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アフガニスタン再建の主導権握り始めた中国とロシア。タリバン統治の容認急いだ「真意」

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アフガニスタンを脱出するイギリス市民の安全確保・支援のために首都カブールに派遣された英軍部隊。突然のタリバン政権樹立に国内外で緊張が高まっている。

Ben Shread/RAF/UK Ministry of Defence 2021/Handout via REUTERS

米軍のアフガニスタン撤退をめぐり、バイデン政権に内外の批判が高まっている。

一方、中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領は8月25日の電話会談で、アフガン情勢の安定と再建に向け、両国が連携して主導権をとる意欲を示した

中ロが最も懸念するのは、イスラム過激派の国内流入によるテロのおそれだ。経済面を中心とする再建協力の見返りとして、両国はタリバンに過激派対策の徹底を求めている。

中国の王毅外相、タリバン共同創設者と会談

イスラム主義組織タリバンがアフガニスタンの首都カブールを制圧した8月15日、日本を含む西側諸国は大使館を閉鎖し、職員たちは先を争って国外に脱出した。

主要国で大使館を維持したのは中国とロシア、それにイランだけ。中ロともタリバンとの対話パイプを持ち、直接対話を続けている。

中国の王毅外相は7月28日、タリバンの共同創設者バラダル師と天津で会談し、新疆ウイグル自治区を拠点とする「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」への懸念を表明。

ETIMを「中国の安全保障と領土保全への直接的脅威」としたうえで、タリバンに「ETIMと一線を引き、地域の安全と平和発展のために積極的な役割を」と訴えた。

それに対しバラダル氏は「いかなる勢力も中国の領土に危害を与えることを許さない」と応じたとされる。

中国側の関心が「イスラム過激派勢力の国内流入阻止」にあることがみてとれる。

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7月28日、中国の直轄市・天津市内で会談した中国の王毅外相(右)とタリバン共同創設者のひとり、バラダル師。

Li Ran/Xinhua via REUTERS

ロシアもタリバンと意見交換、中国とは合同軍事演習

アフガニスタンの軍事支配に失敗した旧ソ連(=1979年に軍事侵攻、89年に撤退)の継承者、ロシアも事情は似たようなものだ。

アフガンの混乱が、タジキスタンやウズベキスタン、トルクメニスタンなど旧ソ連から独立した周辺国に広がるのを防がねばならない。

ロシア南部のチェチェン共和国で分離独立運動を展開するイスラム過激派が、アフガンの不安定化で活性化しかねないという「地雷」も抱える。ロシアはかつてタリバンがチェチェン独立派を支援したとしてテロ組織に指定している。

先述のバラダル師らタリバン代表団は7月8日、3月に続いてモスクワを訪問し、ラブロフ外相らと意見交換した。

また、過激派流入防止とテロ対策の徹底の両面で利害を同じくする中国とロシアは、イスラム教徒の多い中国・寧夏回族自治区で対テロ合同軍事演習(8月上〜中旬)を行っている。

中ロ首脳電話会談の中身

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アフガニスタンの首都カブール市内を巡回するタリバン兵たち。

REUTERS/Stringer

中ロの基本的なスタンスをみたところで、冒頭で触れた習・プーチン両氏の電話会談の内容を振り返っておきたい。

タリバンのカブール掌握以来、習氏がアフガニスタン情勢について公の場で言及したのは、この電話会談が初めてだった。

習氏が主張したのは以下の3点だ。

  1. 中国はアフガニスタンの主権、独立、領土の一体性を尊重し、内政に干渉しない
  2. アフガニスタンの各勢力が、開放的で包括的な政治構造を構築し、穏健で健全な内外政策をとることを希望
  3. (タリバンは)各種テロ組織との関係を完全に絶ち切る

一方のプーチン氏は、「外部勢力が政治モデルを強制する政策が機能せず、関係国に損害と大惨事をもたらしただけ」と、アメリカの軍事統治を批判。

さらに、「中ロ両国はアフガン問題で共通の立場と利益を共有している」と指摘し、以下のような取り組みを強調した。

  1. (中ロ主導の上海協力機構[SCO]など)多国間メカニズムに積極的に参加
  2. アフガニスタン情勢の円滑な移行を促進
  3. テロとの闘い、麻薬密輸の絶滅

