オフィスカフェのワークスペース。
James Ewing, SmithGroup
ここ数十年の間に、オフィスは劇的な変化を遂げた。
以前は間仕切りで囲まれた小部屋のようなキュービクル型レイアウトで、コピー機があるようなオフィスが一般的だった。それから何年も経って、これらはオープン型オフィスやノートパソコンに取って代わられた。
もちろん、近年ではオープン型オフィスにも欠陥があることが明らかになっている。 ある調査によると、プライバシーが守られないことや、常に気が散ってしまうことで従業員のストレスや疲労が増す傾向があるという。2013年のストックホルム大学の研究でも、オープン型オフィスで働いていた人は、自分のオフィスを持っていた人よりも病気の感染リスクが高いため、傷病休暇を取る確率が高かったことが分かっている。
新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化し、企業の多くは従業員を在宅勤務に切り替えざるを得なくなった。しかし、2021年に入っても在宅勤務が続くようになると、生産性と健康維持の両方の観点から現在のオフィス構造には限界があるという認識が高まった。
こうした知見から、企業はオフィスの役割について真剣に考え直すようになった。ビジネスリーダー、建築家、デザイナーの多くは、オフィスは今後主にコラボレーションの場として機能すると予測している。Insiderは、オフィスが実際にどのような意味を持つのか、うまく機能させるために企業が何をすべきかについてこうした専門家らから話を聞いた。
コロナ禍以前の従来型オフィスの限界
オープンオフィスのトレンドは、インターネットバブルのころにシリコンバレーで始まった。それからほどなくして、アメリカ企業の多くがその流れに続いた。
しかし、コラボレーションと生産性を向上させるための構造であるはずのオフィスレイアウトが、多くの労働者にとって不満の種となった。多くの調査で明らかになったのは、オープン型オフィスではコラボレーション環境を構築できないことが指摘されたにもかかわらず、主にコスト効率が良いという理由から、企業はこの構造を採用し続けたということだった。
センター・フォー・アクティブ・デザインの創設者ジョアンナ・フランク。
Courtesy of Joanna Frank
コロナ禍以前の近代的オフィスにも、健康維持の観点から問題となる要素がいくつかあった。換気が十分でないこと、自然や日光が十分に取り入れられていないことはすべて、人々の心身の健康に悪影響を及ぼしてきた。
健全で活気のある地域社会を築くための設計を追求する非営利団体、センター・フォー・アクティブ・デザイン(Center For Active Design)の創設者でCEOのジョアンナ・フランク(oanna Frank)は、「会社は従業員にいきいきと働いてもらわなければなりません」と語る。さらにフランクは、従業員一人ひとりの健康状態と成長する力は、会社が経済的に成長する力と直接的な相関関係があると指摘している。
アクティビティをベースにしたワークスペース
カフェを兼ねたワークスペース。
Jason Keen, SmithGroup
いままで以上に多くの労働者が、働く時間と場所について、自分で主体的に決めたいと考えるようになってきている。世界経済フォーラムの2021年の調査によると、従業員の66%が会社はもっとフレキシブルな勤務形態を許可すべきだと考えており、30%がオフィスに戻らなければならないなら別の仕事を探すと答えている。
スミスグループのリズ・ニューマン
Courtesy of Lise Newman
こうした現状に即した設計とは、企業が「常にアクティビティをベースにした設計に移行すべき」であることを意味していると、アメリカと中国に15のオフィスを持つ総合設計企業、スミスグループのワークプレイスプラクティス担当ディレクター、リズ・ニューマン(Lise Newman)は語る。
フランクも「さまざまタイプの仕事をサポートするためには、いろいろな物理的空間が必要だということを理解した上で、企業はオフィスを設計する必要がある」と同意する。
これらのニーズを考慮すると、コーヒーショップのような座席配置の間仕切り型ブース、個室型ブース、カフェ風の環境が増える可能性が高い。「カフェを兼ねたワークスペースは、社員との交流と人間関係の構築という2つの目的で使われるが、作業スペースや会議室が空いていなくて利用できなかった従業員のための予備の場所として、普段は従業員の30%が、金曜日には誰もが利用するような場所としても活用されるでしょう」とニューマンは予想している。
個人が集中して作業できる空間
個人のスペースでゆったり働くことができるオフィス。
