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「気温1.5℃上昇、10年早まる」報道の本質的な誤解。気候変動危機の実態を知る「9つの論点」【IPCC報告書】

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「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第6次評価報告書は、世界で大きな衝撃をもって受けとめられた。

Shutterstock.com

世界に衝撃を与えた「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第6次評価報告書。

8月9日に公表されたこの報告書については、日本でも「気温が1.5℃上昇する時期が10年早まった」と複数のメディアが報道し、話題と不安を呼び起こした。

IPCCは、気候変動に関する最新の科学的知見を評価する国連機関で、およそ6〜7年ごとにその成果を公表している。今回の報告書は、気候科学分野における最新の研究に関して評価した内容だ。

報告書のなかで、IPCCは、2021〜40年の間に地球の平均気温が産業革命前と比べて1.5℃上昇すると予測している。

この結果について、日本の複数のメディアが、2018年に公表されたIPCC「1.5℃特別報告書」(以下「2018年報告書」と呼ぶ)の予測と比べて「10年も早まった」と警鐘を鳴らした。

比較不可能な数字を比較している

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地球環境戦略研究機関(IGES)の田村堅太郎プログラムディレクター。

撮影:湯田陽子

しかし、専門家に話を聞くと、この「10年早まった」という解釈はどうも事実と違うようだ。

今回の報告書は、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出量が、将来的に「非常に多い」「多い」「中間」「少ない」「非常に少ない」状況となる5種類のシナリオを想定したうえで、「2021~2040年」「2041~2060年」「2081~2100年」という、それぞれ短・中・長期的予測に相当する期間について、平均気温の推移を分析している。

日本の環境政策シンクタンク、地球環境戦略研究機関(IGES)のプログラムディレクター・田村堅太郎氏は、2018年報告書を引き合いに出しつつ、以下のように説明する(以下、コメントはすべて田村氏)。

「今回の報告書では、温室効果ガス排出量が『非常に少ない』シナリオの場合、2025〜2044年(中央値は2034.5年)に1.5℃に達するとしています。

一方、2018年報告書も(今回とは異なる)複数のシナリオを想定して分析を行っており、今回の『非常に少ない』シナリオに近い条件だと、2035年に1.5℃に達するとの結果が出ています。

いずれも2035年前後ということです。評価方法を揃えると、予測は大きく変わっていないことがわかります」

では、なぜ日本のメディアは「10年早まった」と報じたのだろうか。

今回の報告書では、最初に述べたように、短期的な将来予測に相当する期間として(2018年報告書にはなかった)「2021〜2040年」を分析対象としているが、それが誤解を生む原因となったようだ。

「2021〜2040年という期間は(短期的な将来を予測するターゲット期間として)便宜的に区切られたもので、気温上昇が1.5℃に達するのはいつなのかを予測する目的で設定された期間ではありません。

わかりにくいのですが、あえて端的に説明するなら、2018年報告書の『2030〜2052年に1.5℃上昇』という結論と、今回の報告書の『2021〜2040年』を対象とした短期予測の結果は、単純に比較できないし、してはならないのです」

田村氏の言うように、2018年報告書と比べて気温上昇が特に加速しているわけではないとすると、今回の報告書が世界中に衝撃を与えたのはなぜなのか。

これまで可能性として語られてきた『人為的な温暖化』が、もはや紛れもない事実であると断定されたことが大きいと思います。

確実なデータに依拠しない限り、研究者は断定を嫌うものですが、今回は報告書の執筆に加わったたくさんの研究者が断定している。つまりはそれだけの根拠が判明したということで、非常に重い意味があります」

今回の報告書の執筆には、66カ国から200人以上の研究者が(日本からの10人を含め)参加した。

執筆者のひとり、国立環境研究所・地球環境研究センター副センター長の江守正多氏によると、1万4000本の論文を引用し、3回の査読を経てまとめられている。

さらに、執筆者以外の世界中の研究者や各国政府から寄せられた7万8000ものレビュー(疑問・指摘など)すべてに対応し、その内容を公開しているという。

IPCC第6次評価報告書第1作業部会の概要について、国立環境研究所の江守正多氏が解説した動画。

National Institute for Environmental Studies YouTube Official Channel

そのように世界の科学的知見を凝縮した報告書だが、日本では残念ながら「1.5℃の気温上昇が10年早まった」という誤った認識にあおられて話題を呼ぶ形となってしまった。

以下では、今回の報告書に盛り込まれた「真に注目すべきポイント」を、田村氏の解説をもとにまとめた。

【Q1】今までと何が違う?

