビジネス上の肩書きがついていない)素の自分として対話できていることも、ありがたいなと思っています」
YouTubeにはない面白みがある
「ノウカノタネ」パーソナリティのひとり、鶴田祐一郎さん。
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2021年3月に、Spotifyが主催する「Spotify NEXT クリエイター賞」を受賞した農業系ポッドキャスト「ノウカノタネ」は、さまざまなチャンネルを通じて、収益化に成功し始めた一例だ。
「ノウカノタネ」は、福岡の若手農家の鶴田祐一郎さん(つるちゃん)、久保田夕夏さん(コッティ)、毛利哲也さん(テツ兄)が始めた番組。農薬や農機具といった農家向けのテーマから農業以外のテーマまで幅広く扱い、農家だけでなく非農家のリスナーからも支持されている。
今主な収益源となっているのは、番組内での商品PR、YouTubeチャンネル、スポティファイオリジナル番組の制作の3つ。特に、YouTubeチャンネル「ノウカノタネTV」では、月20万〜30万円程度の収入につながっている。関係する収益を合計すると「ちょうど3カ月に1回軽トラが買えるくらい」の規模になっているという。
ポッドキャスト“外”での収益化に成功している「ノウカノタネ」。しかし鶴田さんは「ポッドキャストにはYouTubeにはない面白みがある」と感じているそうだ。
現役農家による人気ポッドキャスト「ノウカノタネ」。「農閑期の過ごし方ランキング」などニッチなタイトルが並ぶ。
撮影:西山里緒
「YouTubeは視聴者が僕を消費することに対して、対価が支払われているという感覚があります。そもそも視聴してくれているファン層も、全く違います」
視聴者からのコメントをとってみても、その層の違いがわかる。
YouTubeでは、たとえば「要はどの肥料を使えばよいのですか?」といった、パーソナリティから情報を吸い上げようとするコメントがつく。一方、ポッドキャストでは、「自分はこう思う」といった、リスナーが受け取った情報を咀嚼(そしゃく)した上での意見やフィードバックが多いそうだ。
Spotify、 Appleも収益化モデルを模索
音声プラットフォーム各社はクリエイターの収益化への道を模索し始めた。
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YouTube以上にファンとの距離も近く、自ら主体的に番組と関わるリスナーも多いと思われるポッドキャスト。重要なのは「番組の性質とリスナーとの関係性」を壊さない収益モデルを作っていくことだろう。
それらを無視して広告を挟み込んでしまえばそれはただのノイズであり、リスナーが離れていくことにつながりかねない。音声コンテンツのマネタイズポイントをいかに作っていくかは、慎重に設計される必要がある。
なお、収益化できているポッドキャスターの割合はまだまだ低いものの、音声配信のプラットフォーム各社はいままさに様々な形でクリエイターの収益化モデルを模索している。
Spotifyは2月にオーディオ広告のマーケットプレイス「Spotify Audience Network」の解放、4月には有料サブスクリプション(定額課金)と、クリエイターの収益化に向けた施策を相次いで発表した。
Appleはそれを追うように、4月にポッドキャストのサブスクリプションサービスの開始を発表。
また、国内の音声配信プラットフォームでは、stand.fmが「月額課金チャンネル」機能を提供している。
Voicyは、企業によるスポンサーに加え、リスナーからの月額課金できるサービスを開始している。同社によると、個人による音声配信で80名以上の収益化を実現し、最高月額200万円を達成した配信者もいるとのこと。
収益源は、投げ銭だけじゃない
歴史系ポッドキャスト「コテンラジオ」は2021年6月、8400万円の資金調達を発表した。
画像:「歴史を面白く学ぶCOTEN RADIO」公式サイトより
現時点で、ポッドキャスト単体での収益化に成功している事例はあるのだろうか。
ユニークリスナー数14.2万人を抱える人気ポッドキャストの「歴史を面白く学ぶCOTEN RADIO(コテンラジオ)」は月額1000円(税抜き)からのサポータープランを設けている。
サポーターには、月に1エピソード以上のサポーター限定の音声コンテンツが配信されるほか、イベントの優先参加券などの特典がつく。
「ノウカノタネ」の鶴田さんも、このモデルに可能性を感じている。
「これまで7年間、自分なりに調べものをしたり面白いと思えるコンテンツを提供するなかで、ノウカノタネにも、『なにか支払えないか』というリスナーからの声がたくさん届くようになりました。番組とリスナーが強く絡み合っているからこそ、『投げ銭』のように、協力したいというリスナーの方からいくらかいただくという方法は考えられるのではないでしょうか」
一方、「ゆとたわ」の2人は「リスナーへの課金は考えにくい」と話す。
「私たちのリスナーは年齢層が幅広く、なかには小学生の女の子もいるほど。そのため、リスナー間で差をつけたり、課金した人だけが聞けるものよりも、より多くの人に気軽に楽しんでもらいたいと思っています」
さらに、再生回数により収入が決まるYouTubeのような広告モデルについては「コメディコンテンツなどとは相性が良いのではないでしょうか」(「ノウカノタネ」鶴田さん)と話す。
以下は、取材した結果をもとに、ポッドキャストのジャンルごとに考えられる収益モデルをまとめたものだ。
【コンテンツジャンル別で想定できる収益モデル】
- 知識シェア系(例:「ノウカノタネ」「コテンラジオ」)…サブスク、投げ銭などのリスナー課金
- おしゃべり、雑談系(例:「ゆとたわ」)…番組協賛、商品PRなどのスポンサーシップ
- 企画・ネタ系(例:コメディなど)…広告などの再生回数連動型
未だ統一された収益化フォーマットのない音声配信。それでも、人気ポッドキャスターたちはその活動そのものから得られる出会いや挑戦を楽しんでいる。
次の転換点はプラットフォームの攻防戦になりそうだ。
今後、音声配信でもYouTubeのように支配的なプラットフォームが誕生すれば、「好きなことで生きていく」ことを目指すクリエイターによる競争が起こるのかもしれない。
(文・佐藤志保)
※こちらの記事は、2021年7〜8月にBusiness Insider Japanが開講したスクール「編集ライター・プロ養成講座」の受講者が、編集部のディレクションのもとに取材・執筆したものです。