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「クラウド化で脱炭素」は本当か。AWSとマイクロソフト調査が示す、企業IT“CO2排出量削減”の効果(追記)

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Sundry Photography、yu_photo /Shutterstock

いまや、名だたる企業が「脱炭素」を意識せずにはいられない時代になった。

いかにして二酸化炭素(CO2)排出量を削減していくかは、企業にとって大きな経営課題だ。「ITシステムのクラウド化」はその解答のひとつになる可能性がある……それを意識させる発表があった。

アマゾン傘下でクラウドインフラ事業最大手のアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)は、第三者機関の調査による、「クラウド移行によるCO2排出削減効果」について試算を公開した。

アジア太平洋地域(APAC)を対象としたものだが効果は大きく、クラウド移行によってCO2排出量は「最大78%の削減が可能」だという。

実際にはどのような形で削減され、どこに課題があるのだろうか? また、AWS以外でも同じことは言えるのだろうか?

レポートを公表したAWS、そして競合であるマイクロソフト両陣営の関係者に取材した。

日本企業25%のクラウド移行で「32万8000世帯分」の削減効果

このほどAWSが公開したのは、アメリカのテクノロジー関連調査会社「451 Research」による調査結果だ。

調査対象は、オーストラリア・インド・日本・シンガポール・韓国の5カ国で売上高1000万〜10億ドルの企業515社。企業側が独自に物理的サーバー群を用意するITシステム(一般に「オンプレミス」と呼ばれる方式)を、クラウドに置き換えた場合のCO2排出量の変化をリサーチしたものだ。

結果は、AWSの言うように確かに大きなものであるようだ。冒頭でも述べたが、オンプレミスの環境からクラウドに移行することで、トータルでは78%ものCO2削減が可能になる計算だという。

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調査会社「451 Research」による、クラウド移行によるCO2排出削減効果。クラウド設備側で78%、さらに再生可能エネルギー調達により追加で15%のCO2排出削減となる。

出典:AWSの発表資料より

具体的には、年間電力消費量1MW(メガワット)あたりに換算すると平均1885トンのCO2排出量削減になるという。ちなみに、1MWではサーバーの消費電力としては2000〜4000台分にあたるという。

さらに仮定を重ねた値にはなるが、日本にある従業員250名以上の企業(約1万1000社)のうち、25%が1MW相当の処理をクラウドに移行した場合、日本の一般家庭32万8000世帯の1年分に相当するCO2排出量を削減することができるという。

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仮に日本企業の25%が1MW相当の処理をクラウド移行した場合、一般家庭32万8000世帯の1年分に相当するCO2排出量が削減される計算になる。

出典:AWSの発表資料より

マイクロソフトもクラウドによる「CO2削減効果」

クラウドインフラへの移行によるCO2排出削減は、AWSだけが主張しているものではない。AWSのライバルであるマイクロソフトも同様だ。

マイクロソフトが公開している「The Carbon Benefits of Cloud Computing: a Study of the Microsoft Cloud」(2020年版)という文書によれば、演算処理をクラウドに移行した場合、電力消費を48%〜21%削減できるとしている。オンラインでコラボレーション作業やファイル共有を行う「SharePoint」の場合、最大78%もの電力消費削減になるとする。

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AWSのライバルであるマイクロソフトのレポートでも、クラウド移行によるCO2排出削減効果は大きい、と意見が一致している。

出典:Microsoftの発表資料より

地域や利用状況によって削減効果は違うので、マイクロソフトのデータは非常に幅がある。とはいえ、クラウドインフラ事業者側の意見として、「クラウド移行が消費電力削減・CO2排出削減に有用である」というのは一致した主張であるようだ。

クラウド移行でなぜCO2を削減できるのか?

