世界規模で進む電気自動車(EV)シフト。テスラの元車載電池エンジニアは、このまま需要が伸びると電力網が破たんすると懸念、自らスタートアップを立ち上げた。
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アニル・パルヤニはテスラに勤務してインスピレーションを得ただけでなく、近年はそれを活かしてオートモーティブパワー(Auto Motive Power、AMP)を創業するに至った。
テスラでの経験を刺激に彼が取り組んでいるのは、何をつくるにしても少しでも良いものに仕上げることだ。
「テスラ、あるいはテスラ以上に素晴らしいテクノロジーを世界中に届けるため、私たちに何ができるのか。そんな想いがAMPのモチベーションになっています」
パルヤニは、イーロン・マスク率いるテスラにシニアエンジニアとして5年勤務し、『モデルS』や『ロードスター』の車載電池(マネジメントシステム)アルゴリズム開発に携わった。
AMPを立ち上げた現在は、自動車メーカーやスタートアップ向けに電気自動車(EV)の充電およびエネルギーマネジメントソリューションを開発している。
テスラで車載電池部門のエンジニアとして5年半勤務した、オートモーティブパワー(Auto Motive Power、AMP)のアニル・パルヤニ最高経営責任者(CEO)。
AMP
パルヤニと最高執行責任者(COO)のマイケル・ライスは2017年、ロサンゼルスを拠点にAMPを共同設立。自動車メーカーとの連携を通じて車載用の充電ハードウェアを、また電力会社と連携してEVのエネルギー消費を最適化するソフトウェアを、それぞれ開発している。
地球規模でEVの普及拡大が進むなか、電力網のキャパシティに大きな懸念が生じており、AMPの取り組みはきわめて重要な意味を持つ。
また、残量推定や異常検知など車載電池のマネジメント技術は、自動車の安全性向上にも大きな役割を果たす。電池の状態をより詳細に監視できれば、オーバーヒートなどの故障が発生しにくくなるからだ。
市場拡大の勢いを増しつつあるEVエネルギーマネジメント市場に参入を図る企業が、AMPを含め相次いでいる。米市場調査会社ガイドハウス・インサイツによれば、同市場では人工知能(AI)の活用が進み、2029年には27億ドル(約2970億円)規模に成長するという。
「現在のEV市場は、かつてiPhoneが爆発的に売れた時期を彷彿(ほうふつ)とさせます。異なるのは、欲しい人全員が明日にもEVを購入して乗り回したら、電力網が崩壊してしまうということです。そうなる前にいますぐ手を打たなくてはなりません」(パルヤニ)
30件以上の特許を保有し、自動車業界で30年近い経験と実績を積み上げてきたパルヤニ。そのキャリアをスタートさせたのはホンダで、EVおよびハイブリッドEV向け車載電池の実用化に向けた試験・分析に携わった。
その後、冒頭の通りテスラで車載電池マネジメントアルゴリズム開発をおよそ5年半担当。
2014年末には米カリフォルニア州のEVスタートアップ、ファラデー・フューチャー(Faraday Future)に移籍。最初は車載電池・充電部門、次いで電気工学アーキテクチャおよびソフトウェア開発部門を率いた。
現在は自ら創業したAMPの最高経営責任者(CEO)を務めるパルヤニにとって、テスラは、バッテリーマネジメント分野における自社の取り組みの「物差し」になっているという。
「良くも悪くも、テスラというブランドはすでに確立されています。テスラはベンチマーク(=性能などを測定する基準)なのです。
車載電池マネジメントと充電の分野で世界をリードするサプライヤーとなり、テスラのEVを凌駕するほどの圧倒的なプロダクトを世に送り出すにはどうしたらいいか。私たちはいつもそんなふうに考えています」
AMPは顧客名を公表していないが、すでに世界各地に拠点を広げており、「カリフォルニア州に拠点を置くあらゆる大手自動車メーカー」(パルヤニ)に加え、ミシガン州デトロイト、ヨーロッパ、アジアの企業も取引先に含まれている模様だ。
パルヤニはテスラを目指すマインドセットに常に立ち返ることを忘れない。
「テスラを目指す企業は世界中にいくらでもありますが、『テスラのようなサプライヤー』を目指す企業は、さすがにそんなにないのでは?」
(翻訳・編集:川村力)