楽天傘下の楽天ペイメントは「楽天ペイ」の加盟店が負担する決済手数料に関してキャンペーンを発表した。
出典:楽天
コード決済代表格とも言えるPayPayに、楽天の「巻き返し」は果たして効果があるだろうか?
楽天は8月25日、キャッシュレス決済「楽天ペイ」について加盟店および消費者向けの新キャンペーンを発表した。
概要は以下の通り。
消費者向け:
消費者向けキャンペーンは2つあり、1つは楽天モバイルとのコラボになる。
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- 2021年10月1日から31日まで、キャンペーンにエントリーした楽天ペイユーザーの中から、抽選で500名に当月決済分と同額の期間限定の楽天ポイント(上限1万円相当)を付与。同様のキャンペーンは2022年9月まで毎月実施予定。
- 2021年8月25日から11月1日まで、キャンペーンにエントリーし、楽天モバイルの「Rakuten UN-LIMIT VI」に加入、開通後にRakuten Linkアプリを用いて10秒以上発信をすると、当月と翌月の楽天ペイ決済分の20%の期間限定の楽天ポイント(上限1000円相当)を付与。
加盟店向け:
- 2021年10月1日から2022年9月30日まで、年商10億円以下の加盟店が新規申し込みをすると、店舗提示型のQRコードによる決済手数料(通常3.24%〜)と月1回の振込手数料(通常330円税込)を実質0円に(それぞれ手数料分をキャッシュバック)。
PayPayが有料化する中、楽天は1年間“逆行”
楽天ペイはコード決済以外も幅広い決済手段や原資の入口を持つ。
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2020年6月末で終了した経済産業省主幹の「キャッシュレス・消費者還元事業」の前後に、日本にはさまざまな決済サービスが生まれ、成長した。
楽天ペイについては、2016年にコード決済(バーコード+QRコード)をスタート。その後グループ内の共通ポイント「楽天ポイント」や電子マネーの「楽天Edy」を統合。2020年にはJR東日本と連携した通称“楽天Suica”の提供も始めている。
楽天ペイの加盟店マーク。
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今回の施策はいずれも実店舗でのコード決済、もっと詳細に言えば、「楽天と直接契約し、印刷したQRコードを掲示する中小規模店舗」への強化施策になる。
コード決済業界では今、この中小規模店舗向けの手数料がホットな話題となっている。これはPayPay(と今後コード決済では統合されるLINE Pay)は8月19日に、無料で提供していた決済手数料を10月から1.98%に変更すると発表した影響が大きい
PayPayはもともと10月以降に決済手数料の有料化を予告しており、競合する各社の動きは注目されていた。その中での楽天ペイの「1年間限定の無料化」は、他社を意識した刺激的な発表に見える。
中小のお店に「1年間無料」は響くか
楽天ペイメントの楽天ペイ事業本部で本部長を務める小林重信氏。
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ただ、筆者の目には、楽天の目論見はやや甘い部分があるのではないか、と感じる面もある。
25日に実施されたキャンペーンに関する記者説明会で、楽天ペイ事業本部 本部長の小林氏は「(日本全国の中小規模の)全てのお店さまに申し込みいただけると思う」と自信を見せた。
一方で、前述のようにPayPayをはじめとする複数の事業者が、既に「一定期間は決済手数料無料」をうたってきた。今、いずれのキャッシュレス決済も入れていない店舗は、そんなキャンペーンになびかなかった「意思や事情のある店舗」と考えるのが自然だ。
その事情はいくらでもある。有料化後の手数料の負担が気になるのはもちろん、消費者側も含めた会計フローの煩雑化などが代表的だ。
今回発表された施策は、単に「決済手数料の実質無料」をうたうだけに見える。そのような店舗の背中を押すだけの説得力があるのかは未知数だ。
PayPayは日本最大規模と言えるユーザー数、コード決済の加盟店数を持つ。
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また、代表格であるPayPayがその加盟店数を急増させたのは、手数料無料施策よりもソフトバンクグループが持つ強力な営業部隊を投入したから、とも言われている。
楽天ペイの本施策の営業について、小林氏は今までの営業活動に加え「楽天グループのさざまな媒体でメッセージを届ける」としており、インターネット中心の活動を強化していく旨を示していた(そもそも楽天と直接契約する加盟店でないと、このキャンペーンの対象にならない)。
キャッシュレス決済は「店舗のDX」に寄与できるか
店舗が手数料を払って楽天ペイを使うメリットは?
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今まで無料だった決済手数料が有料になれば、加盟店は継続・中断について検討するだろう。今までどおり利用し続けてもらうには、決済手数料以上の“価値”が必要だ。
PayPayの場合は、キャンペーンなどの対策のほかに、「PayPayマイストア」と呼ばれる加盟店向けツールの強化により、クーポンやメッセージ機能などによって、新規顧客の開拓、リピーターの定着を狙えるよう、店舗のDX促進させる。
では、楽天ペイはどうか?
小林氏は楽天ペイの最も大きな導入メリットは「(楽天経済圏にいる)優良なお客様を(店舗に)集客できる」点だと語る。
加えて、8月26日からユーザーが使う楽天ペイアプリをアップデートし、クーポンの獲得や店内でチェックインをして特典がもらえる機能を内蔵させる。こうした消費者向けの機能拡充が、加盟店の利便性向上やDX促進に寄与する、とする。
消費者向けの楽天ペイアプリは、多機能な「スーパーアプリ化」していく。
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ただ、楽天ペイの新機能は楽天のその他のサービスによって実装されており、加盟店側からは楽天ペイとは別のサービスであることに変わりない。
また、LINEを傘下におさめるZホールディングス(PayPay)対抗と考えると、やや周回遅れ感も否めない。店舗と顧客をつなぐメッセージや通知機能などがないからだ(楽天広報は「今後検討する」としているが)。
エントリーした楽天ペイユーザー向けの還元策における楽天側の負担も、単純計算で月間最大500万円、年間でも最大6000万円相当だ。他社の1カ月〜2カ月程度で“億”単位の還元施策と比べて、やや弱腰な姿勢に思えてならない。
今後、街中で楽天ペイの加盟店シールを見かける機会は増えるのか。楽天の手腕が問われる。
(文・小林優多郎)