Justin Maconochie, SmithGroup
ニューマンは、オフィスは主にコラボレーション用のスペースになると考えているが、個人用の作業スペースがすぐになくなるとは考えていない。コロナ禍がもたらした多くの不公平の1つとして、誰もが自宅を安全で生産的な職場環境に変えられるわけではないことが挙げられる。
「なかには自宅よりもオフィスで仕事をしたいと考える従業員もいます。特にZ世代は人間関係を築きたいと一番思っている世代であり、彼らは自分の存在感を示したいと考えています」とニューマンは言う。
しかし設計の観点から言えば、それを叶えるには、間仕切りで区切ったテーブルやデスクではなく、個室や少人数用の小部屋を導入することが必要だという。ニューマンが顧客から常に聞いてきた課題の1つは、多くの人たちが集中できるオフィスを求めているが 「従来型のオフィスではうまくいっていなかった」ということだ。
自然や屋外を設計の一部に
アウトドアテラスに設けられたワークスペース
Judy Davis Hochlander, SmithGroup
自然と創造性の間に関連があることを示す研究は数多くある。
2012年のある研究によると、4日間の登山を経験した人たちは、自然に触れなかった人たちに比べて、「創造性を要する問題を解決するタスク」 のパフォーマンスが50%優れていたという。自然の中で過ごすことで脳の前頭前野を休めることができ、それによって創造性が高まることが分かった。
また、オフィスの設計に緑を取り入れることで、会社はワークスペースでもこのメリットを生かすことができる。ニューマンによれば、顧客からはWi-Fiやモニター、作業用スペースを備えたテラス型オフィススペースを作りたいという要望が寄せられているという。
健康に優しい機能や最先端技術を取り入れる
空気の質も働く人の生産性や創造性に大きな影響を与える要素だ。
アメリカのハーバード大学とシラキュース大学の研究者が2016年に行った研究によると、換気が良く二酸化炭素レベルの抑えられたオフィスで働いていた従業員は、標準的な建物の環境で働いていた従業員に比べて、認知機能を要する仕事でのパフォーマンスが61%優れていたという。
フランクによれば、健康に優しい機能を備えたビルはこれまで「あるに越したことはない」と見なされてきたという。しかし設計の観点から言えば、企業は必要な設備には投資が必要だ。温度調節ができたり、遮光ができる機能は、企業や従業員にとって有益であるとフランクは指摘する。
オフィスの質の透明性を確保することも重要であり、企業はワークスペースの現状が従業員に具体的に伝わるような工夫をすることも必要だという。
フランクが聞いた一例では、従業員がオフィススペースにある会議室を予約すると、その会議室が最後に使用された日時や、利用した人の健康状態がリスクにつながらないかといった情報を得ることができるような機能も存在しているという。
「このような有益な情報を得ることは、働く人たちにとって重要なことです」 と彼女は言う。
創造性を刺激する
インターネット接続とコンピュータさえあればコラボレーションが可能な世界では、オフィスはもはや働く場所のデフォルトとして存在しているのではなく、企業は人々が来て働きたくなるようなオフィスの設計を考える必要がある。
デイヴィッド・シュワルツ
Courtesy of David Schwarz
設計代理店、ハッシュ(Hush)のパートナー、デイヴィッド・シュワルツ(David Schwarz)によれば、職場には「企業文化とその使命とビジョンの象徴」がなければならないと言う。「アップル本社ビルの丸い輪のような形の設計からもスティーブ・ジョブズが何か特定のメッセージを発していたことが伺えますし、同じようなことは他の会社も行っています」
同氏はこの他にも、サッカースタジアムや洗練されたイベントスペースなどを例に挙げている。「エントランスから一歩入ると、中には象徴的なものがあってそれが人々の目を引く、というような工夫です」
「それはスタジアムの旗であったり、ある種の光や窓であったり、はっきりとそれと分かるような建築要素である場合もあります」とシュワルツは言う。「そのように計算されたものは、相互作用とコラボレーションを促すようなものでなければなりません。何の動機付けもなくただあればいいというものでもありません。人々が集まるための試金石となるものでなければならないのです」
「結局のところ、コラボレーションはインスピレーションがなければうまくいきません。オフィスはこれまでもこれからも『インスピレーションが得られるかどうかの試金石』であり続ける必要があります」
(翻訳:渡邉ユカリ、編集:大門小百合)