【A1】人間が温暖化を引き起こしてきたことは「疑う余地がない」と断定

重要なのは、「温暖化は、人間の活動が原因で起きている」と断言したこと。

これまでの報告書をふり返ると、人間の活動が原因かどうかについて、2001年の第3次報告書は「可能性が高い」、2007年の第4次報告書は「可能性が非常に高い」、2013年の第5次報告書では「可能性がきわめて高い」という可能性の表現にとどまっていた。

それが、今回の報告書では「人間活動の影響が大気、海洋および陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。大気、海洋、雪氷圏および生物圏において、広範囲かつ急速な変化があらわれている」との断定に変わった。

【Q2】現在は、一時的に「温暖期」となっているだけなのでは?

【A2】研究・分析の精度が向上し、前例のない気温上昇であることが明らかに

地球がどの程度温まりやすいか、また熱波などの極端な気象現象に温暖化がどの程度影響しているのかなどについて、より説得力のある科学的知見が集まり、シナリオについても精緻な分析が可能になっている。

IPCC報告書に対する懐疑派や対策否定派の論拠のひとつに、「中世の欧州は温暖期だった。現在もそうした一時的な温暖期の可能性がある(から、排出削減対策は不要)」というものがある。今回、欧州は温暖期だったが、世界的にはそうではなかったことが明らかになった。

そうした過去の現象についても、地球全体について、より長期間の評価が可能となったことで、以前に比べてさらに正確に分析できるようになり、現在の気温上昇は「何世紀も何千年もの間、前例のなかったもの」との指摘に至った【図表1】。

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【図表1】地球の平均気温の変化(西暦1年から2020年まで)。過去に前例のない気温上昇であることが明らかだ。

出所:AR6 Climate Change 2021:The Physical Science Basis(Summary for Policymakers)

【Q3】産業革命前に比べて、現時点で何度上昇した?

【A3】1.09℃(1.5℃到達まであと0.41℃)

地球の平均気温は、産業革命前(1850〜1900年の平均)に比べ、2001~2020年(20年平均)で0.99℃上昇したことが判明。直近の2011~2020年(10年平均)に限ってみると1.09℃上昇し、観測史上最も暑い10年間だった。

国連の世界気象機関(WMO)によれば、2020年は2016年と並んで観測史上(1880年以降)トップタイ。

また、産業革命前に比べると、2010~2019年(10年平均)に観測された気温上昇が1.06℃だったのに対し、同じ時期の「人為的影響による」気温上昇は1.07℃にのぼったというシミュレーション結果が明らかにされた【図表2】 。

これは、人間の活動の影響で温暖化が進んだことは疑う余地がないと断定した根拠になっている。

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【図表2】1850〜2020年に観測された地球の年平均気温の推移と、人為的要因と自然起源要因を合わせた推計値(茶色)、自然起源要因のみを考慮した推計値(青色)。

出所:AR6 Climate Change 2021:The Physical Science Basis(Summary for Policymakers)より筆者作成

【Q4】今回のシナリオ分析で気温上昇が1.5℃に達するケースは?

【A4】どのシナリオでも2040年までに1.5℃上昇する

5種類のシナリオすべてにおいて、2040年までの間に1.5℃上昇するという結果になった(本稿前半で述べたように、2018年報告書の結論より10年前倒しになったと考えるのは誤解だ)。

ただし、温室効果ガスの排出量が「非常に少ない」シナリオでは、短中期的(2021〜2060年)にいったん1.5℃を若干超えるものの、長期的(2080〜2100年)には1.5℃以内に抑えられると、報告書は予測している【図表3】。

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【図表3】気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第1作業部会第6次評価報告書で公表された5つのシナリオ。

出所:AR6 Climate Change 2021:The Physical Science Basis(Summary for Policymakers)より筆者作成

【Q5】温暖化によって、世界でどんな災害が起きている?