こうしたやり取りをみても、中ロの主要な関心がイスラム過激派の国内あるいは中央アジアへの流入への懸念にあることがわかる。

中国共産党の機関紙・人民日報系の環球時報は、(タリバン首都掌握による)ガニ政権崩壊直後の社説で「我々は米軍撤退後に生まれた『真空』を埋めるつもりはまったくなく、他国の内政に干渉しないのが、常に中国外交の礎でもある」と、軍事介入の意思がないことを鮮明にしている

中国によるアフガン再建のイメージ

中ロ両国にとってもうひとつの大きな問題は、アフガニスタンの再建だ。

タリバンは欧米型ガバナンスの基本にある「国民国家」の枠組みを否定し、イスラム法を優先とする各勢力による「イスラム共同体」の再構築を目指すとされる。

女性への教育禁止や就労制限など具体的な政策については、習氏は「開放的で包括的な政治構造を構築、穏健で健全な内外政策を希望」と、「希望」にとどめている。具体的な政策について変更を迫るのは避けるだろう。「内政干渉」になるからだ。

タリバンは、米同時多発テロ(2001年)後のアメリカによる軍事作戦で政権崩壊する以前の1996年にも政権樹立を宣言しているが、当時承認したのはパキスタン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の3カ国だけだった。

今回は中国の華春瑩・外務省報道局長が記者会見(8月16日)で「アフガニスタンとの良好な隣人関係と協力を発展させる」と発言し、早々とタリバンによる統治を容認する姿勢を明らかにしている。

今後も、主要国では中国が最も早くタリバン政権を承認する可能性が高く、おそらくロシアもほぼ同時に承認に踏み切るだろう。

なお、中国のアフガン再建に向けた経済協力の具体的イメージをつかむには、中国が3月にイランとの間で調印した、経済と安全保障をめぐる25年間の包括的協力協定が参考になるかもしれない。

同協定の内容は、中国がエネルギー分野のほか鉄道、高速大容量の次世代通信規格「5G」などに投資し、イランが石油・ガス資源を中国に低価格で提供することが柱となっている。

アメリカは、地下深くの岩石層から天然ガスを採取することに成功した「シェール革命」によって、中東原油に依存する必要がなくなったこともあり、同エリアからの撤退を加速し、その資源を対中競争につぎ込む戦略に転換した。

中国はその後、アメリカ撤退後の空白を埋める形で、中東での影響力を急速に拡大している。

アメリカのアフガンにおける事実上の「敗退」は、グローバルリーダーからの脱落を一層鮮明にした。さらに、バイデン大統領が撤退の理由に「アメリカの国益」を強調したことで、民主、人権、自由を普遍的価値とする「価値観外交」の虚構性もあらわになった。

中国とロシアがそうしたバイデン政権の「つまずき」に乗じない手はない。

注目される「上海協力機構」の役割

アフガン再建で今後注目されるのは、中ロ主導の上海協力機構(SCO)の役割だ。

SCOには中央アジア諸国に加え、インドとパキスタンも加わり、アフガニスタンもオブザーバー参加している。テロを封じ込め、地域の安定化を図る本来の機能が発揮できるかどうかが問われる。

SCOは大まかに言って、以下のような3つの課題を抱えている。

  1. ソ連崩壊後の新たな国境管理
  2. テロリズム・分離主義・過激主義(三悪)への共同対処
  3. 石油・天然ガスなど資源協力

SCOはアフガン情勢をめぐり、7月14日の外相会議に続いて、9月10日にタジキスタンで首脳会議を開く予定だ。

インドのモディ政権がこの首脳会議で、アフガン問題で主導権を握りつつある中ロにどう対応するかも注目される。日米主導のインド太平洋戦略の中核を担う日米豪印4カ国首脳会合(Quad、クアッド)の命運を握るのもインドだからだ。

(文・岡田充


岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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