ベンチャーキャピタル(VC)に投資の判断基準について話を聞くと、よく挙がるのが「好意的な紹介があること」と「シリアルアントレプレナー(連続起業家)かどうか」だ。
人脈のある起業家は、そうでない起業家より投資を受けられる確率が13倍高いと言われている。ではそもそも、新たな事業を立ち上げたばかりで頼れる人脈がない起業家は、どうすればVCの目にとまることができるのだろう?
起業家が事前の連絡もなしにVCにメールを送りつけたとしても、投資担当者のメールボックスにはすでに他の起業家1000人ほどから相談メールが届いており、その中に埋もれるだけだろう。
総額で数十億ドルを投資しているVC11社に話を聞いたところ、8つのヒントが浮かび上がった。
1. 企業情報データベースに登録する
米カリフォルニア州のVC、アクセル(Accel)でヨーロッパ担当パートナーを務めるセス・ピエールポンは、投資先候補を調査する際に「VCがよく使うのは企業情報データサービス」と明かす。VCとの出会いを求めるスタートアップなら、データベースへの登録は必須だ。では、VCたちは具体的にどんなデータベースを見ているのか。
未公開企業の情報を提供するサービスとしては、ピッチブックデータ(Pitchbook Data)やクランチベース(Crunchbase)、ボーハースト(Beauhurst)、ガートナー(Gartner)などがある。
「運によるところも大きい」が、投資へのプラス要因となる情報が掲載された場合、事業領域によってはVCの興味を引くことになる。
情報サービス会社によってデータ収集方法は異なるため、企業情報が正しく更新されていないことがあると指摘するのは、アルビオンVC(AlbionVC)の投資ディレクター、ジェイ・ウィルソンだ。
ウィルソンはこう続ける。
「不正確な情報のせいで、投資先候補から漏れてしまう可能性があります。例えば、資本効率を重視するVCは累計調達額に注目します。この値が正しく反映されておらず、高すぎた場合、VCから見過ごされるでしょう。
数多くある企業情報のプラットフォームで、自社データを常に更新するのは大変ですが、しっかり管理していれば、将来性を見込んでくれるVCからのアプローチがあるかもしれません」
2. アクセラレーターや成長プログラムにエントリーする
前出のアクセルが投資先を発掘する際は、市場でのスタートアップの注目度合いも参考にするという。
アクセルの主な投資対象はシリーズA以降のスタートアップなので、アーリーステージで話題を呼ぶような企業を探している。
デロイト・トウシュ・トーマツによる「テクノロジー Fast 50」(テクノロジー企業成長率ランキング)などのプログラムで受賞したり、ビジネス系コンテストで優勝したりするとVCの目にとまりやすくなる、とピエールポンは言う。アクセルはコンテストやイベントでの受賞者を特定できる専用ソフトを導入しており、興味を持ったスタートアップには積極的に接触しているという。
「駆け出しのスタートアップが投資家へアピールするには、創業初期がとにかく肝心」とピエールポンは話す。アクセラレーターのYコンビネータ(Y Combinator)による養成プログラムなどに参加すると注目を集められるが、さらに重要なのはプログラムを通して投資家との人脈を築くことだ。
インパクト投資(社会的課題の解決を目指す投資)を行うアスタノールベンチャーズ(Astanor Ventures)のパートナー、ヘンドリック・バン・アスブルックもピエールポンの意見に同意する。「スタートアップはコミュニケーションを大切にするべきです。まずは存在に気付いてもらえないと、声をかけてもらいようがありません」
起業家は、記者会見や主だったイベント、あらゆる場所でアピールし、資金を呼び込む努力をするべきだ。なぜなら、「VCは耳を傾けている」(バン・アスブルック)のだから。
3. 情報プラットフォームを活用し、更新を怠らない
B2Bスタートアップに特化したフロントラインベンチャーズ(Frontline Ventures)のパートナー、ウィリアム・マッキランによると、同社は年間1500〜2000の企業をウォッチしている。「実際に投資するのはそのうちの10社ほどです。すべての企業に丁寧なデューデリジェンスはできませんからね」
投資の優先度は、VCへのアプローチのしかた次第で変わるとマッキランは言い、「投資家と強いコネクションがあると、投資選定に確実に有利」と明かす。また、スタートアップにアプローチする手段としてLinkedInやTwitterをよく活用しているという。投資家はさまざまな経路に情報網を張り巡らしているのだ。
シードステージに特化したVC、ローカルグローブ(LocalGlobe)のパートナー、エマ・フィリップスも、公開している企業情報は常に更新しておくようアドバイスする。「アーリーステージ初期の企業なら、LinkedInの公開範囲は制限しつつも、VCからのアプローチを見込んで事業領域は公開しておくべきです」