【A5】極端な高温、大雨の頻度・強度が増加。山火事のような複合災害も各地で発生

1950年代以降、高温に関する極端な現象(熱波など)と大雨が発生する頻度が高まり、強度も増している。また、高温と乾燥と強風が引き起こす山火事のような複合的な災害も世界各地で発生している。

報告書は「最近10年間に発生した高温に関する極端な現象のいくつかは、人間の影響なしで発生していた可能性が極めて低い」(=人間の影響で発生した可能性が極めて高い)と、その因果関係を指摘した。

【Q6】日本では、温暖化でどんな変化が起きている?

【A6】台風の勢力が、日本近辺で最大化する傾向にある

海面温度の上昇によって、台風の強度(勢力)がピークに達する「緯度」が北に移動してきていることが、観測結果から明らかになっている。

100人超の死者を出した西日本豪雨(2018年)は、気象庁の研究により「温暖化の影響が大きかった」ことが明らかになっているが、今回の報告書でも、この西日本豪雨を含めて「2018年の北半球の初夏に起きた一連の極端な現象は、人間の活動による地球温暖化がなければ起きなかっただろう」と指摘している。

【Q7】気温1.5℃上昇で何が起こる?

【A7】50年に一度起きていたレベルの猛烈な熱波が5〜6年間隔で発生

産業革命前までは50年に1度しか起こらなかったレベルの熱波が、気温が約1℃上昇した現在は4.8倍の頻度、つまり50年に5回程度起こる状況になっていると指摘。さらに、1.5℃まで上昇するとその頻度は8.6倍、50年に9回程度発生するようになると予測。

2021年にはカナダなどで50℃に迫る記録的な高温が観測されているが、そうした極端な熱波が現在の2倍の頻度で起こるイメージだ。

また、気温が1℃上昇すると1回の降水量が7%増えるという推計も明らかにされた。

【Q8】日本の対応は遅れている?

【A8】これまでは遅れていたが、ようやく動きが加速してきた

2013〜2014年にかけて公表された第5次評価報告書が、2015年末に開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)における、新たな法的枠組み「パリ協定」の採択につながった。

これによって、欧州を中心に、地球温暖化が社会の安定や企業活動に対する脅威だという危機意識が高まり、先進的な欧米の企業は企業戦略や投資戦略を練り直し始めた。欧州各国政府も、CO2排出量を実質ゼロにするために、産業構造の変化や産業の競争力を高めていく政策を打ち出している。

一方、日本企業は、政府が実質ゼロの達成時期をあいまいにしていたこともあり、欧米の先進的な企業に比べてスピード感がなかった。

例えば、2018年報告書を受けて世界の先進的な企業が2050年までの実質ゼロ・脱炭素化を目指し始めたころ、日本鉄鋼連盟は2100年までに鉄鋼生産の脱炭素化を目指すという遠大な長期ビジョンを発表していた。

しかし、2020年10月の政府による「2050年カーボンニュートラル宣言」を機に、産業界の動きもようやく加速してきた。

【Q9】対策が遅れるとどうなる?

【A9】対策の成果が現れるのは約20年先。悠長に構えていると取り返しがつかなくなる

現在の行動の結果(気温上昇・抑制)が如実にあらわれるのは、20年くらい先。今回の報告書は、気温上昇を1.5℃以下に抑えるため、世界のCO2排出量を2050年までに実質ゼロ、2℃以下に抑えるとした場合でも2070年ごろまでに実質ゼロにする必要があると強調している。

温暖化は一度始まるとすぐには止められないため、悠長に構えていると取り返しがつかない事態になることが、(明言こそされていないが)報告書の随所から読みとれる。

(取材・文:湯田陽子

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