今回は、読者の方からのご相談にお答えします。
「メーカーの技術関連職」から「漫画の編集」へと大きなキャリアチェンジの転職を目指す20代の男性。出版社へ応募しているものの、うまくいかないようです。
「狭き門」と言える職種への、未経験からの挑戦。このような転職を実現させるためには、どうすればいいのかをお話しします。
まず「異なる業界・職種への転職」は、難しいことではありません。
転職エージェントサービス「リクルートエージェント」において2009年~2018年度の転職決定者を分析した調査によると、「異業種×異職種」への転職を果たした人は20代前半で5割強、20代後半で4割弱に達しているというデータがあります。チャレンジしてみる価値はあると思います。
ただし、「出版社での漫画の編集職」は、未経験から目指すにはかなりハードルが高いと言えます。一足飛びで就くのは難しいでしょうね。
そこで、「少しずつ近づいていく」プランを立てることをお勧めします。
山に登ろうとする時、いくつもの登山ルートから自分に合うルートを選択するのと同様に、山の頂上にある「漫画の編集職」を目指し、いくつかの登り方を検討してみましょう。ここで特にお伝えしたい2つのポイントをお話ししますね。
1. 転職しなくても「業界に片足を突っ込む」ことはできる
Aさんの場合は、まず何かしらの形で漫画に関わる仕事を探してみてはいかがでしょうか。
例えば、コミックサイトを運営する企業、漫画を活用した広告や販促ツールを手がける企業、漫画家の活動を支援する企業などがあります。
そのような企業で経験を積み、漫画のマーケットの知識を身につけたり、漫画家さんとのネットワークを築いたりすれば、書類選考通過のレベルへ達するかもしれません。
転職サイトでは、フリーワードを入力して求人を検索することもできます。「漫画」で検索し、漫画に関われる求人を探してみてはいかがでしょうか。
また、転職しなくても、漫画に関する知見・経験を深めることはできます。
今はSNSを通じ、漫画関連のコミュニティに参加することも容易にできますよね。
漫画が好きな人のほか、漫画に関するプロやセミプロなどが集まる場所で、人脈を作るところから始めてはいかがでしょうか。
イベントなどの情報も入手できるでしょうから、サポートスタッフに手を挙げて参加するのも手だと思います。チャンスがあれば、仲間に呼びかけて自分で仕掛けてもいいでしょう。
そうした活動がSNSで話題になるなどすれば、それは漫画業界での「実績」となります。
漫画編集職に応募する際、職務経歴書の自己PR欄などに記載しておけば、「話を聞いてみたい」と面接に呼ばれる確率が高まるでしょう。
このように、未経験の分野を目指す場合は、入っていきやすいルートから関わっていき、その世界での知見・経験・ネットワークを広げていきましょう。
だんだんと道が拓けて、目指す頂上が見えてくるかもしれません。
2. 「目指す目的は何なのか?」に立ち返ってみる
Aさんに、一つ問いかけたいことがあります。
「なぜ漫画編集者を目指すのですか?」
そこには、「好きだから触れていたい」だけにとどまらない理由があるのではないですか?
漫画編集者になることが目的ではなく、漫画編集者になって実現したい世界があるのではないでしょうか。
その原点に立ち返ってみることが大切だと思います。
仮の話をしますが、漫画を好きな理由が、「子どもの頃、つらい思いを抱えている時に、漫画の主人公から元気をもらった」だとしましょう。
すると、「自分も漫画を発信する立場に立って人を元気にしたい……」という思いが心の奥にあるのかもしれません。
だとすれば、「人を元気にする」という目的は、漫画の編集職に就く以外に、実現できる方法がいろいろあるはずですよね。
世の中には、難易度が高い夢や目標を追いかけて、それがなかなか叶わず、心が折れてしまう人もたくさんいます。
その方々に、私はこう伝えたいのです。
「人生の目的を突き詰めてみると、他にも実現できる手段はあるのではないですか?」
以前、こんな女性にお会いしました。
「SDGs(持続可能な開発目標)の活動に携わりたい」と転職活動を開始。ひたすら「SDGs」をキーワードに求人を探していらっしゃいましたが、彼女のキャリアでは応募できる求人が見つからず、苦戦されていたのです。
彼女の根底にあったのは、「社会に貢献したい」という思い。それを目的とするなら、「SDGs」のプロジェクトでなくても社会貢献を実感できる事業や業務はたくさんありますし、彼女が受け入れられる求人もたくさんあります。
このように視野を狭めてしまうと、本当にやりたいこと・実現したいことから遠のいてしまいます。
それに、憧れている業種・職種について、自分の中で描いているイメージは、現実とは異なるケースも多いものです。
このように偏った考えに陥らないようにするためには、キャリアカウンセリングを受けるなどして客観的な視点を取り入れ、目標を見つめ直してみることをお勧めします。
ただし、キャリアカウンセラーによっては、相談者の夢や目標に寄り添うあまり、さらに選択肢を狭める方向へ促してしまうケースも見られます。違和感を抱くようなことがあれば、同業にあたる企業は複数ありますので、別のキャリアカウンセラーとの対話の機会をつくることをお勧めします
ぜひ、「視野を広げてくれる」第三者と対話してみてはいかがでしょうか。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひこちらのアンケートからあなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合があります。
※本連載の第60回は、9月13日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。