ローカルグローブは投資判断の材料として、企業情報のみならず、起業家の職務経歴やプロフィールにも着目し、「なぜこの市場にこの起業家がふさわしいのか」という視点からも評価している。
フィリップスは、起業家はこれまでの職務経験を生かし、顧客の抱える問題や悩みをどう解決していくのか、深めてきた知見をアピールするべきだと話す。
中央・東ヨーロッパのアーリーステージVC、ジェネシスインベストメンツ(Genesis Investments)の投資マネジャー、エレナ・マズーハは自己PRと専門知識を語る絶妙なバランスが大事だと助言する。
起業家が事業に関する深い知識を分かりやすく説明したり、事業に対する意気込みを熱く語ったりするようなPRは、ソーシャルメディアでもひときわ目立ち、VCの関心を引くことになると、マズーハは言う。
「ただし、起業家が自社を特別視したり自画自賛したりするのは逆効果」と注意を促す。
4. 今後を見据えて、VCにはこまめに近況報告を
キューベンチャーズ(QVentures)はプレシード期に特化したファンドを運営している。同社のマネージングパートナー、ロバート・ウォルシュは、スタートアップの創業時期や創業時の資金調達に関する情報を得るのが「極めて難しい」と話す。
そこでウォルシュが起業家に勧めるのは、VCへの報告体制を整えることだ。
VCは、スタートアップの各資金調達ラウンドで立て続けに断るケースがあるかもしれない。しかしスタートアップからの近況報告を拒むVCはほとんどいないと、ウォルシュは言う。「報告書を1年間送り続けていたら、ある日突然VCから支援の連絡が入った、という可能性もあります」
5. 信頼のおけるシード投資家を選ぶ
マッキランは、活躍の目立つスタートアップの情報はシード投資家がもたらしてくれるのをあてにしているという。「起業家は、シード投資家のつてでシリーズA投資家を紹介してもらうといいでしょう。シリーズA投資家に情報が正しく伝わるよう、シード投資家に必要な情報をしっかりインストールすることが大切です」
起業家がさまざまなステージの起業家と知り合うのは、決して悪いことではない。
UCLテクノロジーファンド(UCL Technology Fund)の投資ディレクター、デイビッド・グリムは、起業家間でのネットワークを広げておくことも大事だと話す。「一番ホットなスタートアップはどこか、VCが起業家に尋ねる場面がますます増えています」
6. 優秀な人材を雇う
フロントラインベンチャーズはLinkedInを頻繁にチェックしており、大手IT企業の管理職を退任した後で、公開されている役職がCEOや起業家に変わる人を探している。
「『IT企業の管理職が起業』と聞いただけで、投資先候補として検討しますね」とマッキランは言う。
「以前、これはすごい才能だと驚くような人物を見つけたのですが、その人はアイスクリーム店を始めようとしているんです。ものすごく有望ではあるものの当社の投資領域ではないので投資はしませんでしたが、開店したらすぐに味見しにいきたいと思います」
優秀な人材や多くの顧客を集められるスタートアップに注目するのは、フィリップスも同じだ。
「注目を集められる顧客や提携パートナーがいて、それを宣伝材料に使えるのであれば、早い段階で投資家の信頼を得られます。素晴らしい経歴や紹介状を持った社員がいる場合も同様ですね。VCは、起業家が適切な人材を確保できるかを注視しているんです」とフィリップスは言う。
他のVCも同意見だ。オマーズベンチャーズ(OMERS Ventures)のマネージングパートナー、ハリー・ブリッグスは、投資先のスタートアップが有能な人材を雇うと聞くと特に嬉しいと言う。
また、ブロッサムキャピタル(Blossom Capital)の創業者であるオフィーリア・ブラウンは、「起業家が優秀なチームを集めてプロダクト開発に専念できれば、間違いなくVCからアプローチされるでしょう」と話す。
7. VCの投資戦略に沿ったプレゼンを心がける
フロントラインベンチャーズはアイスクリーム店に投資しないが、食品に特化したVCもある。投資家の投資領域や戦略を理解し、それに沿う形で自社をプレゼンすると支援を得られやすくなる。
ブルーホライズン(Blue Horizon)は、食分野のインパクト投資を担う。パートナー兼COO(最高執行責任者)のセデフ・コクテントゥルクは、投資ファンド戦略を理解する重要性は「いくら強調しても強調しすぎることはない」と語る。
8. 解決志向で目的を明示する
コクテントゥルクをはじめ多くのインパクト投資家は、難題を乗り越えようとしているスタートアップとの出会いを「常に熱望」している。「投資家の関心を引くためにも、どのように食品業界に革命を起こすのか、また、どのような社会的インパクトを与えられるのか明確に示すべきです」とコクテントゥルクは言う。
アスタノールベンチャーズのバン・アスブルックも同様だ。「起業家が目的を明示することで、VCはその市場性や将来性を評価できるのです」
(翻訳・西村敦子、編集・常盤亜由子)