リサーチを担当した451 Researchは、算定の基準となる考え方を次のように説明する。

「1つはサーバーの省電力性能。エネルギー効率は、機器が新しく、サーバー数が多く、同じサーバーで動かす仕事の量が多いほど良くなります。

2つめはファシリティ。古い建物で、暑い環境にあるところほどエネルギー効率は落ちます。電力についても冷却についても新しい設備のほうが有利です」(451 Research、ケリー・モーガン氏)

クラウドインフラ事業者は、サーバーの運用効率や電力消費量削減が経営効率に大きく影響する。そのため、設備は積極的に更新される。個々の企業では短いサイクルでの技術革新にはコスト的な限界があるが、クラウドインフラ事業者はそうではない。

以下のグラフは、それぞれの国でサーバー施設がどのくらいの期間使われているかを調査したものだ。日本は51カ月と他国より長い。

クラウドインフラ事業者は24カ月程度のサイクルで設備を更新していくので、より新しく効率の良い設備が利用できる。

レポートの中でも、「日本は高効率だが、サーバー更新までの期間が長く、その結果としてクラウド移行で削減効果が大きくなる」とされている。

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APAC5カ国でのサーバー更新期間の調査。日本は一番長く、それが効率を落とす結果につながっている。

出典:AWSの発表資料より

導入側企業の意識も「コスト削減」だけでなく「CO2排出削減」に

AWSは、2040年までに自社サービス運用のためのCO2排出量を「実質ゼロ」にすることを目標としている。

ただ、その道は簡単なものではない。

同社でアジア太平洋地域兼日本担当エネルギー政策責任者を務めるケン・ハイグ氏は、「実現までにはいくつかの課題がある」とも話す。

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AWSのアジア太平洋地域兼日本担当エネルギー政策責任者、ケン・ハイグ氏。

1つは「クラウド導入企業の協力」だ。

「我々はインフラ提供事業者としてエネルギー利用効率を高める努力をしています。しかし、それにも限界がある。だからこそ我々は、CO2排出量の少ないシステムを構築するためのさまざまなツールを用意し、(AWSの)利用顧客が自ら、持続可能なシステムを構築できるようにしています」(ハイグ氏)

インフラの上で動くサービスはまちまちであり、その構築手法も多様だ。使い方によっては「消費電力が下がらない」こともある。サービス構築の段階で消費電力低減・CO2排出削減を意識することが必須なわけだ。

現在は、導入の段階でAWS側のコンサルタントがエネルギー消費削減を想定したアドバイスをしている。またAWS利用顧客の側からも「CO2排出削減のためにどのようなシステムを構築すればいいか」と問われることも増えているという。

ただし、ノウハウやツールは「そもそもCO2排出削減を目的に作られたものではない」とハイグ氏は言う。

クラウドでは利用量が無駄に大きくならないよう、不要な処理を減らすことが重要になる。前述のツールはもともとそのためのものだ。

それが「無駄な処理を減らす」という点においてCO2排出削減にも有効だ、ということになり、CO2削減のツールとしても使われるようになった経緯がある。

(2021年8月30日 15:15追記)

では、具体的に各企業へ導入したとして、実際にどれだけCO2削減となるのか? その数字については、事例によって変わる傾向があるのが課題だ。

AWSもテストケース的な事例の数字は公開しているものの、顧客それぞれで実際にCO2がいくら削減できるのかについては、「顧客側に回答するかどうか含め、現状コメントできない」(AWS広報)としている。

アジアでの「再生可能エネルギー取引」促進が課題

残る課題は「再生可能エネルギーの利用」だ。

CO2排出量実質ゼロを実現する前に、AWSは2025年を目標に、「全社で利用する電力のすべてを再生可能エネルギーで賄う」ための準備を進めている。これは、他事業者から再生可能エネルギー由来の電力を購入する分も含まれる。

問題は「再生可能エネルギーの購入市場は地域差が大きい」(ハイグ氏)ということだ。アメリカなどは取引が容易な地域だが、日本を含むアジア太平洋地域は取引市場・制度が未成熟な部分がある。

「日本を含む困難がある地域も含め、パートナーと共に利用を拡大していきたい」(ハイグ氏)

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AWSは「APACは再生エネルギー調達が難しい市場」と名指し、改善への取り組みを進めている。

出典:AWSの発表資料より

(文・西田宗千佳

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