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AEDとテレワークをめぐる意外な現実、「医療MaaS」の未来…ヘルステック最前線

フィリップスのAEDと医療MaaS

編集部

フィリップス・ジャパンは、9月から家庭向けのAED(自動体外式除細動器)「ハートスタートHS1 Home」を日本市場に導入する。

在宅時間が増える中、自宅へのAEDの設置を推し進めることで、「安心、安全な社会のスタンダードモデルを作っていきたい」と、フィリップス・ジャパン社長の堤浩幸氏は言う。

フィリップスは近年、複数のパートナーとともに「医療×MaaS」を実現する、ヘルスケアモビリティ事業にも取り組む。同社が描く、新たな日本のヘルスケアにおける「スタンダードモデル」とはどのようなものか。堤氏に聞いた。

AEDとテレワークをめぐる「複雑な現実」

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9月から発売予定の家庭用AED「ハートスタートHS1 Home」。一般家庭向けのAEDは非常に珍しい。予想実売価格は20万円以下の予定だ。

撮影:竹井俊晴

—— 家庭向けのAEDとして9月から「ハートスタートHS1 Home」を発売されます。なぜ今、「家庭向け」が必要なのでしょうか。

堤浩幸氏(以下、堤):心臓に関わる院外心肺停止は日本で年間7万8千件発生しており、さらにコロナ禍で在宅時間が長くなっています。

すでにAEDが必要なシチュエーションの66%ほどが、「実は家の中」だというデータもあることはご存知ですか。(新しい生活習慣の中で)今、「本当にAEDが必要な場所はどこか」と考えたときに、“家”が抜けていると気づいたわけです。

ニューノーマル社会では以前に比べて家の重要性が高くなっています。家庭向けAEDの有効性もこれからますます高くなると思います。

—— AEDをオフィスや公共の場所に備え付けるだけでは足りない社会になった、と。どれくらいの密度で、家庭に普及すると考えていますか。

フィリップス・ジャパンの堤浩幸社長

フィリップス・ジャパンの堤浩幸社長。NEC、シスコシステムズ、サムスン電子ジャパンなどを経て、2017年に現職。1962年生まれ。

撮影:竹井俊晴

堤:私たちが目指したいのはたとえば、消火器のような世界です。消火器もAEDも、いざというときに備えるものです

消火器も昔は高価で、どこの家にもあるものではありませんでした。が、今ではホームセンターなどでも購入できますし、多くの家庭がお持ちになられている。将来的にはAEDにもそうなって欲しい。

そのためには(設置の)ガイドラインのようなものや、ナレッジ(活用の知識)も必要です。

—— 月額いくらで設置する、というようなビジネスもありえますか?

堤:売り切りだけではない、サービスモデルを、パートナー(企業)さんと一緒に提供することも考えています。

もちろんAEDを使う機会はない方がいいんです。けれども、いざというときがきたら最初の数分間が勝負になるのも事実です。安全な社会を作るという意味でも、家庭用AEDの発売は大きな一歩ではないかと思います。

地域医療を変える「医療MaaS」とは何か

ソフトバンク傘下のMONET Technologiesと協業して作っている医療MaaS車両

ソフトバンク傘下のMONET Technologiesと協業し、動く病院(移動診察車)としての機能を持つ車両を開発。写真は長野県伊那市で実証している車両。

写真協力:フィリップス・ジャパン

—— もうひとつ、近年、フィリップスが実証を進めている分野に、医療機器と医師を乗せて運ぶ、いわば動く病院「医療MaaS(Mobility-as-a-Service)」の取り組みがあります。訪問診療との違いは?

堤:訪問診療は病院が患者さんのために提供するサービスですが、我々のヘルスケアモビリティは、診断、治療だけなく、“予防からホームケアまで”一気通貫で使えるものを目指しています。

予防のための健診から、診断や治療も提供できる。こうしたさまざまなニーズにフレキシブルに対応できるのが、従来の「訪問診療」とは異なる点です。

医療行為として提供するものと、医療の範疇ではないもの、両方をミックスしたサービスを「医療MaaS」を通じて提供できるわけです

解説:フィリップスはMONET Technologiesが設立した「MONETコンソーシアム」に参画。自宅から医療機関までの移動の困難さを解消することを目指し、「行く病院から来る病院へ」をコンセプトに、医療機器などを搭載した特殊な車両(ヘルスケアモビリティ)の開発、実証実験に取り組んでいる。

長野県伊那市では、医療モビリティが患者のもとにやってくる「モバイルクリニック」の実証実験、青森市ではモビリティを活用した簡易ヘルスチェックなど「予防サービス」の実証実験を実施している。

地域医療をめぐる「隠れたコスト」

地方都市における医療MaaSのメリットは、地域医療の充実以外の、少子高齢化社会で解決する必要がある「見えづらいコスト」の課題解決にもつながる、と堤氏は言う。

堤:患者さんが高齢だったり、自宅から病院までの距離が離れている場合、通院はタクシー代などの「移動コスト」も(地域の)負担になります。自治体によっては、現実問題としてすでに片道5000円といったタクシー代を、考慮しなければいけない実情があります。

「医療MaaS」は、患者さん本人の負担を減らすだけでなく、地域の財源という観点でも、また離れて暮らす家族にも安心を提供できます。

医療MaaSによる遠隔医療の再現写真

伊那市で実証中の医療MaaS車両の内部。写真は、リモート会議ツールを使うなどして遠隔診療を再現しているところだ。

写真協力:フィリップス・ジャパン

堤:もう1つポイントですが、「医療MaaS」を運営する主体は、必ずしも「病院」である必要はありません。病院がモビリティを保有して診療することもあると思いますが、先ほどお話ししたように、診療だけでなく予防からホームケアまで一気通貫でということであれば、病院の範疇だけではなくなります。

(例えば)自治体や企業、地域社会(ソサエティ)などいろいろなところがオーナーシップを取っていい。いま実証実験では、企業、自治体、医療従事者が三位一体でやっているパターンが多いですが、これからはいろんなパターンが出てくると思います。

「いらないものを捨てること」「できるだけシンプルに考えること」

—— 「医療MaaS」の立ち上げにあたっては、比較的若い社員たちが関わっていると聞いています。若手社員は、どのようなモチベーションで取り組んでいるのでしょうか。

堤:常に言っているのは、今やらないと将来、「(現場をリードしている社員のような)若い人達が困るよ」ということです。誰のためにやるのか、患者さんのため、病院のため、社会のため、いろんな側面がありますが、「自分達の世代のため」でもあるんです。

特に将来のために今やらなければいけないのは、ルール作りです。

たとえば「医療MaaS」に関連する省庁だけでも、厚労省(医療)に国交省(車両)、経産省(民間ビジネス)に総務省(通信)とたくさんあり、ルールづくりは簡単ではありません。

でも、ルールがなければ先に進めない。

「医療MaaS」を推し進めていく上で何より重要なのは、そのベースとなるスタンダードモデルを作ることです。そのためには「いらないものを捨てること」「できるだけシンプルに考えること」です。

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